P1 宮城県石巻市での震災伝承施設・震災遺構と「語り部とあるく3.11」プログラムより 640x350 - 震災伝承団体の「継続不安」を考える

災害で命が失われない社会へ、震災伝承の持続性、継承の課題

3.11メモリアルネットワークが
「2023年 東日本大震災 震災伝承調査 第2弾」の結果を公開

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●震災伝承を支える 3.11メモリアルネットワークによる調査
 伝承団体に「継続への不安」、公的な資金支援は「不十分」
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 震災伝承活動の支援を行う公益社団法人3.11メモリアルネットワークは、東日本大震災の伝承活動の現状と課題の共有、防災・減災活動の活性化を目的として毎年調査を行っており、「2023年震災伝承伝承調査 第2弾」の結果を先ごろ公開した。
 3.11メモリアルネットワークは、宮城県石巻市から始まり、被災3県をつなぐ広域の連携を視野に、草の根から始まった民間伝承の担い手自身の手で、震災伝承を支える体制づくりをめざして活動している。現在は、「広域伝承連携部門」「地域伝承推進部門」の2部門体制で、地域(現場)と広域(被災地域全体)の両方の視点を踏まえ、「災害で命が失われない社会の実現」に向けて震災伝承活動のサポートを継続中だ。

3.11メモリアルネットワーク:2023年東日本大震災 震災伝承調査 第2弾

 それによると、東日本大震災を伝承する団体の91%が継続性の不安を抱えており、また、伝承継続に関する公的な資金支援を「不十分」とする回答は61%を占めた。
 復興庁で発災15年後の「総括」に向けた議論が行われているが、災害が多発する日本において、国民一人ひとりの防災意識の向上を担う震災伝承の取組みに対して、東北の被災自治体だけの資金や人材の負担ではむずかしい現状が明らかとなり、次世代への伝承を支える新しい仕組みへの期待が確認されたとしている。

P2 1 伝承団体の「継続性の不安」が92%、公的な資金支援状況「不十分」が61% - 震災伝承団体の「継続不安」を考える
伝承団体の「継続性の不安」が92%、公的な資金支援状況「不十分」が61%

 「2023年東日本大震災震災伝承調査 第2弾」の調査対象は、岩手・宮城・福島の3県で震災伝承活動に取り組む団体、施設(震災学習実施26団体、伝承施設運営25組織)で、本年6月にメールで依頼・回答を募った。主な調査項目は、基本情報、連携・相乗効果、学校における震災学習、企画や工夫、活動継続の見通し、今後に必要なこと・もの。なお、アドバイザーとして、佐藤翔輔・東北大学災害科学国際研究所 准教授が加わっている。
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●震災伝承活動の資金と、支援があった場合の持続性見通し
 伝承活動継続のために重要な人材
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 震災学習プログラム実施団体(以下、伝承団体)、震災伝承施設運営組織(以下、伝承施設)の財源不足はこれまでの調査でも課題だったが、今回調査で、1年後、3年後、10年後、30年後と区切って質問することで、年月を増すにつれて見通しがつかなくなる現状が明らかとなっている。復興原則として「教訓の次世代への伝承」が掲げられているなか、伝承団体では30年後には「全く見通しがついていない」か「わからない」のみの回答という厳しい状況だが、伝承施設ではある程度の見込みを持つ回答も見られた。また、5年間の支援があれば、伝承団体、施設ともに、収益性・持続性が高まる見通しも示された。

P2 2 伝承団体の30年後の継続の見通しは「全くない」「わからない」のみ - 震災伝承団体の「継続不安」を考える
調査で、1年後、3年後、10年後、30年後と区切って質問することで、年月を増すにつれて見通しがつかなくなる現状が明らかに
P2 3 後世への伝承活動継続のために特に重要な人材は、語り部や行政職員が上位 - 震災伝承団体の「継続不安」を考える
活動継続に最も重要な人材を、伝承団体は「語り部」、伝承施設は「行政職員」と回答
P2 4 伝承の成果指標は「来訪者数」、「教訓への理解促進」や「主体的に行動する態度」が上位 - 震災伝承団体の「継続不安」を考える
震災伝承の成果を測るのにふさわしい指標

