「非常ベルは鳴り響いている」、
その「貴重な時間」をムダにしない
防災士など、地域の“避難スイッチ”の設定にも有効!
水害や土砂災害で人はなぜ逃げ遅れるのか――災害リスクを知らせる「非常ベルは常に鳴り響いている」、災害が発生するまでの「貴重な時間」はなぜ活かされないのか、と著者の気象とコミュニケーションデザイン代表・渡邉俊幸さんは問いかける。
渡邉俊幸さんは、本紙12月3日付け記事で取り上げた被害予想の可視化で備え・避難を後押ししようという『インパクト予報』(影響予報。後述、同記事へのリンクも)の提唱者で、海外での防災気象情報にも詳しい気象予報士だ。本号では、その渡邉さんの近著『情報力は、避難力!』(日本橋出版、定価:1980円)を紹介する。
「逃げ遅れ」については災害心理学の定説として、「正常化の偏見=自分は大丈夫だろうと危険や脅威を軽視してしまう正常性バイアス」(normalcy bias)があるからとされるが、これをもう一歩突き詰めると、危険や脅威の情報自体が、「わが身の安全」との関連で切迫したものとなっていないためではないのか。
気象庁や地方気象台が発表する防災情報は、基本的にはその地方・地域の概況についてであり、そこでは”私がいるココ”の地域特性・災害特性は特定されていない。そこで、”私がいるココ”がどうなれば危ないのか、最寄りの川の氾濫、あるいは低地の内水氾濫、さらには裏の急傾斜地の土砂崩れのリスクなど、わがことに引き寄せて情報を受けとめる力、それが渡邉さんの言う「情報力」であり、すなわち「避難力」だ。
同書では、国土交通省や気象庁が発表する防災情報などから、以下の用語例――ハザードマップ(計画規模・想定最大規模)、浸水実績図、家屋倒壊等氾濫想定区域図(氾濫流・河岸侵食)、浸水想定区域図(浸水継続時間)、土砂災害警戒区域、土砂災害特別警戒区域、大雨注意報・警報・特別警報、洪水注意報・洪水警報、顕著な大雨に関する情報、土砂キキクル、洪水キキクル、浸水キキクル、水害リスクライン、土砂災害警戒情報、氾濫危険情報等の指定河川洪水予報、強風注意報・暴風警報・暴風特別警報、暴風域に入る確率など、気象庁が発表する情報を中心に情報発表の基準としてなにが用いられているかを詳しく解説。
理屈が分かったうえで情報の使い方を検討していけるように工夫されているので、いま知っているつもりの情報すべてをしっかり理解できる。
また、地域で災害が起こりそうな雨量は地域ごとに異なるので、何ミリ程度の雨が降ったら災害が起こりそうかを調べる方法をまとめている。その方法で自分の地域について事前に調べておくと、予測などで使われる雨量の数字がより身近なものになる。”私がいるココ”にあてはめて、実効的な避難情報に応用できるようになるから、防災士など地域活動家がこれを踏まえておけば、それぞれの地域での避難誘導の“スイッチ”を設定することができるのでお薦めだ。
渡邉俊幸:『情報力は、避難力!』
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●避難を後押しする『インパクト予報』とは――
「防災行動タイムライン」とあわせて 避難を後押し
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『インパクト予報』(影響予報)とは、気象現象による影響・予想される被害を伝える予報を言い、被害の様相があらかじめ想定できるので、備えや避難を後押しする情報となる。前段の『情報力』とあわせて、「防災行動タイムライン」実践に寄与することになる。
WEB防災情報新聞 2021年12月3日付け:『インパクト予報』で避難を後押し
〈2021. 12. 15. by Bosai Plus〉