災害時こどもの居場所づくり
こどもが安心できるスペース
「子どもが安心できるスペース」(Child-Friendly Spaces)
=「こどもの居場所づくり」の主流化
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●こどもの生活環境悪化を背景に「こどもの居場所づくり」が課題に
「居場所」とは「家でも学校でもなく居場所と思えるような場所」
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「こどもの居場所づくりに関する指針」が2023年12月22日、閣議決定された。こども家庭庁(2023年4月1日、内閣府の外局として発足)のリーダーシップのもとで、こども・若者の声を聴き、こども・若者の視点に立った居場所づくりを推進していこうというもので、それまでは内閣府や厚生労働省が担っていた事務をこども家庭庁に一元化した。
ちなみに、「こども家庭庁」の“こども”はひらがな表記となる。こども基本法、こども家庭庁設置法などの関連法令ではひらがなのみの「こども」と表記される(本紙も本稿に限り「こども」と表記することにする)。また、同庁の英語表記は「Children and Families Agency」で略称は「CFA(ドメイン名では「cfa.」)」。なお、「こどもまんなか」はこども家庭庁のロゴにも記載されるキャッチフレーズだが、法的な根拠はない。
「こども政策の新たな推進体制に関する基本方針」(2021年12月21日閣議決定)において、「こども家庭庁はこどもが安心して過ごせる場の整備に関する事務を所掌し、政府の取組みを中心的に担う」こと、「こどもの居場所づくりに関する指針を閣議決定し、これに基づき強力に推進」することが定められた。
これを踏まえ、こども家庭庁の発足を待たずして、国では「こどもの居場所づくりに関する調査研究」を実施、2023年4月21日には内閣総理大臣からこども家庭審議会に対し、「こども大綱」の案の作成に向けた今後5年程度を見据えたこども施策の基本的な方針の検討、「こどもの居場所づくりに関する指針」の案の策定に向けた具体的な事項の検討が諮問され、冒頭の「こどもの居場所づくりに関する指針」の閣議決定に連なり、こども家庭庁の創設は、現政権の“目玉政策”のひとつとなっている。
さて、 こどもの居場所とはなにか――「家でも学校でもなく居場所と思えるような場所」だとされる。地域のつながりの希薄化、少子化の進展を背景に、共働き家庭やひとり親家庭の増加と経済的な困難などもあいまって、家庭における子育ての孤立化、また児童虐待の増加や不登校、いじめ、自殺するこども・若者の数の増加など、こどもの環境が厳しさを増している。国際的にもわが国のこどもの貧困率や自殺率の高さが指摘されるなかで、こどもの権利を守り、誰一人取り残さず、抜け落ちることのない実効的な支援をいかに行うかが、政治の喫緊の課題ともなっているのだ。
こどもの居場所づくりの取組みはだいぶ前から、NPO法人やボランディア団体等がこどもなどに対し、無料または低額で食事を提供する「こども食堂」や、学習を支援する「無料学習塾などの学習支援教室」、遊びの場を提供する「プレーパーク」などに見られる。こどもの安全・安心を守るための最低限のルールを除き、「こうあるべき」といった固定概念はなく、運営者の創意工夫により多様な形で展開されているのだ。人とのつながりや教育・体験の機会を通じて、こどもの自己肯定感をはぐくみ、貧困や孤独・孤立の解消、コミュニティの再生などの役割も担っている。
「こどもの居場所づくりに関する指針」は、「災害時におけるこどもの居場所づくり」の項を設け、「災害時などの非常時こそ、こどもの声を聴き、こどもの権利を守ることが必要である。災害時においてこどもが居場所を持ち、遊びの機会等が確保されるよう配慮することは、こどもの心の回復の観点からも重要。今後、避難所におけるこどもの遊び場や学習のためのスペースの設置など、まずは災害時におけるこどもの居場所づくりに関する実態把握を行うとともに、そうした実態を踏まえた施策の推進が求められる」としている。
こども家庭庁:災害時におけるこどもの居場所づくり(全体版/P. 11)
1月1日発生の能登半島地震で避難生活を送る子どもたちの不安などを減らすため、こども家庭庁・加藤こども政策担当大臣は1月16日、こどもの居場所づくりに取り組むNPO法人などに新たに財政支援事業を行うことを発表、1団体当たり500万円を上限に、すでに被災地で活動している団体も遡って申請可能とし、事業は新年度も継続するとした。
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●「災害時におけるこどもの居場所づくり」も重要
国内外ともに、「こどもにやさしい空間」づくりが基調に
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児童の権利に関する条約 (こどもの権利条約) を理念とし、こどもの権利の保護を目標として活動する非政府組織(NGO)のセーブ・ザ・チルドレン(Save the Children/1919年、英国で設立)は、国内外の災害や紛争などの緊急支援の現場で、こどもが安全・安心に過ごせる居場所「こどもひろば」(Child-Friendly Spaces=CFS/CFS協議会)の開設と運営を行う児童福祉の先駆者として知られる。
