災害教訓が明日の防災行動を促す
「NIPPON防災資産」を自分事化
「まさか自分が被災!」、「この地で災害が!」―
“防災資産”で正常化バイアスを正す!
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■ 過去の災害の教訓や今後の備えを理解、リスクの自分事化を図る
■「 優良認定」と「認定」の違い――
避難行動や防災行動につながる工夫、仕掛け等にとくに優れる
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内閣府と国土交通省は、地域で発生した災害の状況をわかりやすく伝える施設や災害の教訓を伝承する活動などを「NIPPON防災資産」として認定する制度を本年5月に創設、去る9月5日に有識者による選定委員会での審議を踏まえ、22件の「NIPPON防災資産」(優良認定:11件、認定:11件)を認定したことを、本紙は9月24日付け記事で速報的に伝えた。
「NIPPON防災資産」認定制度は、認定された防災資産を通じて、住民一人一人が過去の災害の教訓や今後の備えを理解することで、災害リスクの自分事化を図るとともに、主体的な避難行動や地域の防災力の更なる向上につなげることが目的。
「NIPPON防災資産」の認定にあたっては、全国の流域治水協議会等を通じて抽出された防災資産の候補案件を対象に、有識者による選定委員会(委員長:佐藤翔輔・東北大学災害科学国際研究所准教授、委員:大知久一・日本損害保険協会専務理事、曽山茂志・全国地方新聞社連合会会長(西日本新聞社執行役員東京支社長兼編集長)、徳山日出男・国土技術研究センター理事長)での審議を経ている。
優良認定・認定ともに一定の有効期間を設け、活動などが引き続き良質なものであるかの確認を行ったうえで、有効期間を更新する。ちなみに、「優良認定」と「認定」の違いについて、「優良」は、「災害リスクを自分事化するという観点において、主体的な避難行動や防災行動につながる工夫、仕掛けなどがとくに優れているもの」としている。
今後、認定された防災資産の価値がさらに高まり、各地域における防災力の向上を牽引することが期待されるところだ。
本記事では、「NIPPON 防災資産」の「優良認定」11件について、改めてその概要を“ガイド”することとしよう。
「NIPPON防災資産」の優良認定11件と認定11件は下記のとおり。
▼優良認定: 洞爺湖有珠火山マイスター(北海道洞爺湖町/有珠山噴火災害)、3.11伝承ロード(青森県、岩手県、宮城県、福島県/東日本大震災)、嬬恋村・天明三年浅間山噴火災害語り継ぎ活動(群馬県嬬恋村/天明3年浅間山噴火災害)、えちごせきかわ 大したもん蛇まつり(新潟県関川村)、阪神・淡路大震災記念 人と防災未来センター(兵庫県神戸市)、和歌山県土砂災害啓発センター(和歌山県那智勝浦町/平成23年紀伊半島大水害)、稲むらの火の館(和歌山県広川町/安政南海地震)、広島市豪雨災害伝承館(広島市/平成26年8月豪雨)、四国防災八十八話マップ(徳島県、香川県、愛媛県、高知県/四国での災害すべて)、黒潮町の防災ツーリズム(高知県黒潮町/津波被害想定)、熊本地震記憶の廻廊(熊本県/平成28年熊本地震)
▼認定: 奥尻島津波館及び奥尻島津波語り部隊(北海道奥尻町/平成5年北海道南西沖地震)、厚真町震災学習プログラム(北海道厚真町/平成30年北海道胆振東部地震)、栗駒山麓ジオパーク(宮城県栗原市/平成20年岩手・宮城内陸地震)、信濃川大河津資料館を拠点とした地域活性化の取組(新潟県燕市/信濃川水害全般)、土岐川・庄内川流域治水ポータルサイト(愛知県名古屋市/土岐川・庄内川水害全般)、福知山市治水記念館(京都府福知山市/昭和28年9月台風13号など)、坂町自然災害伝承公園(広島県坂町/明治40年、平成30年7月豪雨)、乙亥会館災害伝承展示室(愛媛県西予市/平成30年7月豪雨)、雲仙岳災害記念館(長崎県島原市/雲仙・普賢岳噴火災害)、念仏講まんじゅう配り(長崎市/万延元年土砂災害)、大分県災害データアーカイブ及びフィールドツアー(大分市/大分県でのすべての災害)
では、このうち「優良認定」防災資産を“典型例”としてガイドしてみよう(順不同)。
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●「NIPPON防災資産」の候補はほかにも数多くあるはず…
「マイ・防災資産」として あなたが心にとめている事例も…
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本記事イメージカット図版で取り上げた「えちごせきかわ大したもん蛇まつり」は、新潟県岩船郡関川村に伝わる大蛇伝説と交えた水害を伝承するまつりという形で、50年以上前の災害に関する活動が現在も継続されている村をあげてのまつり。まつりのシンボルとなる大蛇の長さは、死者104名を出した「1967(昭和42)年8月羽越水害」の発生日(8月28日)にちなみ、82.8mと設定され、村の中学生全員が参加し、事前学習を通じて、まつり開催の意義を学んでいる。
2022(令和4)年8月の大雨では早い段階で住民自らが避難を開始するなど、まつりが災害教訓として地域に深く浸透している点が評価された。
