市民のゆとり・安全重視へ舵を切った…(?)
名称はいかめしいが、要は「安全で魅力的なまちづくり推進」改正法案
本紙は最近号で、「コンパクトシティ」「ウォーカブルシティ」などを取り上げ、また国土交通省の「防災・減災に向けて総力戦」を挑むという宣言も紹介した。国土交通省と言えば、わが国の“アベノミクス成長戦略”を支える重厚長大(死語?)的なハード施策の推進役の観があったが、まちの雰囲気や市民のゆとり、安全などを重視する方向に舵を切ったか、だいぶ風向きが変わってきたように思える。こうした流れに沿うかたちで、政府は、頻発・激甚化する自然災害に対応するとともに、まちなかにおけるにぎわいを創出するためとして、安全で魅力的なまちづくりの推進を図る「都市再生特別措置法等の一部を改正する法律案」を去る2月7日、閣議決定した。
災害ハザードエリアにおける新規立地の抑制、移転の促進、防災まちづくりの推進の観点からの総合的な対策を講じることが喫緊の課題との認識からの改正とするとともに、こうした取組みに併せて、駅前等のまちなかにおける歩行者空間の不足や、商店街のシャッター街化などの課題に対応するとしている。ウォーカブルシティでは、まちなかにおいて多様な人々が集い、交流する「居心地が良く歩きたくなる」空間を形成し、都市の魅力を向上させるとしたが、この法律案は、これらの課題に対応するため、安全で魅力的なまちづくりを推進するためのものだという。では、その「一部改正」の概要は――
■安全なまちづくり
①災害ハザードエリアにおける新規立地の抑制
災害レッドゾーンにおける自己業務用施設の開発を原則禁止、市街化調整区域の浸水ハザードエリア等における住宅等の開発許可の厳格化、居住誘導区域外における災害レッドゾーン内での住宅等の開発に対する勧告・公表
②災害ハザードエリアからの移転の促進
市町村による災害ハザードエリアからの円滑な移転を支援するための計画作成
③居住エリアの安全確保
居住誘導区域から災害レッドゾーンを原則除外、市町村による居住誘導区域内の防災対策を盛り込んだ「防災指針」の作成
■魅力的なまちづくり
①「居心地が良く歩きたくなる」まちなかの創出
官民一体で取り組む「居心地が良く歩きたくなる」空間の創出(公共による車道の一部広場化と民間によるオープンスペース提供等、まちなかエリアにおける駐車場出入口規制等の導入(メインストリート側ではなく裏道側に駐車場の出入口を設置)、イベント実施時などにまちづくり会社等の都市再生推進法人が道路・公園の占用手続等を一括して対応
②居住エリアの環境向上
居住誘導区域内における病院・店舗など日常生活に必要な施設について用途・容積率制限を緩和、居住誘導区域内における都市計画施設の改修促進
これまでわが国では、経済性・利便性の追求を優先して国土開発計画を押し進め、低地や浸水区域、山間部などの危険なエリアや地価の安い郊外の土地開発を推進してきた。本紙は前号で神奈川県逗子市の市街地(通学路)で突然発生したがけ崩れで女子高校生が死亡した件を取り上げたが、実は、神奈川県は土砂災害の発生リスクが首都圏で最も高いという。
古くは関東大震災での土砂災害の被害例があるが、最近の調査で、このとき神奈川県では土砂災害が101カ所で発生、900人以上が犠牲になるなど被害が集中したことがわかっている。それは山間部に限らず横浜や横須賀など市街地でも多発、その後の大雨でも崩れ、巨大地震後の二次災害のリスクも浮き彫りになったという。
ちなみに、災害レッドゾーン指定は、土砂災害で24名の死者を出した1999年の広島豪雨を受けて始まった。あれから20年、人口減と高齢化社会の本格化を背景に、コンパクトシティ構想が進みつつある。都市の一画に行政や医療、商業施設などの機能を集約した「都市機能誘導区域」と、人口密度を維持する「居住誘導区域」を設け、効率的な生活・行政を目指す立地適正化計画制度に基づく仕組みだ。しかし、居住誘導区域外の開発を許容していることや、浸水想定区域が居住誘導区域に含まれるなど、いろいろな課題も浮上しているという。
国の施策では、“美しい言葉”、修辞語・かけ声が先行しがちなことを踏まえたうえで、「安全で魅力的なまちづくり」の進展を見極めたいところだ。
>>国土交通省:安全で魅力的なまちづくりを推進します
〈2020. 03. 02. by Bosai Plus〉