新しい”備え”の生活様式
防災と共通、情報で備える
【 巨大災害に”パンデミック”追加 世界終末を避けるには… 】
●カウントダウンを始めた?「世界終末時計」
わが国で「COVID-19」の猛威は比較的穏やか? 対岸の火事を軽視できない
低頻度巨大災害は、私たちの大きな関心事である。100年、1000年、あるいは1万年の時間スパンで起こる地球規模の天変地異だ。それは例えば火山の破局噴火(例えばイエローストーンの破局噴火)であり、マグニチュード(M)9レベルの巨大地震・津波(例えば南海トラフ巨大地震)であり、時には大都市直下で起こる活断層地震(例えば首都直下地震)などである。そして気候変動で想定される大都市湾岸ゼロメートル地帯を襲うスーパー台風や高潮、大雨による河川の大氾濫などは、眼前の私たちの防災対応課題である。
これらは低頻度とは言え、過去の”実績”から、いずれも100年目、あるいは1万年目が明日来るかもしれないという不確実な予見性のなかにある。
小惑星(または巨大隕石)が地球に衝突するという非常事態の想定はここでは除外しておこう。あり得ないことではなく科学者による真摯な研究もなされているのだが、私たちの災害から生き延びる想像力はそこまでは及び得ず、”SFでのシミュレーション”にとどめよう。
いっぽう、環境破壊、水危機、食料危機、そして核戦争は、私たち人間の存在と活動に起因する”もうひとつの巨大災害”とも言え、「世界終末時計」(米国の原子力科学者会報が仮想的に設定する核戦争発生の危険性などを概念的に評価し、地球最後の日=午前0時までの残り時間を示す時計)は、直近の発表で残り100秒に迫っていると言う。
さて、私たち市民の日常感覚からはやや現実離れの観のある低頻度巨大災害に、このほど、「COVID-19」(新型コロナウイルス感染症)パンデミックが、リアルな”国難(”国際的難局とも重なる)として加わった。わが国の緊急事態宣言は約1カ月半で解除となり、感染による死者・重症者がなぜか(今後検証が進められるはずだが)、幸い、比較的少ない状況である。もちろん、この感染によるわが国の死者数は決して少なくなく、他国とくらべて死者数の数字が少ないからと言って、一人ひとりの死はそれぞれ、なにものにも代えがたく重いものである。
しかし、世界で600万人の感染者が出ている現実をリアリティチェックすれば、感染の第2波・3波も含めて、今後想定される最悪事態はむしろ、これから起こり得ると考えるべきかもしれない。それはこの感染症の猛威が更に続き、人的被害が拡大するという想定のみならず、その悪影響において、である。
ある意味で相互作用が“ワン・ワールド”化した今日の国際関係にあって、決してわが国ひとり、経済復興に向けて、「新しい日常」「新しい生活様式」を求めればいいというものでもない状況がある。国際政治・経済の専門家は、パンデミックの蔓延で中南米、中東、アフリカの経済・財政的疲弊・破綻の懸念が増し、保護貿易傾向や自国主義回帰、米中対立、国連・国際機関の弱体化などと相まって、国際政治・経済が調整能力を失い、世界恐慌、さらには突発的・局地的紛争の頻発からの地政学的リスク=“熱戦(”冷戦ならぬ)を予想する声もある。
「世界終末時計」は毎年1月に公表されるが、もしいまそれを測るとすれば、果たして世界は危機回避に向けて、何秒の余地を持っているのだろうか。
「新しい生活様式」を踏まえた「新しい日常」に、「新しい備え」を加える
「新しい備え」としての情報収集の試み
「COVID-19」は新型ウイルスによる感染症であり、保健・健康の問題ではあるが、その態様は“新型”であることから、あまりにもわからないことが多い。私たちの身体がいつ病にとらわれるかわからないように、現代の最先端医学をもってしても予見し得ないのが新型ウイルスであり、人間の身体の反応だろう。私たちはそれを理解したうえで、今後の感染症流行事態に備えて、「新しい生活様式」を踏まえた「新しい日常」を成り立たせなければならない。そのためには、「新しい情報・知見」で備えることが必須となる。
いっぽう、この考え方は、防災にかかわる私たちにはこれまでなじんだ知見だとも言える。自然災害、とくに地震、火山噴火などの発生は、現代科学でも予測し得ない分野であり、そもそも災害は想定外で起こるからだ。私たちがこのたびの「COVID-19」から学んだことのひとつは、この予見不能性を国民が広く理解したことではないだろうか。災害は社会の脆弱性を襲う――人間起因の感染症も含む自然災害の外力と共通した災害の予見不能性の認識から、備えが始まる――予見不能な事態にどう備えるか、その鍵は「情報」にある。
