予兆を把握できない地震、土砂崩れ、噴火
――山頂をめざす登山者は、ヘルメットと想像力で備えよう
●「大地の時間 VS. 人間の生活時間」が生む「想定外」の災害
現代科学で予兆を把握できない突然の災害には、地震や土砂災害があるが、それと同じように、突然の噴火もなかなか予兆を示してくれない。本年9月27日は御嶽山噴火から7年の「周年」を迎え、私たちに突然の噴火災害への警戒を改めて促した。
御嶽山は2014年9月27日に7年ぶりに噴火。山頂付近にいた登山客が巻き込まれ、1991年からの雲仙普賢岳の噴火・火砕流による犠牲者数(同44人)を上回る死者不明者63人を出す事態となった。
2018年1月23日の群馬県草津町の草津白根山噴火も「想定外」だった。草津白根山は正式名称は「白根山」だが、他の白根山(日光白根山、南アルプスの白根三山など)と区別する名称として「草津」が冠されている。草津白根山(標高2160m)は近隣の逢ノ峰(あいのみね)と本白根山を含めた三山の総称で、気象庁はそれまで小噴火を繰り返してきた草津白根山・湯釜付近の火口で起こる噴火を対象に、24時間体制で監視・観測する「常時観測火山」として位置づけてきた。しかし、気象庁がノーマークだった本白根山(標高2171mで三山の最高峰)の鏡池付近の火口で噴火が起こった。3000年ぶりとされる噴火は、人間の生活時間による“常時観測”のむずかしさを改めて認識させた。
火山防災は、まずは登山者が自分が登る山が活火山かどうかを知り、その噴火警報・予報を確認することから始まるということだろう。
●槍ヶ岳山頂付近で震度5 もうひとつの山岳リスク
いっぽう、大地を揺らす地震は山岳地帯も揺らすという大自然の鳴動のリアリティを実感させる地震が先ごろ起こった。地震が起きたのは9月19日午後5時18分、岐阜県高山市で震度4を観測したが、長野県大町市の北アルプス・槍ヶ岳(3180m)山頂直下の槍ケ岳山荘に設置された地震計が震度5弱を記録したという。
この地震の影響で、北鎌尾根で落石が発生し、登山者の男女7人から「身動きできなくなった」などと救助要請があり、県警は20日朝、ヘリコプターで4人を救助。男性1人が落石が膝にあたり重傷、救助されたほかの男女3人は無事で、残る3人は山頂まで登り、自力で下山したという。
地震の影響とみられる落石はこの一帯で観測され、当時山頂付近にあった登山者がスマホで撮影、そのいくつかが「YouTube」動画に投稿されている(下写真からリンク)。そのなかには山頂で揺れに遭遇して岩山にしがみつく様子などが撮影されていて、急峻な岩山での地震遭遇の怖さを伝えている。報道によれば、「地割れか噴火が起きるんじゃないかという恐怖心があった」、「直径1〜2mほどの岩が転がり落ちていくのも目撃した」という。また、長野県松本市安曇にある日本有数の氷河圏谷・涸沢(からさわ)カール近辺でも落石や崩落があり土煙が立ち昇っている様子が撮影されている。
登山は事前の準備――自身の健康・体調や天候の確認はもとより、火山であれば、噴火警戒レベルや活動の推移を気象庁のホームページなどで調べておくことが重要だ。地震は予測できないものの、岐阜県境ではこのところ地震活動が活発になっているというから、登山中の地震遭遇も想定外にしないことも大切だろう。
ちなみに長野県内の山岳遭難は、遭難件数が2013年まで4年連続過去最高を記録するなど憂慮すべき事態となった。2012年の夏山シーズンでは、遭難者の4人に1人は頭部を負傷しているいっぽう、滑落した登山者がヘルメットを着用していたため、命を取り留めた事例もあった。
そこで長野県山岳遭難防止対策協会では、2013年に岩場や鎖場が連続する山岳5地域を「山岳ヘルメット着用奨励山域」に指定した。近年はヘルメットをレンタルする山小屋もあるので、積極的に利用したい。
また、リュックは落石から身を守る盾にもなる。登山中の地震との遭遇は稀でも、落石、滑落など、いざという非常時を想定外にしない、常に万一をイメージしておくことは危機管理の基本でもある。
長野県山岳遭難防止対策協会:山岳ヘルメット着用奨励山域について
〈2021. 10. 01. by Bosai Plus〉