「3.11伝承ロード」では「教訓が、いのちを救う。」という明確なコンセプトのもとで、東日本大震災関連の震災伝承施設をネットワーク化、防災に関する様々な取組みや活動を数多く実施。また、官民一体で「東北復興ツーリズム推進ネットワーク」を設立し、外国人も含めた旅行教育の訪問先となり「東北復興ツーリズム」を推進している点などを評価。
「四国防災八十八話マップ」は四国4県の教育委員会を通じて小中学校等に配布され、現地探訪やオンラインツアーの実施、効果検証(PDCAサイクル)により学習方法や普及啓発ツールの開発・支援を継続している点を評価。
「高知県黒潮町の防災ツーリズム」。避難行動をとれば助かるという意識改革(津波避難放棄者ゼロ)に向けて、官民が一体となって防災のワークショップを何度も繰り返しながら、浸水区域内の全町民の避難カルテを作成し、それに基づいた避難道や津波避難タワーの建設、避難訓練に取り組む。防災ツーリズム(宿泊型夜間避難プログラム等)を通して、自ら考え行動する力を身につける防災学習の場を提供。
「阪神・淡路大震災記念 人と防災未来センター」は、兵庫県神戸市にあって阪神・淡路大震災における体験談を交えた展示や体験できるコーナーが充実しているとともに、語り部ボランティアによる講話(被災体験談)、気軽に参加できる語り部ワークショップ、小中学生等を対象にした防災セミナーが多く実施されている点がとくに優れていると評価されている。防災・減災の世界的拠点となることを目的に創設された機関でもあり、その責務も十分に遂行しておりわが国を代表する防災研究・啓発組織・機関だと言える。
「稲むらの火の館」は、和歌山県広川町にあって、ご存知、安政南海地震の際の逸話「稲むらの火」を伝承する施設だ。津波の恐ろしさを伝えるだけでなく、施設展示において、様々なシチュエーション(町中を歩いている時、車を運転している時など)での対処方法がまとめられており、地震津波から身を守るための知恵が示されている。また、当該施設を拠点とする広川町日本遺産ガイドの会により、町内小学生を対象とした「ごりょう語り部ジュニア」講座が開催されるなど、次世代への継承に努めている点がとくに優れていると評価。
「洞爺湖有珠火山マイスター」は、北海道洞爺湖町が有珠山噴火災害の経験をもとに「洞爺湖有珠火山マイスター制度」を2008年から運用し、持続可能な人づくりの仕組みができており、教育旅行の受入れをはじめとして他地域からの観光客などに対するガイドを通じて、他地域への災害伝承や地域防災の取組みの紹介に積極的に取り組んでいる点がとくに優れていると評価された。
群馬県嬬恋村鎌原地区では、現存する天明3年浅間山噴火災害の遺構において「火山災害と復興」を実見できる場づくりに取り組んでいる。こうした地域住民による語り部活動のほか、周辺関連団体・施設等と連携した行事等が行われている点が「嬬恋村・天明三年浅間山噴火災害語り継ぎ活動」として高く評価され、優良認定となった。
2014(平成26)年8月豪雨の教訓を伝承するのが「広島市豪雨災害伝承館」(広島県広島市)。当該施設ができるまでの経緯・過程に、被災者の苦労や、未来への伝承への思いが詰まっているとともに、被災者・住民の一体感と強い思いが伝承館の誕生につながっているという。施設の運営も被災者が行うなど、住民・地域主導での研修会などの取組みがなされている点がとくに優れていると評価された。
2016(平成28)年熊本地震から早8年、「熊本地震 記憶の廻廊」(熊本県)は回廊型のフィールドミュージアムで、被災経験者であるガイドや語り部が展示内容や震災遺構の解説を行うほか、語り部講話も実施されている。また、58箇所の震災遺構を周遊しながら、防災行動や備えについて学習するプログラムも実施されている点が高く評価された。
2011(平成23)年紀伊半島大水害の被災を教訓とする「和歌山県土砂災害啓発センター」(和歌山県那智勝浦町)は、大水害の被災者が自身の被災体験で学んだ教訓を伝承するため、手書きの紙芝居を製作し、語り部活動を多く実施している。また、県内外の自治会や自主防災組織、行政団体などを対象とした団体啓発研修などにも積極的に取り組んでいる点が特に優れているとされている。
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●「NIPPON防災資産」の候補はほかにも数多くある…
「マイ・防災資産」として あなたが心にとめている事例も…
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以上の「NIPPON防災資産」の優良認定11件は、防災資産認定要件の事例ガイドでもある。「優良」、「認定」も合わせて、22件――いずれも、“防災資産”として特筆されるものだ。この22件以外にも、数多くの災害状況を伝える施設や災害教訓を伝承する活動などがある。あなたにも密かに「マイ・防災資産」として心にとめている事例もあることだろう。
本紙は各種災害教訓を記録・保管する施設からデジタルアーカイブまで何度も取り上げてきた。しかし、災害の多いわが国でこうした伝承施設がどんどん増えていくということに矛盾も感じる。教訓を糧として、防災・減災が大きく進展することが期待されるが、それにしても激甚化する各種災害に立ち向かう体制の遅れはないか――防災大国を任じるならば、その名に恥じない防災・減災、被災者・地支援体制はいつできるのか、と。
〈2024. 10. 15. by Bosai Plus〉