浸水想定地域の浸水被害 「想定内被災」は想定外か
浸水想定地域で増える居住人口
確実に高まる災害リスク―“災害資本主義”?
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●台風13号とその熱帯低気圧が各地に大雨をもたらした…
浸水想定地域での人口増(浸水被害増)リスクが明らかに
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台風13号は去る9月5日、沖縄県の南西海上で発生、その後北北東へ進み、8日午前には伊豆諸島の南東海上に達し、午後には静岡県の南東海上を通過。8日午後9時には熱帯低気圧に変わった。本州に上陸することはなかったが、その後、関東地方の南部をかすめて茨城県の南東沖から太平洋へ抜けた。台風としての影響は少なかったが、熱帯低気圧は東海や関東では大雨や強風、土砂災害、高波などの被害をもたらし、9日午前6時には北海道の東方を北東へ進んだ。さらに9日から12日にかけて低気圧の影響で東北や北海道では大雨となっている(9月12日現在)。
台風13号は、中心気圧が980ヘクトパスカル、最大風速が25m、最大瞬間風速が35mという強さで台風としては大型ではなかったが、台風周辺や台風本体の雨雲が広く発達しており、伊豆諸島で線状降水帯が発生するなど、非常に激しい雨が降った。
気象庁によると、8日から9日にかけての24時間降水量は、伊豆大島で472mm、八丈島で371mm、三宅島で306mmとなり、いずれも観測史上最大の値を更新した。また、静岡県では御前崎で210mm、神奈川県では小田原で191mm、茨城県では鉾田で185mmとなったほか、各地各所で観測史上1位の値を更新、あるいは9月の1位の値以上を記録した。伊豆諸島では土砂災害や低い土地の浸水、川の増水や氾濫などの被害が発生。とくに伊豆大島では1人が死亡し、3人が負傷したほか、断水や停電などのライフラインの被害も出た。静岡県では浜松市で1人が死亡し、1人が行方不明となった。また、静岡市では土砂災害警戒情報が発令されるなどしたため約2万人に避難勧告が出された。神奈川県では横浜市で1人が死亡。茨城県では鹿嶋市で1人が死亡した。
気象庁:特定期間の観測史上1位の値 更新状況(2023年9月7日〜2023年9月9日)
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●日立市役所が浸水! 災対本部を同消防署に移動
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こうした台風13号とその余波の熱帯低気圧による大雨で、茨城県日立市では日立市役所で浸水被害が発生した。記録的な大雨の影響で、市役所の近くを流れる二つの川(数沢川と平沢川)が氾濫したためだ。気象庁によると、日立市の9日午前7時50分までの24時間降水量は282.5mmで、観測史上最大を記録した。市によると、8日夕方ごろから猛烈な雨に見舞われたという。市庁舎の1階と地下に水が入り込み、電源機器が水没して停電した。
市役所は災害対策本部を、庁舎の数百メートル北にある日立市消防本部に移して対応に当たることになった。また、市役所の周辺では土砂が広範囲に流入し、道路や駐車場などに被害が出た。
この日立市役所の浸水被害は、台風13号被害の象徴的な事例として、また災害対策上の想定し得る「想定外」の典型事例として、社会的な関心を集めることになった。というのも、日立市役所旧庁舎は1957年築でもともと老朽化していたが、東日本大震災で大きな被害を受け、一部機能が仮設庁舎に移転するなど分棟化されていた。そのため、大震災後に、市民の利便性や行政サービスの向上、地域活性化などを目的として新庁舎の建設事業を進めることとし、新庁舎は2017年4月に執務棟が竣工、2019年3月には多目的ホール棟が竣工した。新庁舎は、環境に配慮した省エネルギー型の建物であり、地域のシンボルとしても機能するように設計されている。
ただ、この市庁舎は前述の二つの川の合流点の近隣、いわば“河川敷”に立地している。日立市のハザードマップによれば、この地区は、想定最大規模降雨(1000年に1度の雨)とは言え、内水氾濫の浸水想定地域(2m未満)となっているのだ(川の氾濫による浸水想定はなし)。新庁舎は地下1階・地上5階からなる建物であり、地下1階には電源機器や防災無線などの重要な設備が設置されていた。
しかし、近年の水害多発(河川氾濫、内水氾濫など)の教訓から、地下に電源機器を配置することのリスクは知られている。新庁舎は耐震性や省エネルギー性などを重視した設計ではあったものの、地下の防水扉や排水ポンプなどの設備がなかったこと、電源機器を高い位置に設置しなかったなど、浸水対策が十分ではなかった可能性がある。
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●浸水想定地域で人口増―市民の災害リスクは増すばかり?
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日立市役所の“想定外”浸水被害は、公的施設での「想定内の想定外」とも言えるが、毎年水害による犠牲者が出ている日本で、浸水リスクがある地域で人口が増えているという調査報告も各種ある。その背景には、農地が宅地に変わるなかで自治体による「規制緩和」もある。かつては水田が広がっていた地域の多くは「市街化調整区域」と呼ばれる場所に変わった。市街化調整区域は、都市計画法で「農地などを守り、無秩序な市街化の拡大を抑制するため、宅地開発を規制するエリア」とされていた。しかし、地方分権の流れや経済対策に伴って規制緩和が相次いで行われるなかで、都市計画法が改正され、自治体が規制緩和すれば市街化調整区域でも宅地開発が可能になった。これがきっかけとなり、各地で市街化調整区域の開発が進んできたのだ。
市街化調整区域の開発で住民は住宅を安く手に入れ、都市計画税もかからない。自治体は人口が増え、固定資産税などの税収が増える。不動産事業者は宅地開発・販売で利益が――しかし、そこに居住する市民の災害リスクは確実に高まる。
“災害資本主義”(災害は資本主義の内から必然的に生じてくるという説)の典型例が増えている。
WEB防災情報新聞:助ける・助けられる防災、そして「助かる防災」
〈2023. 09. 15. by Bosai Plus〉