CeMI環境・防災研究所調査結果より「安心して避難できる感染防災対策」

COVID-19 蔓延下の避難所運営

感染症の第2波、第3波に備えて、
いつでも「オン・アラート」
(On Alert=いつでも備え)

【 “複合課題”――避難する?しない? ジレンマも山積… 】

感染症蔓延下での災害と避難――“複合課題”をどうする?
 CeMI防災・環境研究所「国民の意識・行動調査」より


 環境保全と防災について調査・研究・普及啓発を行うCeMI防災・環境研究所(以下「CeMI」: Crisis & Environment Management Policy Institute/NPO法人 環境防災総合政策研究機構)が先ごろ、「災害時の避難における新型コロナ感染症対策等に関する国民の意識や行動調査」の集計結果(速報)を公開して注目されている。CeMIは「タイムライン(防災行動計画)」の策定支援でも知られ、「台風に備えた家族と私のタイムライン」やわが国初の「高潮タイムライン」策定支援などのユニークなバーション展開が話題だ。
 今回の「避難意識・行動調査」も、調査対象は「過去の災害時に避難経験がある人」という独自の視点で行われた。

 調査対象者は当然、災害時避難について具体的・体験的なイメージを有することから、新型コロナ感染症蔓延下での避難のあり方についても有意な行動情報の提供者となり得る。調査は、4月10日~14日の5日間、緊急事態宣言が出された北海道、東京都、大阪府、兵庫県に加えて熊本県の5都道府県の住民のうち、これまで水害や地震で避難所・親戚知人宅(水平避難)、自宅の2階など(垂直避難)安全な所へ避難した経験のある人を対象として、インターネットで行われた。
  調査項目は、①災害リスクの認知と行動、②新型コロナウイルス感染症への関心度、③新型コロナウイルス感染症による行動変容、④災害時の避難と新型コロナウイルスの対応意識――である。

 調査結果では、「感染拡大が災害時の避難行動に影響すると思う」人が4分の3にあたる75%にのぼり、複数回答では「様子を見て避難先を変える」44%、「感染防止対策をして避難所に行く」30%、「自治体が指定する避難所に行かないようにする」28%など、興味深い結果となっている(詳細は同調査結果(速報)を参照)。
 「新型コロナ感染症」と「より安全な避難環境」の両立は、自治体や国民にとって喫緊の課題であり、避難体制整備が急務のいま、同調査報告は示唆に富んでいる。CeMIでは近々、「新型コロナウイルス感染症流行時の災害と避難環境を考える手引き(仮称)」を公開する予定だという。

P1 CeMI環境・防災研究所調査結果より「安心して避難できる感染防災対策」 - 常襲化する自然災害<br>“複合課題”をどうする?
CeMI防災・環境研究所が先ごろ公開した「災害時の避難における新型コロナ感染症対策等に関する国民の意識や行動調査」の集計結果(速報)より、避難所の感染防止対策について、回答者が「安心して避難できる対策」。同調査は「過去の災害時に避難経験がある人」が対象という点で示唆に富む(本文参照)。わが国は緊急事態宣言の一部解除を5月14日に発表したが、災害への備えについて大きな課題は残る

>>CeMI環境・防災研究所:「災害時の避難における新型コロナ感染症対策等に関する国民の意識や行動調査 集計結果(速報)」

常襲化する風水害と不穏な緊急地震速報アラート音、
 忍び寄る熱中症の熱い夏


 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)蔓延下のわが国で、にわかに自然災害との複合災害への懸念が大きくなっている。
 5月に入って各地から最高高温の話題が増えている。熱中症の症状は新型コロナの症状と似ているとされる。感染拡大防止用マスクは熱中症リスクを高める一因とされ、暑さに体が慣れる「暑熱順化」ができずに”隠れ脱水”への警鐘も鳴らされている。総務省消防庁は毎年、熱中症の疑いで救急搬送の統計を5月1日を含む週から始めるが、今夏に向けても臨戦態勢に入ることになる。

