津波浸水想定地域に、整備済み住宅地や避難所も
最大級の津波想定で、浸水面積 東日本大震災の約1.2倍
「逃げる」を前提とした「安全安心なまちづくり」を
●津波常襲地帯・宮城県沖 大津波は必ず、再び来る
宮城県が、「津波防災地域づくりに関する法律」(以下、「津波防災地域づくり法」)に基づいて沿岸15市町の新たな「津波浸水想定図」を作成し、5月10日公表した。最大級の津波が満潮時などの最悪の条件で襲来した場合を想定したもので、浸水する面積は東日本大震災のおよそ1.2倍にのぼり、震災後に整備された住宅地や避難所、市役所や町役場も浸水区域に含まれることから、津波対策を大幅に見直す地域も出てきそうだ。
津波防災地域づくり法は、2011年12月に、東北地方太平洋沖地震に伴う甚大な津波被害を教訓に、「最大クラスの津波」が発生した場合でも「何としても人命を守る」という考え方で、ハードとソフトの施策を柔軟に組み合わせて総動員させる「多重防御」の発想により、地域活性化の観点を含めた総合的な地域づくりの中で津波防災を推進するために施行された法律。宮城県では外部の専門家や学識者から構成する「宮城県津波浸水想定の設定に関する検討会」(座長:今村文彦・東北大学災害科学国際研究所所長)を設置して津波浸水想定を検討した。
津波浸水想定については、最大クラスの津波が“悪条件”下で発生した場合に想定される浸水の区域及び水深を設定。悪条件とは、①地震発生とともに地盤が沈下(地震モデルによる地盤沈下量を考慮)、②津波発生時の潮位が満潮(朔望平均満潮位)、③津波が越流すると防潮堤が破壊(防潮堤を津波が越えた場合即時に破壊する)の3つ。
なお、東日本大震災以降に、国・県・市町が整備した防潮堤は、「津波が越流しても完全には壊れない」、「破壊までの時間を少しでも長くする」などとして「粘り強い構造」で整備されていることから、津波の越流により直ちに防潮堤が破壊されることはなく、津波浸水想定では、悪条件下で設定しているため、越流時に直ちに破壊するものとしている。
また津波浸水想定は、東日本大震災と同じ「東北地方太平洋沖」と「日本海溝」、「千島海溝」で起きる3つの巨大地震について津波シミュレーションを行い、それぞれの想定結果のなかで最も規模が大きいものを地域ごとに選んでいる。
●主な津波想定結果と、市民向け「Q&A」も作成
想定結果を見ると、浸水する面積は震災発生時の1.19倍にあたる391平方km。津波の高さは、気仙沼市の本吉町道外付近で22.2m、女川町の海岸通り付近で20.7m、石巻市の雄勝町雄勝上雄勝で19.6m、山元町の坂元浜付近で14.9m、仙台市の若林区井土須賀付近で10.3mなど、10m以上の津波を想定。津波到達時間は最も早い気仙沼市の場合、地震発生から21分後に1m以上の第1波が到達し、41分で20m以上の最大波になるとされている。
ちなみに、想定では震災後にかさ上げして整備された住宅地や、避難所に指定されている公共施設、沿岸の市と町の6割にあたる9つの市役所や町役場が浸水区域に入るため、津波対策を大幅に見直す地域も出てくると見られる。県では、新しい想定をホームページで公開して備えを呼びかけ、沿岸の市や町に避難所や避難ルートの見直しなどを検討するように促す。
津波浸水想定の公表にあたり、県では県民の誤解を招いたり不安を与えないよう、また、県来訪者に正しく理解してもらうために、解りやすい説明資料(Q&A)を作成した。このなかで、「津波浸水想定の浸水範囲に住んでいるけど、どうしたらよいの?」という問いに対しては、「避難を促す範囲の目安なので、万が一に備えて、避難場所や避難ルートの確認を」と答えている。また、「私たちはどこに逃げればいいのですか?」には、「今後、市町が作成または改定する津波ハザードマップを確認し、避難場所に逃げてください」、「安全な避難場所、避難ルートを事前に確認しておくことで、円滑な避難ができるようになります」と。
そして、「復興まちづくり」とは、「逃げる」を前提とした「安全安心なまちづくり」であること、「津波浸水想定」は、「逃げるためのソフト対策」だとしている。
〈2022. 05. 15. by Bosai Plus〉