「静岡県地震・津波対策アクションプログラム2023」、
民間の取組み事例として
静岡県は東海地震対策として地震予知可能を前提とした大規模地震対策特別措置法(大震法、1978年施行、2021年改正)施行に尽力するなど“防災先進県”として知られる。その静岡県が、南海トラフ巨大地震を引き金に、富士山噴火や中部電力浜岡原子力発電所(静岡県御前崎市)の事故が重なる“複合災害”を初めて盛り込んだ「静岡県第4次地震被害想定(第一次報告)」を、2013年6月27日に公表した。
東日本大震災での東京電力福島第1原発事故を踏まえ、複合災害による「最悪のシナリオ」を想定したものだった。南海トラフ巨大地震、富士山噴火、浜岡原発事故災害のいずれも単独発生でも大災害であり、この想定は社会的にも大きなインパクトを持つものであった。
この第4次地震被害想定で推計された被害(犠牲者約10万5千人)の8割減少をめざす「静岡県地震・津波対策アクションプログラム2013」が2022年度で10年間の期限を迎え、県は23年度以降の新たな行動計画として「静岡県地震・津波対策アクションプログラム2023」を策定(左図参照)。計画期間は23年度から32年度までの10年間、そのうち25年度までの3年間を、想定被害の9割減災をめざして集中的にむ期間取り組としている。
こうした県の危機意識は、敏感に民間にも反映されているようだ。以下、その事例として「スルガ銀行」(本店:静岡県沼津市)の防災体制を取り上げてみたい。
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●“巨大災害のショーケース” スルガ銀行が想定する災害
初の「南海トラフ臨時情報」余波のなかの「防災の日」
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スルガ銀行は、南海トラフ地震防災対策推進地域の指定を受ける静岡県・神奈川県を主な営業基盤とし、災害時における金融インフラとしての使命を果たすべく、創業当時から防災対策に注力してきた。東日本大震災を機に、2011年12月に防災対策を専任とする「防災対策部」(当時、現「防災対策室」)を常設し、自社内の防災対策にとどまらず、地域社会との協働を通じてサステナブルな地域経済・社会の構築に努めている。
スルガ銀行が防災対策に力を入れる理由として、まず、店舗の立地がある。同行の店舗は、国内106カ店のうち52カ店が静岡県に、35カ店が神奈川県に所在(2024年6月30日現在)、特に駿河湾、相模湾、東京湾といった海岸沿いに多くの支店を持つ。まさに、大規模で多様な災害が想定される地域が企業活動の基盤となっているのだ。
地震については、営業エリア内に南海トラフ、相模トラフ、三浦半島断層群などの活断層帯があり、想定される災害として、海溝型巨大地震と津波、首都直下地震、活断層に起因する地震(内陸型地震)がある。気象災害では、静岡県は意外にも年間降水量「全国2位」(2022年)、河川の総数「全国3位」、河川総延長「全国7位」で、河川の氾濫、土石流などの土砂災害が想定される。
そして、富士山、箱根山の活火山が隣接し、噴火(噴石、降灰など)が災害要因となる。また、営業エリア内に中部電力浜岡原子力発電所があり、原発事故(放射能汚染など)を想定からはずすわけにはいかない。このように、災害に脆弱な都市部に支店を多く配置していることから、いったんこうした災害が単独で、あるいは同時多発した場合、生活・交通インフラなどのダウンが及ぼす影響は深刻となる。
スルガ銀行ではこうした災害を想定内にとらえ、「人命最優先」に重点を置いたマニュアルの整備や防災備蓄品の確保、実践的な防災訓練を継続的に行っている。また、実際に発生した災害や新興感染症(新型コロナ)の教訓を反映したBCPの更新・刷新も行っている。
本年1月元日の能登半島地震の教訓として店舗用防災備蓄品の充実などを実施しているところだが、8月8日の日向灘地震発生を受けて、気象庁が初めて「南海トラフ地震臨時情報(巨大地震注意)」を発表した。県民・国民の巨大災害への備えの関心が高まるなか、スルガ銀行は、常在戦場ならぬ“常在防災”の志で、9月1日「防災の日」を迎えている。
〈2024. 09. 01. by Bosai Plus〉