災害に備え平時からの福祉支援
災害ケースマネジメント(DCM) 普及へ
『福祉なくして防災なし~フェーズフリー福祉防災』第2弾
――「災害ケースマネジメント(DCM)」とは…
本紙は本年3月1日付けで『フェーズフリー福祉防災 ~福祉なくして防災なし~』とし、その第1弾として「個別避難支援計画(災害時ケアプラン)」の普及促進を取り上げ、その全国展開を図る立木(たつき)茂雄氏インタビュー」を特集、読者から大きな反響をいただいた。
本紙:フェーズフリー化する「福祉防災」――個別支援計画(災害時ケアプラン)はいま
本紙:個別支援計画はいま 「福祉と防災の連携」〜立木茂雄氏に聞く
本項ではその第2弾として「災害ケースマネジメント」(DCM:Disaster Case Management)に焦点を当てる。「災害ケースマネジメント」とは、被災者を個別支援して生活再建につなげる取組みであり、その推進にも多くの主体が関わることになる。広域大規模災害が想定されるわが国で、平時のいまこそ被災者支援制度を拡充させる機会であり、”フェーズフリー福祉防災”構築のキーワードになりそうだ。
その折も折、内閣府(防災担当)からこの3月、「災害ケースマネジメントに関する取組事例集」が公表された。この「事例集」の情報をもとに、「災害ケースマネジメント」の取組みを次ページ以下、まとめてみる――
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災害ケースマネジメント――
”誰一人取り残さない「福祉防災」”に向けて画期的な意義
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●「災害ケースマネジメント」(DCM)とは
米国の被災者支援プログラムを日本へ導入
「災害ケースマネジメント」(DCM)は、2005年にハリケーン・カトリーナで甚大な被害を受けた米国で実施された被災者支援のためのプログラムだ。
ハリケーン・カトリーナ襲来で強制避難命令が出され、主な被災地となるニューオーリンズ周辺から各地に避難した避難者数は150万人にのぼった。被災後、被災地復興に時間を要したため避難生活は長期化し、被災者・避難者の多くは米国連邦緊急事態管理庁(FEMA)が手配した借り住まい(賃貸住宅、ホテル、トレーラーなど)に一時的に居住した。そこで被災者・避難者が直面した課題は、住まい、雇用、交通手段、健康、こころのケア、教育、法支援制度など多岐にわたり、個々の被災者の生活状況に即した長期的な支援が求められることになった。
いっぽう支援プログラムは連邦政府によるものに加え、各地の行政機関、赤十字、企業、民間団体などによる支援など、さまざまなプログラムがあった。そこで、被災者一人ひとりの生活状況とニーズを踏まえたうえで生活再建を支援するための仕組みとして、こうした各種支援を統合する「災害ケースマネジメント・プログラム」(DCMP:Disaster Case Management Program、以下「災害ケースマネジメント」*プログラム(P)を省略)が策定され実施された。
わが国でも東日本大震災による被災者・避難者の多くが各地に分散していまだに避難生活を送っている。さらにその後も、熊本地震や豪雨災害など頻発する災害での被災者支援において、現行の支援法制を超えた被災者支援ニーズへの高まりがある。想定される南海トラフ巨大地震をはじめとする巨大災害、毎年のように起こる広域豪雨災害が懸念されるわが国で、被災者の生活再建をめざす「災害ケースマネジメント」の仕組みを普及・拡充することは、わが国の被災者支援制度を拡充させ、”誰一人取り残さない「福祉防災」”の理念を実践するうえで画期的な意義がある。
●仙台市で初導入、熊本県で総合的支援、鳥取市で法制化、
平時からの福祉支援活動――南トラ想定被災地に広がる
わが国では東日本大震災で5万を超える世帯が大規模半壊以上の被害を受けた宮城県仙台市で、初めて「災害ケースマネジメント」が本格的に導入された。
当初、仙台市では、応急仮設住宅の入居者に対して書面によるアンケート調査を実施し、被災世帯の課題把握に努めたものの、書面調査のみでは被災者が抱える生活再建に向けた詳細な課題を把握することができなかった。このため、各世帯への個別訪問等を実施、被災者の課題を関係各所と共有して連携して対応することにより、早期の生活再建を進めていった。
こうした東日本大震災の経験を踏まえ、2016年熊本地震で被災した熊本県では、被災者が生活再建に向けて安定した日常生活を送ることができるよう、見守りや健康・生活支援、地域交流の促進などの総合的な支援を行う「地域支え合いセンター」を県内の被災市町村に設置し、被災者の個々の相談や困りごとに対応する取組みを全県的に展開した。
また、同年に発生した鳥取県中部地震の被災者支援を目的として、鳥取県では全国で初めて、「鳥取県防災及び危機管理に関する基本条例」で「災害ケースマネジメント」にかかる体制構築や被災者の生活復興支援を行う旨を明記し、2021年4月には、全国に先駆けて「鳥取県災害福祉支援センター」を設置、災害時に備えた平時からの福祉支援活動への体制整備を進めている。
南海トラフ地震での想定被災地となる西日本沿岸部自治体でも、平時のいまこそ行政・県市町村社協が中心となって、多様な主体と連携して福祉防災の体制整備に向けて検討を続けている(本項関連記事 本年4月15日付け「南海トラフ想定被災地における「福祉防災」」参照)。
