自らが居住する都道府県の災害リスクを
総合的に知る
中長期的な視点でより災害リスクの低い土地利用を
コミュニティなどで話しあう際の参考資料にも
自然災害に強いまちづくりを目指す改正都市再生特別措置法が本年(2020年)6月3日、成立した。近年の相次ぐ風水害で甚大な被害が発生しているが、そもそも浸水想定地域に住宅が増えているという現実があり、抜本的な対策が望まれている。
本紙はこれまで、山梨大学の秦(はだ)康範・准教授(地域防災)が2018年10月、日本災害情報学会で発表した調査研究結果「全国ならびに都道府県別の浸水想定区域内人口の推移」をたびたび紹介してきた。これによれば、国や都道府県が指定した全国の河川の洪水による浸水想定区域に住んでいる人は、2015年時点で約3540万人にのぼり、20年前の1995年と比べて4.4%増え、また世帯数では約1530万世帯で、24.9%と大幅に増えたことが明らかになったという。
秦氏はその動向を分析して、区域内人口が減少している地域を含めて、郊外を中心に浸水想定区域の人口や世帯が増えたと指摘。要因を「浸水リスクの高い地域の宅地化が進んでいるため」とし、「災害リスク地域に住んでいる住民の啓発、人口減少社会にあった災害リスクを踏まえた土地利用を推進する必要がある」とした。
こうした災害リスクエリアの研究・分析を踏まえて、国土交通省はこのほど、「総力戦で挑む防災・ 減災プロジェクト~いのちとくらしをまもる防災減災~」の取組みの一環として、中長期的な視点で災害リスクに対する適切な土地利用を検討するため、都道府県別の災害リスクエリア内の人口(2015年〜2050年)の推移を分析し、公表した。
この分析結果の概要と活用について、同省は次のように説明している。
▼概要
GIS(地理空間情報)を用いて、洪水、土砂災害、地震(震度災害)、津波の4種の災害リスクエリア内の人口の推移を分析した結果、日本全国の災害リスクエリア内人口は2015年から2050年までに約1416万人減少するものの、総人口に対する割合としては、15年の67.7%から約2.8%増加する結果となり、都道府県別にみても複数の都道府県で同様の傾向が見られる結果となった。洪水や土砂災害、地震、津波の被害にあう恐れが高い「災害リスクエリア」に居住する人口の割合は、2050年には70.5%に達する。ちなみに災害ごとの被災人口割合は、地震58.9%、洪水30.5%、津波5.9%。
▼活用例
国土交通省では、今回の結果はさまざまな仮定をおいたうえで分析を行ったものであるが、地方自治体等のさまざまな主体において国土全体の構造・地域づくりの検討を行うにあたり、この分析結果を参考として活用してほしいとしている。その例として、次のような活用方策が考えられるとした。
◎地方自治体による活用
複数の災害リスクを重ねあわせたうえで都道府県別の地図で整理しているので、自治体職員が広域的かつ総合的な視点で防災施策の企画・立案を行う際の参考資料としての活用できる。例えば、地方自治体が保有している重要施設の位置情報等をリスクエリアマップで確認し、災害時の重要施設の機能確保に関する検討を行うことが可能。
◎企業による活用
企業の生産・販売拠点等の複数の災害リスクを都道府県単位で把握することができ、リスクを踏まえた生産・販売拠点の防災対策や流通経路も踏まえた災害リスクへの対応等に取り組むための材料としての活用が考えられる。
◎住民による活用
自らが居住する都道府県の災害リスクを総合的に知ることによって、災害リスクについて自ら調べ、災害時の具体的な行動についてさらに考えるきっかけとなることや、中長期的な視点で、より災害リスクの低い土地利用をコミュニティなどで話しあう際の参考資料としての活用などが考えられる。
なお、分析結果は下記ホームページから確認できる。
〈2020. 12. 17. by Bosai Plus〉