被災後の生活環境保全の鍵、災害ゴミ削減=防災まちづくり
災害ゴミ、個人レベルから地域・社会レベルに広げると…
大規模災害ゴミ問題を可視化する
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
●日本海溝・千島海溝での災害ゴミ試算 東日本大震災上回る
災害ゴミは地域防災にとっても重要な関心事
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
環境省は去る3月23日、日本海溝・千島海溝沿いで想定されるマグニチュード(M)9級の巨大地震が起こった場合、災害廃棄物(以下、「災害ゴミ」)が最大で2717万トン発生するとの推計を公表した。津波による泥などの堆積物は含んでいない。
同じ条件で比較すると、処理完了に3年かかった東日本大震災で発生した約2千万トンの災害ゴミを上回る。災害ゴミの推計量は、岩手県沖から北海道沖を震源とする「日本海溝モデル」が最大で、北海道沖から千島列島沖にかけての「千島海溝モデル」では1042万トンとなっている。
環境省:日本海溝・千島海溝沿いの巨大地震による災害廃棄物発生量推計
日本海溝・千島海溝地震は、日本海溝(東北沖から北海道・日高沖に続く海溝)と、千島海溝(十勝沖から千島列島沖の海溝)にかけての周辺で発生が想定される地震で、歴史上、M7〜8級の地震が頻発している。国は、M9級の地震が起きれば、最悪で北海道、青森など7道県で19万9千人が死亡、建物22万棟が全壊すると想定。その対策として、昨年(2022年)9月、「防災対策推進基本計画」を見直し、早期避難への意識向上や津波避難ビルなどの対策で死者数を10年で8割減らすなどの目標を掲げている。
いっぽう、巨大災害発生時には大量の災害ゴミが発生する。東日本大震災では、膨大な量の災害ゴミに対して仮置き場や焼却施設が不足した。災害ゴミの処理は、生活インフラの早期復旧・復興や被災地域の再建に欠かせないことから迅速な対応が求められる。災害規模が大きければ大きいほど、災害ゴミ処理は広域にわたる対応が必要となる。災害ゴミの処理・広域処理は基本的には自治体の仕事となる。
自治体は、災害時に発生する災害ゴミに迅速に対応するため、事前に「災害廃棄物対策計画」を策定している。22年3月末時点で、全国の市区町村の7割が策定済みだが、小規模自治体ほど策定率は低く、1万人未満では約5割の策定率にとどまる。
環境省は今回の推計を基に、被災自治体が地震や大雨洪水、台風などで生じる処理しきれないゴミの広域処理を含めて、自治体の処理計画策定を財政面や技術面で本格支援を行っている。いっぽう、災害ゴミ処理の目的は地域の生活環境を清潔にすること、生活環境の保全・公衆衛生の向上を図ることであり、地域防災にかかわる私たちにとっても重要な関心事であることは言うまでもない。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
●南海トラフ巨大地震、首都直下地震の災害ゴミ 膨大!
防災まちづくりに「災害ゴミBCP/タイムライン」の視点を
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
東日本大震災を教訓に、国土交通省や環境省などが中心となって、「災害廃棄物対策のグランドデザイン」が2014年に策定されている。グランドデザインでは、災害発生時における災害廃棄物の発生量や種類、処理方法、施設の整備状況などを把握し、適切な処理を行うことが求められた。
しかし、南海トラフ巨大地震や首都直下地震など、それまでの被害想定を大きく超える巨大災害の新たな想定では、東日本大震災をはるかに超える量の災害廃棄物が発生すると予測されている。巨大災害が発生した時の起こりうる事態に対応して、ゴミ処理体制に影響が生じる主な点を整理すると――
▼膨大な災害ゴミの発生で道路等の啓開作業が長期化し救助活動の遅れ
▼仮置場での長期間の災害ゴミの大量保管に伴う火災の発生や衛生状態の悪化
▼廃棄物処理施設の被災による停止期間の長期化、災害ゴミ、生活ゴミ処理への影響
▼中央官庁の機能不全、地方公共団体の機能低下に伴う司令塔の欠如
▼資機材供給の停止による災害廃棄物処理への影響
▼避難所からの多量の生活ごみ、し尿の発生
▼災害廃棄物処理の遅れによる衛生状態の著しい悪化
▼仮設トイレ等の不足、膨大なし尿の排出によるし尿処理の停滞
そこで、国、都道府県、市町村、民間機関などの関係者が危機意識を共有し、地域特性を考慮した連携・協力体制を構築することで、周到な事前の備えに取組むべきとし、「巨大災害の発生に向けた対策のあるべき方向」として5つの事項を示した。
①膨大な災害廃棄物の円滑な処理の確保
②東日本大震災の教訓を踏まえた発災前の周到な事前準備と発災後の迅速な対応
③衛生状態の悪化・環境汚染の最小化による国民の健康の維持
④強靱な廃棄物処理システムの確保と資源循環への貢献
⑤大規模広域災害を念頭に置いたバックアップ機能の確保を前提として、ハード面、ソフト面の様々な課題に積極的に取り組む必要
環境省:巨大災害発生時における災害廃棄物対策のグランドデザイン
巨大災害が生じた場合にも災害ゴミの発生による影響を最小限に抑え、地域社会の迅速な復旧・復興を図るためには、産官学民連携での「災害ゴミ地域継続マネジメント」(=いわば「災害ゴミBCP」)が重要となる。そのなかでの私たち市民の役割としては、「災害ゴミ・タイムライン」を念頭に、普段の生活ゴミ処理の過程を知り、そのうえで災害ゴミ処理の過程(対応計画)を知ることが第一歩となる。
災害ゴミ削減の根本対策は、住宅耐震化、住宅耐水性化、浸水想定区域の土地利用制限などとなるが、それらは減災に直結する基本的な対策でもある。平時のいま、私たち市民自らが、事前復興としての「防災まちづくり」により積極的にかかわることで、災害ゴミの軽減も可能となるはずだ。
〈2023. 04. 16. by Bosai Plus〉