日本建築学会 浸水被害看過を反省
建築物の耐水技術開発(とくに戸建て)が急務
日本建築学会が去る6月29日、「激甚化する水害への建築分野の取り組むべき課題~戸建て住宅を中心として~」と題する提言を発表した。
近年急増する気候災害が都市活動や生活の脅威となってきていることから、同学会として、水害に絞って検討と議論を重ね、従来の建築の耐震性能、防火性能、耐風性能、耐雪性能、断熱性能などに並ぶものとしての「耐水性能」の確立に向けて、取り組むべき喫緊の課題をまとめた。同学会が2018年に設置した「気候災害特別調査委員会」(委員長:佐土原聡・横浜国立大学大学院教授)がまとめた。
提言は、「洪水に悩まされてきたわが国では、土木の防災施設の整備で、1960年代以降、水害が減少し、水に対する安全が確保されているという前提で市街地が形成されてきた。しかし近年、気象災害の激甚化で、防災施設の対応力を越えてしまう可能性が顕在化しつつある。河川の治水インフラだけで水害に対応するのには限界があることを認識せざるを得ない状況」だとして、建築物の耐水技術の開発などが急務だと訴えている。
提言は、戸建て住宅を中心に、水害に対して建築分野が取り組むべき課題を提示した。とくに注目されるのは、耐水性能についての取組みが未着手だったとしていて、「浸水後の早期復旧につながる設計手法や対策技術の整備」が急務だと訴えている点だ。
近年、これだけ大規模な住宅などの浸水被害が続いていながら、耐水性能について“未着手”だったということは、“改むるに遅くはない”と言うべきか。もっとも、先進事例かもしれないが、同提言の巻末に参考資料として滋賀県の「耐水化建築ガイドライン」の事例なども取り上げている。
いずれにしても、建築物の耐水性能について、耐震性能や防火性能などと異なり「取組みは未着手である」と明記し、水流による荷重や浸水後の耐久性、浸水による断熱性能の劣化や衛生環境の悪化の防止、浸水時の安全確保や機能維持といった様々な分野の知見の検討が必要だが、そのような取組みは行われていなかったと総括している。
そのうえで、浸水後の早期復旧につながる設計手法や対策技術の整備を進めるために「実態把握とデータ蓄積」、「建築物単体」、「都市・地域計画」の3つの視点から取り組むべき課題が示されている。「実態把握とデータ蓄積」については、水害による建築物や設備の被害、人的被害、復旧の過程や対策の効果などを調査して情報を蓄積することが、具体的な対策を講じるうえで重要だと指摘。住宅内での人的被害の原因に関する詳細な調査が必要だとした。
とくに戸建て住宅は、戸数が多いうえ、水害に脆弱であるにもかかわらず対策が遅れており、調査研究の蓄積も限られている。さらに被災した家屋から発生する大量の災害廃棄物も大きな問題だとしている。
提言はまとめとして、「都市・地域計画分野については、これまで注力してきた避難行動やその施設計画だけでなく、中長期的に実効性のある土地利用誘導や災害危険区域等での居住床高さレベルの規制、浸水後速やかに機能回復できる設計手法など、地域のハザードに対応した、メリハリのある建築づくり・まちづくりが必要である」としている。
>>日本建築学会:提言「激甚化する水害への建築分野の取組むべき課題~戸建て住宅を中心として~
〈2020. 08. 02. by Bosai Plus〉