セーブ・ザ・チルドレンでは、海外の人道支援の現場で「こどもひろば」を「CFS」と表記することが多いが、日本国内でも子ども・子育て支援団体が被災地などでこの名称を使用した活動を行っている。「こどもにやさしい空間」や「こどもひろば」、「キッズスペース」など名称はさまざまだが、活動の目的はほぼ同じだ。
CFS協議会:災害時、子どもが安心できるスペースや居場所づくりの準備・運営
こうした内外の動きに応えて、全国児童館連絡協議会(東京都渋谷区)と、全国の児童館を支援する一般財団法人児童健全育成推進財団(東京都渋谷区)は、大規模災害が発生した際、被災地域の児童館等でより迅速かつ円滑にこども及び保護者の支援活動を行うため、「大規模災害時児童館等活動支援に関する協定書」をこの7月1日に締結した。
児童館とは、18歳未満のこどもが自由に無料で利用することができる児童福祉施設で全国に約4300カ所あり、各児童館では、専門職員(児童厚生員)によりさまざまなプログラムが実施され、こどもの健全な育成が図られている。
全国児童館連絡協議会・児童健全育成推進財団:「大規模災害時児童館等活動支援に関する協定書」締結
大規模災害時には被災地域の児童館は一時避難所や緊急物資の仮置き場、支援者の宿泊所、児童館職員が臨時的な行政事務にあたり臨時休館となるなど、長期間にわたって児童館の機能が停止され、こどもの居場所としての機能を果たせなくなることがある。そこで協定では、大規模災害時に各児童館関係者が相互に必要な支援をよりいっそう迅速かつ円滑に実行することを目的に、被災地域でのこどもの安全・安心な居場所や遊びの機会を確保するためのスキームを構築しようというもの。具体的には――
- 児童館等への専門職員・ボランティア派遣等の人的支援
- 児童館等のニーズを踏まえた物品・資材等の物的支援
- 被災地域または被災地域から避難したこども・子育て家庭等の支援
- 児童厚生員等こどもの支援者への支援
- 上記活動を行うための支援募金の実施、周知、とりまとめ等
- その他、被災地域の自治体や団体支援等から要請のあった活動(情報共有)
能登半島地震では、被災地・石川県七尾市役所から、放課後児童支援員も被災しているため専門スタッフ(有資格者)派遣の要請があり、全国の児童館に公募して、保育士、教員免許、社会福祉士、認定児童厚生員など有資格者22名を派遣、こどもの居場所づくりをサポートした(1月31日~3月1日、5月21日~6月20日)。
また全国の児童館から遊びの提供を行う支援ボランティアを募集、20名のボランティアとともに遊びのプログラムを持ち寄り「じどうかん あそびのマルシェ in ななお」をいしかわ子ども交流センター七尾館で開催。工作、運動遊び、伝承遊び、リズム遊び、駄菓子屋体験などの遊びを提供(来場者228名)。さらに物的支援では、七尾市、輪島市、能都町の児童館や放課後児童クラブへ、必要な物品を聞き取り、子ども用テーブル、児童図書、文房具、玩具、お菓子、災害用ヘルメット等の寄贈を実施した。
児童健全育成推進財団:令和6年能登半島地震における支援活動について
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●「災害時におけるこどもの居場所づくり」 期待される防災士の参画
むすびえの『こども食堂 防災マニュアル』で実績も
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こどもの居場所とは「家でも学校でもなく居場所と思えるような場所」だという。「こうあるべきといった固定概念はなく、運営者の創意工夫により多様な形で展開され、人とのつながりや教育・体験の機会を通じてこどもの自己肯定感をはぐくみ、貧困や孤独・孤立の解消、コミュニティの再生などの役割も担う」とも(埼玉県HPより)。
その代表的な事例として、「こども食堂」があげられる。地域の人々が主体となり運営し、こどもが一人でも安心して利用することができる無料または低額の食堂で、食事を提供するだけでなく、学習支援や体験の機会を提供している場所も増えている。経済的に苦しい家庭のこどもはもちろん、夜一人で食事をしているこどもや、忙しくて食事を作ることのできない家庭、一人暮らしの高齢者など、地域の人たちが一緒に食卓を囲み、団らんしながら、顔の見える関係をつくる場ともなっている。
本紙は2020年06月16日付け記事で、全国こども食堂支援センター・むすびえが、『こども食堂 防災マニュアル』を作成・発行したことを伝えた。『こども食堂 防災マニュアル』は、過去の災害時に炊き出しや弁当などの支援活動を行った経験を持つ「こども食堂」の運営団体などで構成する「こども食堂地域防災拠点化事業検討委員会」を設立、2019年夏にプロジェクトを始動。
検討委員を務めたのは、防災士、消防団、市民消火隊など防災分野の市民リーダーのほか、「こども食堂」の地域ネットワーク団体や運営者も検討委員など。アイデアを出し合い、実際の災害時の様子などを記したコラムも検討委員メンバーによる書き下ろしにするなど、あくまでも「こども食堂の運営者の役に立つ」内容となっている。
こどもの居場所づくりは児童福祉の専門家だけのものではない。自らの経験やスキル、社会資源を活かせることはもちろん、専門的な経験がなくても、だれでも取り組むことができるテーマだ。あらゆる企業・団体、主婦、学生、ビジネスパーソン、定年退職したシニアなど、さまざまな立場の人びとが関わることができるとなれば、本紙としてはとくに、地域での日常的な防災・減災活動の一環として、防災士団体・個人の参画を期待したい。
〈2024. 07. 20. by Bosai Plus〉