1914(大正3)年1月12日の大正大噴火から110年
「火山防災トップシティ構想」を策定
鹿児島市(下鶴隆央市長)は、火山防災を専門的に研究する「桜島火山防災研究所」を2025年度に設置する方針を、1月30日の下鶴市長記者会見で明らかにした。
「桜島火山防災研究所」は、スタッフに火山防災の専門家を起用し、普段は大規模噴火時の避難方法の研究や火山防災教育、災害時は避難などでの助言や市民の避難につながる研究を行う組織を想定している。市区町村が火山防災を専門にした研究所を設置するのは、全国で初めて(県施設では、山梨県富士山科学研究所と神奈川県温泉地学研究所がある=後述)。研究所は市役所の庁舎内に25年度に設置する方針だ。
桜島は北岳と南岳からなる複合火山で、現在は南岳が活発に活動している。歴史的に見ると、桜島はこれまで何度も大規模噴火を繰り返しており、記録が残されている大規模噴火では、天平宝字噴火(764年)、文明噴火(1471年)、安永噴火(1779年)、大正噴火(1914年)の4回が確認されている。
1914年1月12日の桜島大正噴火から本年は110年。火山研究者の見立てでは、「わが国で100年以上火山活動が平穏=大規模噴火がないのは異例」だという。大正噴火では、流れ出た溶岩等により桜島と大隅半島は陸続きになり、死者・行方不明者58名という甚大な被害が発生した。110年の節目を迎えるにあたり、鹿児島地方気象台は桜島の活動の歴史や観測体制、火山防災情報等について理解が深まるよう、年初にホームページ内に特設ページを設けた。
いっぽう、鹿児島市は2018年度に桜島噴火に備えて防災力の底上げを図る「火山防災トップシティ構想」を策定して研究所設置の検討を始めていた。おととしの2022年7月24日午後8時5分ごろ、桜島の南岳山頂火口で爆発的な噴火が発生し、噴石が2.4kmを超えて飛んだとされて噴火警戒レベルが初めて最も高い「5」に引き上げられたことや、23年6月の活火山法の改正で「火山の専門知識のある人材の確保が自治体の努力義務」となったことなどから、23年10月に研究所の設置検討を再開した。
▼鹿児島市「火山防災トップシティ構想」とは
桜島は近年も60年以上の長きにわたって火山活動を続けており、桜島と周辺地域の住民生活、農作物など各面にわたって大きな影響を与えている。この活火山桜島を有し、麓や対岸に合わせておよそ60万人の市民を擁する鹿児島市では、これまでハード・ソフトの両面から火山防災対策に取り組み、その充実に努めてきた。その結果、鹿児島市の火山防災への取組みは、長年の経験や実績に裏打ちされた実効性のある対策となっていて、これらをさらにブラッシュアップし、火山防災のモデルとして世界に発信し、国内外の火山災害の被害軽減に寄与するものとして、「火山防災トップシティ構想」が策定された。
「火山防災トップシティ構想」では3つの取組みの柱が設定されている――「大規模噴火でも『犠牲者ゼロ』を目指す防災対策」、「次世代に『つなぐ』火山防災教育」、「『鹿児島モデル』による世界貢献」だ。
▼山梨県富士山科学研究所(富士吉田市)/神奈川県温泉地学研究所(小田原市)
火山災害は、低頻度だが、火砕流や溶岩流、噴石、降灰といった噴出物だけでなく地震や地殻変動を伴うことや、降灰による土石流や泥流、融雪型火山泥流、山体崩壊や岩屑なだれ、またそれらによる津波といった複雑な災害現象を引き起こす。複雑な現象・情報量の少なさに立ち向かうには、研究開発によって知見や情報を積み上げる必要がある。
地方自治体設立による火山防災研究所として、富士山については「山梨県富士山科学研究所」(富士吉田市)が、富士箱根伊豆国立公園・箱根山については「神奈川県温泉地学研究所」(小田原市)が、それぞれ研究に携わっている。
〈2024. 02. 17. by Bosai Plus〉