 いっぽう、直近の5月12日、梅雨入りしたばかりの沖縄地方は、梅雨前線の影響で大気の状態が不安定となり、石垣市1時間126mmの観測史上最大の降水量を記録。石垣市と竹富町では雷の影響で約5500世帯が停電し、道路冠水など市民生活にも大きな支障が出たものの、避難所開設には至らなかった。
 去る3月11日、北海道東部を中心とする降雨と急な雪解けで、広い範囲で河川が増水、標茶町(しべちゃちょう)で一時避難指示が出されて一部住民(約250人)が3カ所の避難所に避難をした。当時すでに道が独自に宣言した「緊急事態」下で、町は避難者の密集を避け、体育館避難所などの床にはテープを貼り、1人あたりのスペースを2m四方に区切ったほか、入口に消毒液を置き、受付で体調を確認、町が備蓄するマスクを配布して対応したという。

P2 1 総務省消防庁「2019年の熱中症による救急搬送状況(週別推移)」より - 常襲化する自然災害<br>“複合課題”をどうする?
総務省消防庁「2019年の熱中症による救急搬送状況(週別推移)」より

国の「通知」――災害避難所と感染症を“ヒモ付け”
 自治体、避難所整備・受入れ態勢づくりを急ぐ

 4月13日に関東地方を低気圧が通過して大雨となったとき、昨年の台風15号などで大きな被害を出した千葉県南部の鴨川市では大雨警戒レベル4の避難勧告も出されたことで、市が避難所を市内3カ所に開設、COVID-19感染拡大を防ぐための対応がとられた。
 避難所では受付で全員の体温を計測し、37度5分以上の熱がある場合(当時)は、保健師と相談したうえ受入れが可能かを判断したり、大勢が1部屋に集まらないように避難する部屋を事前に分けて態勢をとったほか、避難所に消毒液を設置し、避難者に配布するマスクも準備した。

 これに先立ち、国(内閣府政策統括官(防災担当)付参事官(避難生活担当))は4月1日と7日、「避難所における新型コロナウイルス感染症への対応」について通知を発出、出水期の災害への備えとして災害避難所と感染症を“ヒモ付け”した。
 10年ほど前の新型インフルエンザ・パンデミック時は、日本での感染者数・死亡数が比較的少なく、新型インフルも季節性インフル化して自然消滅したこともあって、その後、感染症への危機感・教訓は危機管理・防災分野において必ずしも活かされてこなかった。感染症蔓延下での複合災害――避難所運営などについてのガイドラインもとくにつくられていない。

 しかし、今回の新型コロナウイルスに対しては、近年相次ぐ風水害を踏まえ、出水期を迎える いま、感染症蔓延下での避難所運営が改めて大きな課題として浮上している。同時進行的に、想 定内としての複合災害対応への態勢整備(マニュアルづくり)は進んできている(後述)。ただし、 実際の運用にあたっての課題は、依然として山積していると言わざるを得ない。

P2 2 内閣府からの「更なる」通知(4月7日) - 常襲化する自然災害<br>“複合課題”をどうする?
内閣府は4月1日と7日に「避難所における新型コロナウイルス感染症への対応について」を自治体に通知(上画像は7日の「更なる」通知より)

自治体の新型コロナ対策と避難所対応の事例
 避難所増設、ホテルなど他施設活用、車中・テント泊……など


 災害時の避難所新型コロナ対策を講じる自治体の事例を以下、あげてみる(5月14日現在)。

▼宮城県気仙沼市:新型コロナウイルス感染症等対策を考慮した避難所対応
 重要事項として「感染症予防」、「避難スペースの分散化」、「指定避難所の増設および他施設の活用」をあげている。災害の種類や規模にもよるが、避難所を増設する場合には自治会・自主防災組織等へ避難所開設・運営の協力を依頼することもあるとしている。

▼徳島県:「サブ避難所」の開設も
 飯泉(いいずみ)嘉門徳島県知事は定例記者会見で、指定避難所以外にも可能な限り多くの避難所、グラウンドなどでの「テント泊」など「サブ避難所」を開設することを打ち出した。

