P2 2 SIP4D(基盤的防災情報流通ネットワーク)概念図(防災科研資料より) 640x350 - 《 2023特別構成 第2弾 防災DX-2 》<br>災害の全フェーズを”クロスビュー”

防災クロスビュー(bosaiXview)――予防・対応・回復の全フェーズで活用できるシステム

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●防災科研の「SIP4D」 社会実装への理念と課題
 技術力という外圧で なし崩しに“アナログの壁”を崩す可能性
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 前段(「防災DX-1」)で国立研究開発法人防災科学技術研究所(NIED。以下、「防災科研」)の名が出たが、防災科研は国家プロジェクトとして、各種組織横断型の基盤的防災情報流通ネットワーク「SIP4D」の研究開発を進めている。
 これは府省庁・関係機関間など、組織ごとに異なるシステムで集約される災害情報を共有できる技術の開発だ。

防災科研:「SIP4D」の概要と社会実装における課題

P2 2 SIP4D(基盤的防災情報流通ネットワーク)概念図(防災科研資料より) - 《 2023特別構成 第2弾 防災DX-2 》<br>災害の全フェーズを”クロスビュー”
「SIP4D」(基盤的防災情報流通ネットワーク)の概念図(防災科研資料より)。内閣府総合科学技術・イノベーション会議「SIP(戦略的イノベーション創造プログラム)」第1期で開発した先進的情報基盤となる

 東日本大震災後、またICTの進展を背景に、官民において「災害情報システム」の標準化をめぐる動きが急となった。つまり、災害応急対策を決定・実施するにあたって、災害に関する情報をいかに的確かつ迅速に、収集、伝達、そして共有すべきかが防災・減災に向けた重要課題となったのだ。
 その研究開発の成果として防災科研は、2016年熊本地震、2017年九州北部豪雨に対して「府省庁連携防災情報共有システム(SIP4D:Shared Information Platform for Disaster Management)」を適用、発災直後から各種災害情報を集約・提供する「防災科研クライシスレスポンスサイト(NIED-CRS)」を立ち上げ、発災翌日には研究員を現地に派遣し、災害対応にあたる防災関係機関に対して、地図情報の提供を行う情報支援活動を実施した。

 後の2021年3月、NIED-CRSはその機能を「予防」「回復」フェーズに拡張するべく「防災クロスビュー(bosaiXview)」(P. 1カット図版参照)へと名称が行われている。

P3 1 防災防災科研「防災クロスビュー」HPより - 《 2023特別構成 第2弾 防災DX-2 》<br>災害の全フェーズを”クロスビュー”
防災科研の「防災クロスビュー(bosaiXview)」トップページより。平常時は過去の記録や現在の観測、未来の災害リスク、災害時は発生状況、進行状況、復旧状況、関連する過去の災害、二次災害発生リスクなどの災害情報を重ね合わせて(クロスさせて)、災害の全体を見通し(view)、予防・対応・回復の全フェーズを通じて活用できるシステムをめざす

防災科研:防災クロスビュー(bosaiXview)

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●防災DX―体制の変革、意識改革が必須
 20世紀のアナログ的対策を乗り越えた21世紀型の災害対策へ
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 阪神・淡路大震災以降、とくに東日本大震災の教訓を踏まえて、地震津波、風水害、噴火災害、雪害などへの対応は、想定外の想定の取り込み、最悪想定の想定など本質的な転換=発想のイノベーションが主流となった。そのイノベーションの有り様は、ICT(情報通信技術)やAI (人工知能)の急速な進展を背景に、20世紀のアナログ的対策を乗り越えた21世紀型の災害対策、防災・減災の可能性を追求し始めたと言える。
 ただ、科学技術の進展が必ずしも即・社会実装化を促すことにはならないのが現実でもある。先行する科学技術の可能性に、人間の意識や社会制度・法、組織(とくに、“日本的”とされる根回しや縦割り、年功序列的な意思決定など)の変革が伴わないという課題が残る。そもそも情報共有化が課題となるのは、災害対応機関――国・県・市町村、そして自衛隊、消防、警察などの組織間でこれまで災害情報が共有されてこなかったこと自体が問題で、体制の変革が伴わなければ意識改革ももたらされない。

 メディアの視点で情報共有化を考えると、大本(おおもと)の災害対策・防災体制(さらに復興体制)づくりは本来、米国「FEMA(緊急事態管理庁)」スタイルの「防災省(庁)」へと一本化すべきだと言わざるを得ない。わが国では災害対策に関する基本的な、かつ最上位の計画として防災基本計画があるが、災害対策は、自然災害の種別(要因別)に対策体系を構成するという縦割り手法だが、米国では起こった事象(オール・ハザード)への対応(危機管理)としての危機管理体系となっている。
 つまり地震津波であれ、風水害であれ、テロであれ、被害・被災者の発生などの“事態”にどう対応するかがスタートに位置づけられ、そのため危機管理対応機関には「ICS:Incident Command System」(指揮統制や調整、組織運用などの標準化)が普及していて、災害・テロ対応のほかマラソンやスポーツイベントまで、あらゆる危機管理事案がこのICSに基づいて実施されるという。

 わが国でも災害情報の標準化についてはこの十数年問題意識が高まり議論が進みつつあるが、技術的な課題は別にして、ガバナンス(組織内統治)をも超えた日本社会の“カルチャー(” 縦割り、組織の硬直性、公務員の転勤など)が情報共有化の“壁”たり得ることにも留意しなければならないだろう。
 いっぽう、AIをはじめ、ドローンやロボット技術、ビッグデータ解析など、技術的な進展も著しい。情報共有はこうした技術も連続的・永続的に取り込んでいくなかで、技術力の外圧でなし崩しに“壁”を崩す可能性がある。日々更新されるべき技術、システムのさらなるイノベーションが期待されるところだ。

P3 2a NISC規定の共有すべき16種類の基本情報(EEI) - 《 2023特別構成 第2弾 防災DX-2 》<br>災害の全フェーズを”クロスビュー”
P3 2b 米国EEIと日本の災害情報取得の現状⑭(避難所) - 《 2023特別構成 第2弾 防災DX-2 》<br>災害の全フェーズを”クロスビュー”
「災害時に共有すべき基本情報に関する日米比較について」より。NISCは2012年6月に5つの州と市により結成された。2014年現在、産官学民の100以上の団体で構成 (出典:防災科研発表資料)

 ちなみに米国では、連邦、州、地方、先住部族、その他の公的防災機関の情報から既存のデータを共通の操作画面に集約し、緊急時に最初の対応者(First Responder)を支援する「vUSA」(Virtual USA)というパイロットプロジェクトが進行中だ。「vUSA」の推進主体は全米情報共有化協会(NISC:National Information Sharing Consortium)で、当初、5団体によって結成されたが、その後、100を超える会員を擁する団体へと発展しているという(2014年9月資料より)。

内閣府(防災担当):「災害時に共有すべき基本情報に関する日米比較について」

〈2023. 01. 17. by Bosai Plus

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