線状降水帯発生予測 適中率5%
くじけるな、“キープ・ゴーイング!”
8月下旬の台風10号について一部マスコミは“迷走台風”と表現したが、正確には“迷走”したのは気象予報=台風の進路予報だった。スーパーコンピュータを駆使しても、台風の進路についても、まだまだ気象予報がむずかしいことが明らかとなった。
気象庁は、線状降水帯の発生について「顕著な大雨に関する情報」と「線状降水帯による大雨の半日程度前からの呼びかけ」の2つの情報を発表している。前者は「線状降水帯が発生した」とする情報で、後者は線状降水帯による大雨の可能性が高いと予想された場合に半日程度前から発表する情報だ。2022年に運用を開始し、本年5月27日からは発表の対象範囲を11の地方単位からより絞り込んだ府県単位での発表へと変更している。
この半日程度前から発表する情報について気象庁は8月22日、「適中」と「見逃し」の結果を公表した。これは、8月22日時点のもので、台風10号の影響などで発生した8月下旬のものは含んでいない。本項ではこの「線状降水帯発生予測」の現状を探ってみたい。
気象庁:線状降水帯による大雨の半日程度前からの呼びかけと実際の状況等(速報)
●気象庁「線状降水帯の発生予測」の運用結果と、予測がむずかしい理由
2024年5月27日から8月22日までの間に、気象庁は線状降水帯の発生予測を計44回呼びかけ、実際に線状降水帯が発生したのは2回で、適中率は約5%と低かった。
8月上旬に発生した台風10号の影響で、九州地方で線状降水帯が発生したが、このとき気象庁は半日前に発生予測を行って警戒を呼びかけたが、実際の発生は予測を上回る規模となり、被害が拡大した。この事例は、予測の精度向上が求められるいっぽうで、早期の警戒呼びかけが被害軽減に寄与することも示している。
線状降水帯発生予測がむずかしい理由として、下記がある(気象庁説明のまとめ)。
- 観測データの不足
観測データ、とくに日本列島周辺から流入する下層水蒸気の観測データが非常に乏しい。下層水蒸気とは高度1km付近までに存在する水蒸気で、大量の下層水蒸気が線状降水帯を発生させるとみられている。 - 数値予報モデルの解像度
線状降水帯の発生予測を行う数値予報モデル解像度にも課題。現在のモデルでは、より細かい空間の予測が必要。とくに、海上から陸上にかけて位置することが多い線状降水帯の予測には、海上の正確な観測データが必要だが、この取得がむずかしい。 - 気象現象の複雑さ
線状降水帯は、複数の気象要素が複雑に絡み合って発生するため、その予測は非常に困難。例えば、気温、湿度、風の流れなどが影響し合うことで予測が困難。 - 現状技術による予測精度の限界 気象庁はスーパーコンピュータ「富岳」を活用して予測精度の向上を図っているが、それでも予測の適中率は低いままだ。
●「予測はむずかしい」、それでも防災・減災目標に向けて ガンバレ!
現状、線状降水帯の発生を高い確率で予測することはむずかしいのだが、「予測」の今後の役割・課題として、努力目標は設定できるだろう。まず、「予測精度の向上」だが、現時点での適中率は約5%と低いため、予測モデルの改善や観測データの充実に努めなければならない。次に、防災・減災につなげるために、「情報伝達の迅速化」を図ること、予測情報を迅速かつ的確に伝達するための体制整備が重要だ。とくに、自治体や住民への情報提供の方法を見直し、迅速な避難行動を促す仕組みが必要となる。
さらに、府県単位での予測発表により、「地域ごとの対応策の強化」が求められる。各自治体が独自の避難計画を策定し、住民への周知を徹底することが重要だ。そして、予測情報を受け取った住民が適切な行動を取るためには、「防災意識の向上」が不可欠となる。防災訓練や啓発活動を通じて、住民の意識を高める取組みが求められる。
〈2024. 09. 18. by Bosai Plus〉