“ワンコイン”でも大きな可能性
あらゆる場所の浸水情報を発信
官民連携で流域の浸水状況を把握
―「浸水センサ表示システム」実証実験中デス!
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■ 小型・長寿命・低コスト―「ワンコイン浸水センサ」を大量製造・設置
■ センサを設置する自治体・企業・大学・団体を公募、実証実験中!
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温暖化を背景に大雨による浸水被害が頻発するなか、迅速な災害対応や地域への情報発信を行うため、堤防における越水や決壊などの状況や、周辺地域における浸水の状況を速やかに把握することが求められている。現状、規模の大きな河川で用いられている水位計や監視カメラでは、大雨の際には夜間、浸水した範囲の特定がむずかしく、危険な道路の通行止めを適切に行えないほか、水位計やカメラが少ない中小河川では、氾濫などによる被害の確認に時間がかかるといった課題がある。
いっぽう、流域内で活動を行う各種企業・事業体などにおいても、店舗や事業施設の適切な管理、住居や車両の浸水被害への保険金支払いなど、災害後の対応の迅速化などのため、浸水の状況を容易に把握する仕組みへのニーズが高まっている。
そこで国土交通省では、こうしたニーズに対応するためには、小型、長寿命かつ低コストで、堤防や流域内に多数の設置が可能な「ワンコイン浸水センサ」を大量に製造、広範囲かつ必要に応じて緻密に設置し、それらからの情報を収集する仕組みの構築が有効ということで、2022年度から実証実験を始めた。
24年からはワンコイン浸水センサの設置検討モデル・エリアの全国展開に向けて、自らの施設などに浸水センサを設置・管理する自治体・企業・大学・団体などの新規参加者の公募を開始、24年度は162の自治体・45の企業等で実証実験を始めている。
本紙は、2022年9月2日付けで、国土交通省の「ワンコイン浸水センサ」実証実験開始を伝えたが(下記に同記事へのリンク)、ワンコイン浸水センサの開発・製造を担う企業の事例として、光陽無線株式会社(福岡市)を取り上げたので、参考まで再掲する。
同社では、国や県の管理下にある1級河川や2級河川といった規模の大きな河川では水位計等が整備され、常に管理されているが、市町村管理の準用河川や普通河川といった規模の小さな河川では、設置費用、維持費などの問題もあり整備が進んでいないのが現状で、簡単に小河川、ため池などの水位、道路や建物への冠水、浸水情報を提供できないかと考え、開発に至ったという。
「ワンコイン浸水センサ」は、縦4cm、横3cmほどの500円硬貨よりやや大きなセンサで、まさに“ワンコイン”大。浸水が想定される地域の堤防や建物、道路などに取り付け、浸水状況をリアルタイムで把握する。センサは水につかると電波が途切れる単純な構造で、水位計と比べると安価で、複数のセンサを簡単に設置でき、夜間や水位計などのない場所でも浸水の有無を面的に把握できることが期待される。
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■「 浸水センサ表示システム」のウェブ上 公開( 11月14日から)
■「 ワンコイン浸水センサ」 水災の防災・減災に大きな可能性
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国土交通省は先ごろ、「ワンコイン浸水センサ」実証実験の一環として、浸水の危険がある地域に浸水探知センサーを多数設置、リアルタイムに状況を把握する「浸水センサ表示システム」のウェブ上での公開を11月14日10時から始めている。
11月14日は全国的に好天であったため、浸水センサ上の大雨データの表示はなかったが、設置箇所が表示された。カット図版で取り込んだのは、埼玉県を流れる一級河川・「大落古利根川(おおおとし ふるとねがわ)」の春日部市周辺の一部。ちなみに大落古利根川は、利根川水系中川の支流で、流路延長は26.7km。杉戸町・宮代町・春日部市・越谷市・松伏町の境界付近を流れ、中川に合流する。江戸時代以前は利根川本流がこの河道を流れ東京湾へ注いでいた(「大落」とは農業排水を落とす幹線排水路の意味)。
なお、「浸水センサ表示システム」について、国交省では実証実験として試行的に実施することから、異常なデータが表示されるなどの不具合が発生する可能性があること、また、今回の公開については、予告なく変更または終了する場合があることを、あらかじめ承知おきのことと断っている。
「ワンコイン浸水センサ実証実験」への参加者の声として、ある自治体担当者は、「浸水センサを活用することで、浸水範囲や浸水深を早期に把握することが可能となるため、避難情報の発令や通行規制の判断、面的な被害状況の把握につなげたい」とし、企業関係者は、「急な浸水や内水氾濫をいち早く把握することで管理施設の被害防止・軽減、早期復旧に活用したい」としている。
これまで浸水被害状況の把握については、ヘリによる面的な調査や、浸水後の痕跡調査などに限られていたが、ヘリによる調査ではリアルタイム性はあるものの、悪天候時や夜間の調査は不可能だ。痕跡調査についても、広範囲での一斉調査は困難で、当然のことながら人員確保や専門技術者の支援が必要になる。
いっぽう、「ワンコイン浸水センサ」により、浸水状況がリアルタイムに把握できるようになることで、自治体にとっては避難情報の発令だけでなく、災害対応について面的な把握と同時にピンポイントでのリスク管理ができ、内水氾濫時やアンダーパスでの通行可否の判断などにも役立てることができる。
民間企業においても施設・工場などの浸水リスクを把握できるほか、例えば警備会社が警備対象施設に設置して対応の迅速化を図ったり、一般市民においても避難マイ・タイムラインへの活用や、駐車場への設置でマイカーの浸水被害を避ける手段ともなり得る。
ITC・デジタル化時代、ドローンの小型化による活用・応用も多岐にわたるが、「ワンコイン浸水センサ」もまた、わが国の防災・減災に資するところは大きいと言えそうだ。
〈2024. 11. 15. by Bosai Plus〉