ニューノーマル長期大雨・新型コロナ・熱中症
…複合災害
中国大陸から伸びる梅雨前線の湿舌下、
「2020(令和2)年7月豪雨」は現在継続中
【「骨太の方針」の”百年の大計”――ニューノーマル抜本対策を 】
●気象庁「令和2年7月豪雨」、初めて継続中の災害事象に命名
本年(2020年=令和2年)7月3日以降、熊本県を中心に九州や中部地方など日本各地で集中豪雨が発生、気象庁は7月9日現在進行中の大雨災害について「令和2年7月豪雨」と名づけた(本紙表記は「2020年7月豪雨」)。
この命名は、気象庁が顕著な災害をもたらした自然現象について、後世に経験や教訓を伝承すること、災害発生後の応急・復旧活動の円滑化を図ることなどを目的として定めるもので、「令和2年7月豪雨」は、初めて現在継続中の災害事象への命名となっている。
ちなみに直近の4年間は毎年、気象庁が命名する大風水害が連続して発生している。2017年「平成29年7月九州北部豪雨」(福岡県朝倉市・東峰村・大分県日田市の洪水害・土砂災害等、18年「平成30年7月豪雨(「西日本豪雨」。広島県・愛媛県の土砂災害、岡山県倉敷市真備町の洪水害など、広域的な被害)、19年「令和元年房総半島台風」(台風第15号。房総半島を中心とした各地で暴風等による被害)、同19年「令和元年東日本台風」(台風第19号。東日本の広い範囲における記録的な大雨により大河川を含む多数の河川氾濫等による被害)といった具合である。
命名によって「後世に経験や教訓を伝承する」には、あまりにも頻繁すぎる大災害の発生である。
●「2020(令和2)年7月豪雨」の被害概況(継続中)
梅雨前線および前線上の低気圧は7月13日から14日にかけて日本海に進み、前線や低気圧に向かって暖かく湿った空気が流れ込むため、13日は西日本中心に、14日は西日本や東日本で大気の状態が非常に不安定となる見込み。また、西日本から東北地方では、これまでの大雨により、土砂災害の危険度が高まっている所、東北地方では増水している河川がある。さらに、少なくとも15日まで大雨が続くおそれがあり、その後前線はいったん南下するが17日頃に北上し、西日本、東日本付近にある見込みとなっている。
すでに10日以上続く各地の大雨で人的被害・住宅被害が多発しており、政府は7月14日の閣議で特別措置法に基づく「特定非常災害」に指定する政令を決定した。
以下、内閣府(防災担当)が公表した7月13日(6時30分)時点での被害状況のまとめから引用すると――
▼大雨等の状況(07月03日 00時~07月13日05時)
・主な1時間降水量(アメダス観測値)では、鹿児島県 鹿屋市 鹿屋 109.5mm、鹿児島県 日置市 東市来 98.5mm、熊本県 天草市 牛深 98.0mmなど(以下省略)
・主な24時間降水量(アメダス観測値)では、大分県 日田市 椿ヶ鼻 497.0mm、鹿児島県 鹿屋市 鹿屋 496.0mm、熊本県 球磨郡湯前町 湯前横谷 489.5mmなど(以下省略)
・主な期間降水量(アメダス観測値)では、高知県 安芸郡馬路村 魚梁瀬 1353.5mm、大分県 日田市 椿ヶ鼻 1247.0mm、熊本県 球磨郡湯前町 湯前横谷 1243.5mmなど(以下省略)
▼人的・物的被害の状況(消防庁情報:07月13日06:30 現在)
・死者:70人 *熊本県63人(球磨村23、人吉市19、芦北町10、八代市5、ほか)
・行方不明:11人 *九州以外では長野、静岡、愛媛、富山で死者・不明者が出ている
・住家全壊:564(熊本県八代市522、芦北町14、相良村8) *熊本県内で浸水被害多数
▼避難の状況(内閣府情報:07月13日 6:30 現在)
・避難者2616人、避難所347 *熊本県での避難者2195人、避難所119
●中国大陸に連なる梅雨前線――複合災害への複合課題も山積
天気図を見ると、今回、長期に大雨をもたらしている梅雨前線は中国大陸まで伸びているのがわかる。実は、この前線で生じた湿舌(しつぜつ:水蒸気を多量に含む気団が舌状に張り出している部分。梅雨前線の南側に現れ、しばしば大雨を降らせる)で、中国の西部・中部・中西部・東南部でも、6月に入ってからずっと大雨が続き、7月に入ってからも大規模な災害が発生・継続中なのだ。
中国メディアは、新型コロナウイルスの発生地である湖北省武漢をはじめ、西は四川省、貴州省、東は安徽省など、そして長江流域など広い範囲で洪水や土砂崩れなどの被害を伝えており、浸水する住宅や流される車、軍隊による被災者救出の模様などの様子を報じている。
これまでに死者・行方不明者は141人、被災・避難者は延べおよそ3800万人にのぼるとされ、規模から見れば死者数は比較的少ないが、長期に及ぶ大水害として災害史に銘記される様相だという。
その同じ梅雨前線の影響を受けたわが国の「2020年(令和2年)7月豪雨」もまた、災害史に銘記される大災害となり得る。観測史上初という大雨が長期・広域に及んで発生、これに新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の蔓延が重なり、被災者・避難者の避難、救援者・災害ボランティアの被災地支援を妨げる。
九州南部の梅雨明けは平年では7月14日だと言う。いずれこの長梅雨も明けるが、風水害での被害では復旧・復興もまた長期にわたることが予想される。梅雨明けが間近ということは暑熱の夏が明け、熱中症への警戒も重なってくる――まさに”長期化する複合災害”への複合課題が、がれきの山のように山積することになる。
●「強靭化・骨太の方針」に「ニューノーマル」の理念を
ひるがえって先ごろ、政府の「骨太の方針」(「経済財政運営と改革の基本方針2020」の原案で防災の項目の一部が前年度と同じ文面になっていることが同じ与党・公明党から批判され、菅義偉官房長官が記者会見で「昨年に引き続き全力で取り組んでいるので同じ文面が盛り込まれた」と釈明したという。
原案の記述は「国土強靱化基本計画に基づき、必要な予算を確保し、オールジャパンで対策を進め、国家百年の大計として、災害に屈しない国土づくりを進める」。この表現は書き代えられることになりそうだが、”国家百年の大計”であるならば、百歩譲って細かい表現はよしとして、むしろ加筆・補充される新しい理念・方針に注目したい。
とくに、コロナ禍後の「ニューノーマル」を踏まえた”国土強靭化”とはなにか――
所轄官庁である国土交通省が最近打ち出した「総力戦で挑む防災・減災」、「抜本的かつ総合的な防災・減災対策」、「新しい日常=ニューノーマル」、具体的には立地適正化計画の”キモ”、浸水想定区域から安全地帯への「居住誘導」などの抜本的な対策の着実な遂行に期待したい。
>>防災情報新聞2020年7月6日付け:2020国交白書に見る多重・複合課題
〈2020. 07. 15. by Bosai Plus〉