M7クラス以上の大地震、電離圏の電子数異常を
約20~30分前に検知・発生予測も
●大地震発生直前に電磁気学的異常が生成することを初めて提案
京都大学の梅野健・情報学研究科教授らの研究グループが、大地震発生直前に観察される電磁気学的異常を地殻破壊時の粘土質内の水が超臨界状態であることによって説明する物理メカニズムを発見、公表した。大地震直前予測につながる可能性がある。
同研究グループは、プレート境界面にすべりやすいスメクタイトなどの粘土質が存在し、その粘土質の中にある水が地震発生前の高温高圧下で超臨界状態となり、電気的な性質が通常の水と異なって絶縁性となり、電気的特性が急に変化することで電磁気学的異常が生成することを初めて提案した。
そして、電離層への影響を大気の静電容量によりモデル化し、モデルから予測される生成電場の大きさと、観測されている地震発生前の電離層の伝搬異常の速度変化が整合的であることを示した。
地球上空に広がる電離圏(地上約70kmより上方にある大気圏。高温で大気は電離している。電波を反射・吸収する電離層がある)は、地震や火山、太陽フレアなどの自然現象やミサイル発射などの人為的事象によって影響を受ける。この電離圏で、2011年東北地方太平洋沖地震(東日本大震災)の本震直前に電子数の異常増加現象が発見れ、2016年熊本地震でも大地震発生直前に震源付近の電離層上空に異常が観測されたことが報告された。
そこで、電離圏電子数の観察によるマグニチュード(M)8以上の巨大地震発生前の異常検出についての研究が行われてきた。しかしこれまでのデータ解析法では、異常を検知するために地震発生後のデータが必要で地震の直前予測には直接利用できず、また異常が検知されても巨大地震が発生していないなどの予測誤差があるなど、いくつかの仮説が提唱されたのみだった。
いっぽう京都大学研究グループは、冒頭の手法によって、M9.0の東北地方太平洋沖地震だけでなく、同年3月9日発生のM7.3三陸沖地震、同年4月7日発生のM7.1東北地方太平洋沖地震の余震といったM7クラスの大地震でも、電離圏の電子数の異常を約20~30分前の時点で検知できることを発見したという。
今後、この研究の実証をさらに進めることで、電離層における異常と地震発生予測・検知・予知という“地震防災の悲願”への期待、可能性が大きくふくらむ。
この科学的知見を活かした事前防災システム――緊急地震速報に比肩する「緊急地震予測速報」の実現も夢ではないのかもしれない。環太平洋造山帯をはじめ地震多発地域での防災・減災に多大な貢献を果たすことはまちがいない。
京都大学:大地震発生直前に観察される電離層異常発生の物理メカニズムを発見
https://www.kyoto-u.ac.jp/ja/research-news/2024-04-18-0
●現状の「地震予知」には不確実性が残ることを理解しておくべき
最先端科学をもってしても、現状は「地震の予知はできない」。とくに、具体的な日時や場所、規模を確定的に予知・予測することは、少なくとも現時点では不可能だ。しかし、近年の研究では、地球物理学や情報通信技術(ICT)の急速な進化で、地震計、GPS、宇宙観測技術などが発展し、膨大なデータの収集とAIによる分析もできるようになり、地震大国・日本の永年の悲願である地震予知・予測の可能性への探求が続いている。
いっぽう、日本列島には約2000の活断層が存在し、これらの活断層では高い確率で大地震の発生が予想されている。さらに、未発見・未知の断層、沿岸部の断層もあり、大地震の空白地帯とされる地域でも、地震対策は欠かせない。また、発生が予想される大地震も、日本海溝・千島海溝周辺海溝型地震、南海トラフ地震、首都直下地震などが挙げられる。
南海トラフ地震の想定震源域では、プレート境界の固着状態の変化を検知すれば、地震発生の可能性が高まっているとされ、一種の予測情報である「臨時情報」が発表される。
いずれにしても地震予知には不確実性が残っていることを理解しておくべきである。
(参考)地震予知連絡会(事務局:国土地理院)
https://cais.gsi.go.jp/YOCHIREN/
〈2024. 05. 09. by Bosai Plus〉