▼福岡県朝倉市:避難所施設、人員の拡充へ
 新型コロナウイルス感染症対策本部会議で、初期避難所開設は3施設を基本としてきたが、6施設に増やすこと、避難所従事者は現在2人1組だが、感染予防対策に伴う業務量増加のため、初期対応時に開設する6施設では3人1組の配置とするなどを決定。また、避難所運営マニュアル(新型コロナウイルス感染症対策版)を策定した。

▼大分県別府市:新型コロナウイルス感染症対応業務継続計画
 職員が感染して出勤困難者が発生し、市の業務継続が困難となる場合に備え、限られた人員で感染拡大を防止し、行政機能の継続性を確保することを目的として、別府市新型コロナウイルス感染症対応業務継続計画を策定した。同計画では、市の通常業務のうち、市民生活を維持するために中止することができない業務を「継続業務(通常業務A)」、縮小・中止による市民生活に与える影響が比較的少ない業務を「縮小業務(通常業務B)」、または「中止業務(通常業務C)」として選定、人員を集中させる。

▼内閣府原子力防災担当:原子力災害での避難(NHKニュースより)
 原子力発電所で大事故が起きるなどした際の避難計画には感染症の流行への具体的な対策が示されてないことから、内閣府は計画内容の見直しの検討を進めることになった。国の原子力防災の指針や計画には感染症への具体的な対策が示されていないことから検討を進める。

P3 1 宮城県気仙沼市「新型コロナウイルス拡大予防のための避難所ルール」イメージ画より - 常襲化する自然災害<br>“複合課題”をどうする?
宮城県気仙沼市「新型コロナウイルス拡大予防のための避難所ルール」イメージ画より

大規模風水害の常襲化、内陸活断層地震の突発的発生、
 そして想定される海溝型巨大地震に「教訓+想像力」で備える


 私たちはここ数年、毎年、大規模な風水害に見舞われてきた。まさに温暖化、気候変動を背景に、数十年に一度の大災害が常態化してきたと言える。災害風化などを吹き飛ばすような毎年の風水害を以下、リマインド(再確認、念押し)しておこう――
・2019年  9月の台風15号(気象庁命名「房総半島台風」:千葉県で住宅被害7万棟など)。 10月の台風19号(気象庁命名「令和元年東日本台風」:関東、甲信、東北地方などで記録的な大雨。死者不明者89人)。同21号:千葉県で大雨、河川氾濫・浸水・土砂災害
・2018年  7月豪雨(西日本豪雨)
・2017年  7月九州北部豪雨
・2016年  台風7号・11号・9号・10号連続来襲(グループホーム被災など)
・2015年 9月関東・東北豪雨(鬼怒川水害など)
・2014年 8月豪雨(広島土砂災害など)
・2013年  10月台風26号による暴風・大雨(東京都大島町土砂災害など)

 いっぽう、このところ緊急地震速報(警報)が何度か鳴り響いている。気象庁資料によれば、直近では5月11日(08:58)に「茨城県沖」(M5.5)、5月6日(01:57)に「千葉県北西部」(M5.0)、5月4日(22:07)「千葉県北東部」(M5.6)、4月23日(13:44)「長野県中部」(M5.5)、4月20日(05:39)「宮城県沖」(M6.2)、3月13日(02:18)「石川県能登地方」(M5.5)で発表。これらのうち観測最大震度は最大5強(3月13日「石川県能登地方」)で、ほかは震度4以下、幸い大きな被害はなかった。

 2020年に入ってからは1月3日に「千葉県東方沖」、2月1日に「茨城県南部」を震源とする地震で緊急地震速報が発表されている。2019年は通年で8回、北海道胆振東部地震や大阪北部地震が起こった2018年は(両地震を含めて)18回、発表されている。本年はこの半年ですでに昨年分の速報が発表されたことになる。
 これから本格的な出水期を迎えることはもとより、いつでも大地震が起こり得るわが国で、最悪想定に備えることは喫緊の課題である。

P3 2 気象庁資料より「2019年台風19号予想進路(10月9日15時)」 - 常襲化する自然災害<br>“複合課題”をどうする?
気象庁資料より「2019年台風19号予想進路(10月9日15時)」

>>「感染症蔓延下の避難所運営 マニュアル各種の習熟を」へ続く

〈2020. 05. 15. by Bosai Plus

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