●防災科研の「COVID-19下の災害時避難に関する情報集約Webサイト」
国立研究開発法人防災科学技術研究所(以下、「防災科研」)・自然災害情報室が、「COVID-19」蔓延下で自然災害が発生した場合の災害時避難について、47都道府県1741市区町村それぞれの対応を相互に参照し合えることを目的に、関連情報を集約したウェブサイトを試行的に構築している(本紙P.1タイトルカット図版参照)。
防災科研では、同サイトはあくまで研究活動の一環として試行的に実施しているため、内容の変更、中止、終了を予告なく行うことがあること、また、必ずしもすべての都道府県・市区町村情報を把握できていない場合があるため、同サイトに掲載がない場合の情報提供を呼びかけている。
現在収集しているニュース記事等の公開情報をもとに、課題、対策および実践事例に分類した「災害時避難サマリーレポート」(随時更新)もまとめている(β版画面上部にあるタブをクリックすることで、それぞれのカテゴリ画面(下記)を見られる/PDFダウンロード可)。
さらにその詳細は、「新型コロナウイルス×災害時避難」(新型コロナウイルス感染症の状況下における災害時避難に関する情報/随時更新)でも公開していて、国の「通知、通達など」、中央官庁・自治体等、研究機関等、メディア情報(ニュース)などをまとめた「課題(悩み)、手法(マニュアル、指針等)」のほか、「事例」や「その他(参考・ヒント)」などと、徹底している。 本紙「ClipBoard」の感染症版とも言え、本紙の場合は紙面の制約があるが、防災科研のウェブサイトの情報収集の徹底ぶりは目を見張るものがある。
●総務省消防庁も避難所の感染症対策への自治体の取組み状況をまとめ
総務省消防庁もまた、「災害時の避難所における新型コロナウイルス感染症対策や避難所の確保等に係る地方公共団体の取組状況等について」をまとめ、去る5月27日に公表している。このとりまとめは、近年災害を経験した地方公共団体等のうち110(都道府県47、市町村(特別区を含む)63)の地方公共団体に対してヒアリング調査を実施したものだ。
調査結果・取組み事例を見ると、「従来の避難所に加え、新たな施設の活用を予定している自治体」は、すべての自治体(47都道府県、63市町村)において、従来の避難所に加え、新たな施設の活用を予定。「活用を予定する施設」は、ホテル・旅館、学校施設(体育館のみでなく教室も活用)が多い。このほか、公民館、集会所、自治会施設、コミュニティセンターや民間施設、車中泊を想定した駐車場、グラウンド等の活用を予定している事例もある。
また、「感染症対策に関する物資の備蓄状況」については、大半の市町村において、パーティション(56/63市町村)、段ボールベッド(49/63市町村)、マスク(62/63市町村)、消毒液(61/63市町村)を備蓄済み、または今後購入予定とのことだ。詳細は下記リンク参照。
●教訓を後世に伝える「COVID-19アーカイブ化プロジェクト」進行中!(世界でも)
朝日新聞5月28日付けによれば、新型コロナウイルス感染拡大による未曽有の体験を後世に残そうと、各地の博物館や図書館がアーカイブづくりに乗り出しているという。飲食店のテイクアウトのチラシや、住民手づくりのマスクなどの関連資料を幅広く集め、のちにコロナ禍で私たちの暮らしに何が起きていたのかを、きちんとたどれるようにするためだ。
朝日新聞も触れているが、国立国会図書館ではネット上の新型コロナに関わるウェブサイトの保存に力を入れている。厚生労働省のページや各種イベントの自粛、自治体の対応など計108タイトル(5月21日現在)を収集・紹介している。
実はこのアーカイブ化の動きはドイツや中国、韓国、米国など世界各所にもあって、同じく国会図書館がまとめた世界の“COVID-19アーカイブ”情報が下記リンクに掲載されている。
国立国会図書館:新型コロナウイルス流行下の社会の記憶を収集・アーカイブするプロジェクト“coronarchiv(”ドイツ)
〈2020. 06. 01. by Bosai Plus〉