●必要に応じ専門的な能力をもつ関係者と連携
当該課題等の解消に向けて継続的に支援
内閣府では、こうした地方公共団体での「災害ケースマネジメント」への取組みの広がりを踏まえ、2021年5月、防災基本計画に「国及び地方公共団体は、被災者が自らに適した支援制度を活用して生活再建に取り組むことができるよう、見守り・相談の機会や被災者台帳等を活用したきめ細やかな支援を行うとともに、被災者が容易に支援制度を知ることができる環境の整備に努める」との記載を追加した。
そして2021年度には、このような「災害ケースマネジメント」の取組みを一層推進するため、「2021年度災害ケースマネジメントに関する取組事例調査業務」として、全国的な災害ケースマネジメントの取組み状況を調査、地方公共団体における先進的な取組み事例を収集した。さらに、これらの収集した情報・事例をもとに、事例集として盛り込むべき観点や項目を整理したうえで、この調査業務の成果として、冒頭の「事例集」を作成している。
ちなみに、同取組み状況調査及び「事例集」では、「災害ケースマネジメント」を「被災者一人ひとりの被災状況や生活状況の課題等を個別の相談等により把握したうえで、必要に応じ専門的な能力をもつ関係者と連携しながら、当該課題等の解消に向けて継続的に支援することにより、被災者の生活再建が進むようマネジメントする取組み」と整理している。
●行政、社会福祉協議会、NPO、ボランティア等との
平時からの関係構築、役割分担の整理を
「事例集」は「おわりに」で「取組み状況等の調査を踏まえた課題」として、
▼個別訪問や相談支援等を行うに当たって、必要なスキルを有する人材及びそれに伴って必要となる財源の確保
▼災害ケースマネジメントを実施するための体制づくりや顔の見える関係の構築(被災者支援に係る関係者(行政、社会福祉協議会、NPO、ボランティア等)との平時からの関係構築、役割分担の整理)
▼多岐にわたる被災者支援制度(個別訪問・相談支援、住まいの再建等)に対する支援関係者や被災者の理解の促進(活用可能な既存制度の整理)、当該制度の広報・周知
▼法令やガイドラインの整備等による「災害ケースマネジメント」の手法の確立
▼先進事例の学習、研修会等を通じた「災害ケースマネジメント」のノウハウを習得する機会の確保
上記のほか、有識者や地方公共団体等にヒアリングを行う中でも、中長期的に検討すべき事項として、以下の意見があった。
▼大規模災害時の対応の難しさ、人口規模(都市部と地方部等)や災害種別を踏まえた「災害ケースマネジメント」の手法の違いへの考慮
▼発災直後からの相談支援等の早期開始、被災者の生活再建が長期化する場合の対応
▼被災者の生活再建の長期化等を踏まえ、平時の福祉関連事業の延長線上で災害時の対応を考える必要性(平時・災害時を問わないシームレスな被災者支援の実現)
▼適切な被災者支援を実施するための関係者間での情報共有(被災者の個人情報を含む情報の取扱方法の確立)
内閣府では、2022年度には「災害ケースマネジメント」の標準的な取組み方法や活用可能な制度等をまとめた手引書を作成し、全国の地方公共団体に共有する予定としている。なお、内閣府では2021年度に「クラウド型被災者支援システム」を構築し、2022年度から地方公共団体情報システム機構(J-LIS)において運用を開始する。
同システムでは、災害時に住民情報と被災情報とを連携させて被災者台帳を作成することが可能となり、「災害ケースマネジメント」にも活用できるので、各地方公共団体での積極的な活用の検討を促している。
【 以下、図版は「内閣府:災害ケースマネジメントに関する取組事例集」より 】
*編集部注:文中「災害ケースマネジメント」を「DCM」に言い換えています
●災害ケースマネジメント(DCM)に対する都道府県の関与
「市区町村からの要望・相談に対応した」(10団体:23.8%)、「市区町村へ相談支援等の実施に向けた働きかけを行った」(8団体:19.0%)。 「その他」(10団体:23.8%)は、「県と市町村が連携してDCMを実施」、「県が市町村に対してDCMに関する研修会を実施」したという回答のほか、「被災者生活再建支援制度に県が補助金を上乗せ」のように都道府県で独自制度を設定したといった回答も複数
●都道府県地域防災計画におけるDCM関連の内容への言及
全都道府県のうち約半数の23団体(48.9%)がDCMに言及。記載内容は、被災者の相談窓口の設置等に言及しているところが多い。一方、関係者との連携・協力体制の構築、被災者の避難生活や生活再建支援等の実施について言及しているところもあった。 なお、都道府県地域防災計画で「DCM」という名称を用いて記載しているところは1団体
●市区町村によるDCMの実施状況
回答のあった全106市町村のうち、51団体(48.1%)がDCMを実施したと回答
●市区町村におけるDCM支援「連携した団体」
「弁護士会」、「企業」、「住宅金融支援機構」、「民間支援団体(都道府県内)」が多かった。民間支援団体は、被災者の相談支援に加え、被災者の支援ニーズをボランティア・NPO等と情報共有し、支援につなげる中間支援の役割も担った。個人情報の提供状況については、連携した多くの団体に対して個人情報の提供はされていなかった
〈2022. 04. 15. by Bosai Plus〉