もうひとつの死角―外国人旅行者
人気旅行先・日本、被災リスクは?
インバウンド(訪日外国人旅行)が盛況を極めるなか、
自然災害リスクも高まるが…
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訪日外国人旅行者に日本は人気だが…
防災・リスク管理面で 旅行者の保護・支援は大丈夫か?
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高所得者層を中心とした読者を持つ米国大手旅行雑誌『コンデナスト・トラベラー(Condé Nast Traveler)』誌が2024年10月1日に発表した読者投票ランキング「リーダーズ・チョイス・アワード」の米国版、および英国版で、「世界で最も魅力的な国」として日本が2年連続で第1位に選出された。
また、同誌の米国版ランキングでは人口50万人以上の大都市部門「世界で最も魅力的な大都市」で、東京が第1位(昨年第2位)に選出された。このニュースは日本政府観光局(JNTO)も取り上げたが、このところ海外の旅行媒体が盛んに日本の観光的な魅力を伝えている。
JNTO:大手旅行雑誌の米国版・英国版ランキングで日本が第1位をダブル受賞
こうした評価を反映しつつ、2023年の訪日外国人数は2500万人を越え、コロナ禍以前の2019年と比較しても8割まで回復(JNTO発表資料より)。同年の訪日外国人旅行消費額は5兆2923億円と過去最高となった(観光庁 訪日外国人消費動向調査より)。数多くの世界遺産を擁し、四季折々の魅力にあふれ、各地に魅力的な食・風土・文化を訴求できる日本は世界有数の観光地であることは確かで、今後も日本人気は高まっていくと見られる。
いっぽう、防災・リスク管理面から見れば、わが国はこの十数年余を振り返っても、2011年東日本大震災、2016年熊本地震、今年元日に発災の能登半島地震をはじめ、毎年のように国内各地で発生する大規模水害など、大規模災害は止むことがない。
温暖化を背景に台風や大雨など気象災害の増加と激甚化、大地震・津波、火山活動等の発生可能性の高まりも否定できず、観光客・旅行者と観光産業や観光地が災害により影響を受けるリスクも高くなってきているのだが、観光事業者の危機への備えは、必ずしも十分でないのが実態のようだ。
内閣府の「企業の事業継続及び防災の取組みに関する実態調査」の結果をみると、「宿泊業・飲食サービス業」の事業継続計画(BCP)策定率は、この数年間増加傾向にあるものの、それでも27.2%と調査対象業種の中では最も低い結果となっている。
内閣府:企業の事業継続及び防災の取組みに関する実態調査(概要)
地理に不案内で情報入手に困難をきたす旅行者(日本人・外国人を問わず)は原則として災害時要援護者として位置づけられる。しかし、被害が広域に及んだ東日本大震災での同エリアを旅行中の被害について、数値・資料などはまとめられていないようだ。だが、東日本大震災で旅行者の被災状況(人的被害など)が不明、あるいは被災者が少なかったとしても、それはあくまで調査が不十分だった可能性があるということではないか。
本紙は「関西万博防災実施計画」を最近取り上げたが、ビッグイベント対策だけではなく、災害時“情報弱者”の視点からも、今後想定される南海トラフ巨大地震、首都直下地震、豪雨災害、噴火・豪雪災害などに向けた旅行者の安全確保・避難対策は喫緊の重要課題のはずである。本記事ではとくに、オーバーツーリズムの問題も抱える訪日外国人旅行者対策について、危機管理・防災の視点から、現状の対策ツール例を見てみよう。
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●災害時情報提供アプリ「Safety tips」を拡充
訪日外国人旅行者のあいだで知られる観光庁の「Safety tips」
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観光庁は、訪日外国人観光者用に災害時に役立つツールとして災害時情報提供アプリ「Safety tips」を2014年10月から提供している。これは、訪日外国人旅行者に広く知られていて、日本国内における緊急地震速報、津波警報、気象特別警報等をプッシュ型で通知できるほか、対応フローチャートやコミュニケーションカードなど、災害時に必要な情報を収集できるリンク集などを掲載する。観光庁が監修し、対応言語は15言語となっている。
ちなみに、2017年3月から「Safety tips」に「新たに提供する情報」として、外国人受入れ可能な医療機関情報(日本政府観光局の発信する情報)、熱中症情報、事前学習(各災害についての解説、応急処置方法)、避難所情報(外部アプリ *ただし開設状況は除く)、天気予報、緊急連絡先情報(110番、119番、母国大使館のワンクリックダイヤル)、交通機関情報を追加した。
また、「機能を改善する内容」としては、言語選択機能の新設(既存のアプリは端末の言語設定に起因)、地震発生時の震源地周辺の震度の表示、災害発生場所と現在地の関係性の見える化、対応フローチャートの充実、リンク先の充実。また、全体デザインも色調をシンプルなものへと変更し、目に入りやすいデザインへ変更している。
なお、「Safety tips」AP(I アプリとプログラムをつなぐもの)を利用することにより、一から仕組みを開発することなく、他のアプリケーションサービスでも災害情報を受信することが可能になることから、アプリ運営事業者には、「Safety tips」API活用を促している。
観光庁:訪日外国人観光者用災害時に役立つツール「Safety tips」
こちらも政府機関である日本政府観光局(JNTO)は、非常時の外国人旅行者の安全・安心確保のため、365日、24時間、多言語で対応するコールセンター「Japan Visitor Hotline」を開設していて、関係者にその周知・活用を呼びかけている。
いっぽう東京都では、災害が発生した場合、日本人だけではなく外国人に対しても安全確保のための避難誘導や多言語での情報提供等が必要となることから、都内の宿泊・飲食・小売等の観光事業者、その他観光関連団体等を対象に、被災時の実体験を交えながら地震や台風などに備える際のポイントを案内するセミナーを12月12日に開催予定だ。
東京都:「観光事業者のための災害時対応力向上セミナー」12月12日に開催
日本最大級の訪日外国人向け観光情報サービス「LIVE JAPAN PERFECT GUIDE」(2016年4月、東京版オープン)は、東京版、北海道版、関西版が開設されている。「LIVE JAPAN」は、災害発生時には掲載施設自らが登録可能な災害支援情報を多言語で発信できる新機能「災害情報タイムライン」や自治体の防災ページ、公共交通機関の交通情報リンクを掲載し、災害発生時には帰宅困難者の受入れや炊出しなど支援情報も伝え、訪日外国人が安全・安心に旅を楽しめる環境を整えている。
関西観光本部:「LIVE JAPAN PERFECT GUIDE KANSAI」
〈2024. 11. 01. by Bosai Plus〉