超高齢化社会、インフラ老朽化社会を迎えた成熟国家・日本
――「巨大被害で最貧国化」
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●岩手県は『東日本大震災を迎え撃った』…
その被害は甚大だったが、減災への貢献は大きかった
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本紙は2月1日付けで齋藤徳美・岩手大学名誉教授の特別寄稿「能登半島地震に思う」を掲載、サブタイトルを「災害を『迎え撃つ』体制を」とした。「災害を『迎え撃つ』体制を」は同本文からの引用で本紙の恣意的な編集によるサブタイトルだった。
やや長文になるがここでそのモチーフとなった部分を引用すると、次のようだ――
「東日本大震災時に、岩手県の危機管理体制はどうであったか。岩手県庁では、2008年岩手・宮城内陸地震の反省に基づいて、総合防災室長や危機管理監を中心に災害対応システムの見直しが行われ、発災と共に全救援組織の代表が災対本部に集結し、全情報を皆で共有し、活動を一体的に指示する体制がつくられていた。発災の半年前には本番さながらの大規模訓練も実施。その結果として、自衛隊、海上保安庁、警察、消防、医療関係者、DMATなどと行政関係者が一体で動く体制が発災と同時に展開された。
また、必ずや襲来する津波に備えて、被災時に分断される沿岸各地を支援可能ないわば扇の要に位置する遠野市が後方支援基地を整備していた。震災の3年半前には県内87機関、8749人が参加して、内陸ではじめて沿岸部の津波災害を想定した岩手県総合防災訓練を遠野市で実施。さらに翌年には東北6県所在の自衛隊全部隊から約1万8千人、自衛隊車両2300台、航空機43機が参加し、「陸上自衛隊東北方面隊震災対処訓練~みちのくARERT2008」が実施された。その後2009年、2010年にも自衛隊の偵察訓練や岩手・秋田・青森県警の訓練が行われ、いわば「迎え撃つ体制」を準備して東日本大震災に対峙することになった。
岩手県での犠牲者は6千人を越えたが、壊滅的な沿岸部で被災者の救出や道路の開削などに大きく貢献した実績は広く伝えられている。石川県の災対本部の体制に関しては報道では詳しく伝えられていないが、その教訓が生かされていなかったとすれば、残念に思うものである。……」
関連して、能登半島地震発災から20日後、文芸評論家・藤田直哉氏の所感「災害対応、『できない理由』探すより」が朝日新聞に。この論評で本紙が合点がいったのは――
「『できない理由』は、あるのが当然である。だが、そこを乗り越えないと、社会は良くならず、日本は停滞を続けてしまうのではないか。避難所の設備や環境も、阪神・淡路大震災のときと大きく変わっておらず、他の国と比較し劣悪だという指摘があるが、『できない理由』を探し改善を滞らせると、震災関連死の増加につながりかねない。……」
朝日新聞:災害対応、「できない理由」探すより(藤田直哉/1月20日付け)
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●次世代を担う若者たちが将来に明るい希望を持てるよう
「巨大災害を迎え撃つ」気概 全国民が共有を
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前号でも取り上げたが、わが国は東日本大震災の教訓として、中央防災会議専門調査会「防災対策推進検討会議」が「最終報告~ゆるぎない日本の再構築を目指して~」を2012年7月31日に”宣言”。最終報告は次のように「結び」を締めている――
「大災害が生じた場合にも被害を最小限に抑えるとともに、速やかな復旧・復興を図ることができるよう、社会全体で体制を整え、大災害の想定に悲観することなく、国民、特に次世代を担う若者たちが将来に明るい希望を持てるよう防災対策を進めるべきである」と。
能登半島地震を受けて、国はことし春に予定していた南海トラフ巨大地震に備える基本計画の見直しに能登半島地震の教訓を反映させ、計画の実効性を高めるためとし、見直し延期の検討を進めるという。
国はまた、首都直下地震対策についても首都直下地震対策検討ワーキンググループで昨年末(2023年12月20日)に見直しの方針が立てられており、「10~20年後がどのような社会になっているのかを見据えつつ、目標とする未来の姿を描き、バックキャスト(あるべき未来から逆算して現在の方策を決める手法)で対策を検討」する方針。現在の想定をまとめた2013年以降の対策の進展を反映させ、25年春に対策基本計画を改定する方向だ。
令和6年能登半島地震は、半島奥地という地域条件に加え、高齢化・過疎化という”自助・共助・公助”が機能しにくい社会環境、そして家屋耐震化の遅れや地形要因(液状化など)による被害などの「脆弱性」を突いて拡大した。突きつけられた課題には今後のわが国の災害対策の抜本的な改変を促す要因も多く、重く深い。想定される南海トラフ巨大地震がいま起きたら、能登地震被害と同じ状況が西日本各地で発生することは必定なのだ。
2018年6月、国土強靱化推進本部は「国土強靱化アクションプラン2018」を公表、その2日後に土木学会が巨大災害被害推計を行った「技術検討報告書」を公表した。前者(国土強靱化)の基本目標は、“いかなる災害等が発生しようとも”――①人命の保護が最大限図られる、②国家及び社会の重要な機能を致命的な障害を受けず維持、③国民の財産及び公共施設の被害最小化、④迅速な復旧・復興――を掲げた。
いっぽう後者(土木学会「技術検討報告書」)は、今後起こり得る巨大災害による被害推計(経済活動の長期低迷による最大推計)を、南海トラフ地震で1410兆円(18年度の一般会計予算・97兆7千億円の14年分)、首都直下地震で778兆円などとし、「本被害想定は、これでも『過小評価』をしている可能性も危惧される。わが国は現状の防災力のままでは、深刻な『国難』級の巨大災害は避けられない状況にある」とした。
超高齢化社会、人口減・縮小社会を迎えた成熟国家・日本――「巨大災害を迎え撃つ」気概を、改めて国の為政者、経済界、防災関係機関、そして私たち地域防災にかかわる者は共有したい。
〈2024. 02. 15. by Bosai Plus〉