気象庁「想定される最大規模クラスの地震の震源域・過去の発生状況」より

防災格言のバージョンアップ
10年前の揺れの“デジャブ”を実体験――
98年前の大震災はデジタル・アーカイブで知る

【 首都直下地震トライアル――「災害は忘れたからやってくる」 】

● 首都圏でM5.9・最大震度5強の地震 10年前、98年前の記憶・記録を揺るがす

 10月7日22時41分、千葉県北西部・深さ75kmを震源とするマグニチュード(M)5.9(暫定値)の地震が発生した。気象庁によると、最大震度5強を埼玉県川口市・宮代町、東京都足立区の3つの市区町村で観測したほか、東北地方から近畿地方にかけて震度5弱~1を観測した。津波はなし。
 長周期地震動については、千葉県北西部、東京都23区で長周期地震動階級2を観測。これらの地域の高層ビル高層階等では、物につかまらないと歩くことがむずかしい、棚にある食器類、書棚の本が落ちることがあるなどの大きな揺れになった可能性がある。また、緊急地震速報(警報)が、この地震の地震波検知から3.7秒後の22時41分38.5秒に発表されている――

P2 1 各観測点の震度(気象庁資料より) - 首都直下トライアル<br>「災害は忘れたからやってくる」
「10月7日22時41分頃の千葉県北西部の地震」各観測点の震度(気象庁資料より)

 この地震から3日後の10月10日、朝日新聞「天声人語」に次のような記述があった。「天災は忘れた頃にやって来ると言うが『忘れるから、やって来る』とも言えると、防災に詳しい人から聞いたことがある。もちろん天災は止められない。それでも緊急時にどうするかを常に考えていれば、災いを少しは減じることができる」――

 天災は「忘れたからやってくる」。なるほど、「天災は忘れたころにやってくる」は“手あか”の付いた常套格言だが、「忘れたからやってくる」は実戦感覚あふれる新鮮な響きに聞こえた。天声人語の筆者はこの文言を発した人を特定していなかったので、本紙は少しだけネットで調べてみたところ、たまたま、ある個人ブログに「たろう観光ホテル」のガイドさんの言葉として載っているのを見つけた。

 そのガイドさんいわく、「3年前に津波が来たけど70cmだった。2日前にも来たけど3mで防潮堤で防げた。みんな津波の心配なんかしていなかった。あの日も、船が心配で見に行った人がいた。寒いからと上着を取りに帰った人がいた。戻ってこなかった……『災害は忘れたころにやってくる』んじゃない。忘れたから災害になるんだ」と。
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10年前の「首都圏 震度5クラス」の揺れ被害を忘れない!
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 本題に返って、東京23区で震度5強以上の揺れを観測するのは、2011年の東日本大震災を引き起こしたM9の東北地方太平洋沖地震以来だ。首都圏で10年余前の揺れを経験した人はだれしも、あのときのデジャヴ(既視感)を味わったことだろう。

 あえて、2011年3月の首都圏・震度5(東京23区内はほぼすべての区で震度5弱以上)の記憶・記録を蘇らせば、千代田区の九段会館の天井が崩落し女性2人が死亡し、町田市のスーパーの立体駐車場でスロープが崩落、車3台が巻き込まれ2人が死亡、江東区の金属加工会社で地震の揺れにより化学薬品トリクロロエチレンを含んだガスが充満し、吸い込んだ従業員2人が死亡するなど合わせて7人が命を落としている。

 家屋の全壊・半壊等は6455棟、火災34件、ブロック塀の倒壊、道路被害、がけ崩れ、そして液状化などの被害が発生した。東京臨海部で液状化現象が確認された面積は約42平方kmと世界最大を記録したという。とくに千葉県北部埋立地(浦安市周辺)の住宅地での被災・被害が顕著で、家屋が傾き、上水・下水、ガス、電気などライフライン施設に影響が発生した。停電は中央区、目黒区、町田市などで発生、東京都を含む東京電力サービスエリアにおける停電軒数は約405万軒にのぼった(都内のガス供給施設は被害なし、供給停止区域なし)。

 いっぽう、千葉県市原市のコスモ石油千葉精油所における火災・爆発事故や、川崎市・市原市等での石油タンクのスロッシング現象で火災や浮き屋根の破損などの被害も発生した。

 そして帰宅困難者の発生――首都圏の鉄道は発生直後から全面的に運行を停止、駅舎への入場制限もあって主要駅周辺は帰宅困難者で埋まり、その群衆が徒歩で帰宅を始めて、車で渋滞する道路にもあふれた。推計で、首都圏では合計515万人(東京都約352万人、神奈川県約67万人、千葉県約52万人、埼玉県約33万人、茨城県南部を中心に約10万人)が、当日自宅に帰れない帰宅困難者になったとされている。

P2 2 東京都資料より「一時滞在施設運営チェックリストの例(時系列)」(一部) - 首都直下トライアル<br>「災害は忘れたからやってくる」
学校や企業など、身を寄せる場所にいる際に大地震に遭ったときは、その施設で安全にとどまることが基本となるが、移動中など屋外で被災した帰宅困難者については、一時滞在施設で待機が求められる。上図は、東京都資料より「一時滞在施設運営チェックリストの例(時系列)」(一部)

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関東大震災100年を前に 「首都直下地震を忘れてはならない」
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 本紙は去る10月8日付けで、本年9月1日に、国立映画アーカイブと国立情報学研究所の共同研究として構築・開設し、国立映画アーカイブが運営する「関東大震災映像デジタルアーカイブ」が公開されたことを伝えた。

WEB防災情報新聞:「関東大震災映像デジタルアーカイブ」公開開始

 関東大震災は、1923(大正12)年9月1日午前11時58分、相模湾を震源とする地震(推定M7.9)によって引き起こされた。関東地方を中心に激しい揺れに見舞われ、地すべり、土砂災害やがけ崩れによる建物の倒壊・流出、東京市や横浜市など都市部での同時火災延焼により、10万5千人に及ぶ死者・行方不明者、200万人を超える住居焼失者・避難者を生み出した巨大災害だ。

P1 気象庁「想定される最大規模クラスの地震の震源域・過去の発生状況」より - 首都直下トライアル<br>「災害は忘れたからやってくる」
上画像は、気象庁資料「想定される最大規模クラスの地震の震源域・過去の発生状況」より。直近の10月7日22時41分、千葉県北西部・深さ75kmを震源とするM5.9(暫定値)の地震も記録されている。東日本大震災を引き起こした2011年東北地方太平洋沖地震は関東地方・首都圏も大きく揺らしたが、ここではその記録はない。地震のエネルギーはマグニチュードが1上がるごとに32倍大きくなるとされる。想定される首都直下地震はM7。その規模の大地震の発生は、歴史的に首都圏で繰り返し起こっていることを再確認しておこう

 直近の首都圏でのM5.9(気象庁速報値はM6.1)・最大震度5強は、想定される首都直下地震のM7級よりひと回り小さい地震(エネルギーが約32分の1)だ。政府の地震調査委はM7級地震が今後30年間に発生する確率を70%程度と公表している。「これを忘れるから、災害は起こる」ことを肝に銘じなければならない。

P2 3 東京都防災より「災害・防災マップ」 - 首都直下トライアル<br>「災害は忘れたからやってくる」
「東京都防災」はウェブ上での防災情報提供に力を入れている。上図は、「東京都防災」の「災害・防災マップ」より。画像クリックで同サイトへリンク

〈2021. 10. 15. by Bosai Plus

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