 活動継続に最も重要な人材を、伝承団体は「語り部」、伝承施設は「行政職員」と回答。語り部は伝承施設においても重要とされていたいっぽう、「伝承施設スタッフ」、「事務スタッフ」、「民間企業関係者」については団体と施設の立場によって回答に差異が見られた。

 震災伝承の成果を測るのにふさわしい指標としては、伝承団体、伝承施設共に「来訪者数」、「震災の教訓への理解促進」、「自らの命を守り抜くための主体的に行動する態度」が上位となった。
 伝承団体、施設が抱える人材や財源の課題に対して、後世への伝承活動継続のために「震災伝承継続のための新しい仕組み」が必要と思うかの問いには、21伝承団体と15伝承施設が「はい」と回答。その「仕組み」の内容について、伝承団体、伝承施設共に「被災県単位での制度の新設」、「連携させる存在」が上位となり、県域や立場を超えた連携の必要性が示された。

P2 5 震災伝承継続のための新しい仕組み - 震災伝承団体の「継続不安」を考える
「新しい仕組み」として「被災県単位での制度の新設」、「連携させる存在」が上位、県域や立場を超えた連携の必要性など。津波避難行動を促すソフト施策への投資も

 公的な資金の現状と期待については、伝承団体、伝承施設共に公的な資金支援を「十分である」とする回答はなく、「どちらかというと十分である」、「不十分である」の回答が過半数。発災15年の「第2期復興・創生期間」後の公的資金支援への期待として、「収束」を良しとする回答はゼロ、伝承団体、伝承施設のどちらも、過半数が「拡充」を期待していた。

 回答理由としては、「収益性の追求のみで継続できる事業ではない」「震災伝承事業が大震災の風化防止、震災を知らない世代への啓発に大変重要」などがあった。また、「支援と言うより、当たり前のような予算化はできないものか」との回答も。
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●本紙掲載の 東日本大震災 災害教訓伝承施設の“おさらい”
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 本紙は2022年8月15日付けで「大震災伝承施設「南三陸メモリアル」ほか」を取り上げている。「南三陸メモリアル」(宮城県南三陸町)が2022年10月1日に開館するのを機に、東日本大震災の災害教訓伝承施設を“おさらい”したもので、本記事の参考資料ともなるものだ。以下、同記事へのリンクと、そこで取り上げている主な災害教訓伝承施設、関連サイトへのリンクを再掲しておく。

P1 宮城県石巻市での震災伝承施設・震災遺構と「語り部とあるく3.11」プログラムより - 震災伝承団体の「継続不安」を考える
東日本大震災 震災伝承活動のイメージ写真(写真提供:3.11メモリアルネットワーク/「語り部とあるく3.11」プログラムより。写真内左の建物は宮城県石巻市・みやぎ東日本大震災津波伝承館、右奥に震災遺構)。石巻から始まり、被災3県をつなぐ広域連携を視野に立ち上がった「3.11メモリアルネットワーク」の震災伝承を支える活動は、「災害で命が失われない社会の実現」に向け、課題の共有、防災・減災活動の活性化をめざしている

WEB防災情報新聞:東日本大震災 災害教訓の伝承施設への旅 「南三陸311メモリアル」開館を機に

南三陸311メモリアル

宮城県:みやぎ東日本大震災津波伝承館

岩手県:東日本大震災津波伝承館

福島県:東日本大震災・原子力災害伝承館

震災伝承ネットワーク協議会:教訓・伝承の道『3.11 伝承ロード』

国立国会図書館:東日本大震災アーカイブ「ひなぎく」

〈2024. 07. 01. by Bosai Plus

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