強風で飛び火か “対岸の火事”ではないマウイ島大規模山火事
ハリケーンの通過と高温・乾燥、飛び火による山火事延焼
――極端気象現象も背景に
●ハワイ王国の首都だったラハイナが壊滅的被害
米国ハワイ州のマウイ島で起きた大規模な山火事(Wildfires)で、かつてのハワイ王国の首都だった歴史的な町、ラハイナが壊滅的な被害を受けている。マウイ郡当局による最新情報によると、8月13日時点(現地時間)で火災による死者は93人に達し、米国で起きた火災の被害としてはこの100年余りで最悪としている(1918年、ミネソタ・ウィスコンシン両州で453人が死亡した山火事がある)。
ハワイ州のグリーン知事は12日の会見で、当局による救助・捜索活動が続けられており、犠牲者の数はさらに増えることが予想されると語っている。当局者らによれば、8月8日とみられる山火事発生から5日間で、これまでに捜索が行われたのは被災地域の3%にとどまっており、活動を強化するため捜索犬12匹が追加投入されるという。損害規模は60億ドル(約8700億円)に近づきつつあると推計されている。
マウイ島はハワイ島に次いで2番目に大きな島で、州都があるオアフ島ホノルルからは約100km離れている。マウイ島の海は透明度が高く、海でのアクティビティやホエールウオッチングなどもでき、日本人観光客にも人気の大自然を体感できる島だ。今回の山火事はラハイナを襲っただけではなく、キヘイとクラという街の合計3カ所で発生している。
ラハイナ地区は人口約1万1800人だが、旅行者で賑わうピーク時は人口4万を数えるというが、マウイ島山火事からの避難者数は1万1千人を超えているという。また、当局では13日現在、住民らがこの地域にいつ戻れるかは不明としている。
●まさに“火の氾濫、火焔流”といったすさまじい状況が
山火事の発生原因は現段階で不明だが、火事が発生する前後に島の南側をハリケーンが通過し、島全体が強風にさらされたことが火勢を強める要因となったようだ。風は山の斜面を吹き降りる際に加速し、山の麓に広がるラハイナの市街地まで、瞬く間に燃え広がったとみられる。
その様子をニュース動画やSNS映像などで見ると、まさに“火の氾濫、火焔流”といったすさまじい状況のようであった。風速35mというハリケーンの通過と、折からの高温と乾燥という気象条件、マウイ島の地形も山火事をここまで拡大させる要因になり、またラハイナ地区西側が海に面していて避難者は山火事延焼とともに海側に追い詰められたようで、海に飛び込む人もいたという。
米国の海洋や海洋生物に関する情報発信や保護・啓発活動を行っている非営利団体「American Oceans Org」のインスタグラムによれば、山火事は、被災地の環境と野生生物に壊滅的な影響を及ぼしている。炎は家屋、構造物、その他のあらゆる財産を破壊し、多くの住民を避難させている。
山火事はまた、州の主要な収入源である島の観光産業に重大な被害をもたらすことは確実だ。消防士と緊急対応要員による山火事の封じ込め、消火、さらなる被害を防ぐための延焼を止める努力が進行中だが、残り火はまだ各所に点在しているという。
ハリケーンの猛烈な風で延焼が拡大したことが今回の大規模山火事の直接的な要因となったが、本年のハワイの深刻な干ばつと乾燥状態も、山火事拡大の重要な背景であったことは確かなようだ。乾燥した状態は飛び火を生み、また山火事と戦うための自然の水源もなく、消防士は猛火に飲み込まれる危険を避け、また居住者は家を守ることをが困難となった。
いっぽう、復旧と再建の取組みを支援する連邦政府の支援が始まっている。バイデン大統領は州兵を派遣し、運輸局は民間航空会社と協力して交通手段を提供し始めた。応急的な被災者の救助から避難支援、復旧復興活動も緒につき始めた。
避難者に仮設住宅を提供するために避難所が設置され、支援団体やボランティアも参集、被災者への支援が始まっている。ボランティアには辛うじて難を逃れた観光客も加わっているという。米国最悪とされる山火事災害の検証はこれからだ。
本紙としてもその検証・分析に注目し、“対岸の山火事”にしてはならない。
American Oceans:2023年ハワイ山火事:原因、影響、および対応の取り組み(英語サイト)
〈2023. 08. 15. by Bosai Plus〉