「数千年に1回程度の現象に遭遇」現地調査の専門家
《 続報:「 能登半島地震」オールハザード避難に向けて 》
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●能登半島をつくりあげた地殻変動レベルの大地震の可能性
あれから2週間――いまだ“災中”、被害全容不明
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能登地方では、2018年ごろから地震が断続的に続いている。とくに2020年12月ごろから地震活動が活発化(能登群発地震)し、22年6月には震度6弱、23年5月には震度6強の大地震に襲われた。今回の地震は一連の群発地震のなかでも最大規模となる。
報道によれば、輪島市では防潮堤や海沿いの岩礁がおよそ4m隆起したことが産業技術総合研究所地質調査総合センターの現地調査で確認された。
同センター・宍倉正展グループ長は、「4mもの隆起はめったにないことで、数千年に1回の現象」と指摘。輪島市や珠洲市の北側の海岸線沿いには、およそ6000年前から現在までに大規模な地震によってできたとみられる「海成段丘」が3段確認されていて、宍倉氏は「能登半島自体が隆起を繰り返すことでできた半島で、段丘が3段あるということは、過去に大規模な地震が起きたことを示している。今回、その数千年に1回程度の現象に遭遇してしまった」とのことだ。
NHKニュース:「数千年に1回の現象」防潮堤や海沿い岩礁約4m隆起 石川 輪島
政府は1月11日、能登半島地震を「激甚災害」に指定し、対象地域を限定しない「本激」の措置を適用することを持ち回り閣議で決定した。自治体が復旧のために行う土木工事や家屋解体などへの国庫補助率を引き上げ、財政負担を軽くする。
また、「特定非常災害」に指定(運転免許証の更新期限延長や債務超過となった法人の破産手続きの留保など、被災者の権利や利益を守るための措置がとられる)した。
ちなみに、「本激」とは、局地激甚災害(局激)に対する通称で、対象区域を全国として対象災害と適用措置の2つを指定。「局激」では対象災害及び適用措置に加え、対象区域(市町村)を明示して指定する。本激も局激も激甚災害法に基づく特例措置が適用される。
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●1次避難、1.5次避難、2次避難―そして広域避難(あるいは“疎開”)
被災環境と避難態様 自立・コミュニティがキーワード
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令和6年能登半島地震は1月1日の発災からほぼ2週間を経た現在も、いまだ“災中”にあり、被害全容はいまだわかっていないし、“災中=被害数値等は更新中”なので、本紙は国の被害とりまとめサイトへリンクを貼ることで、本紙とりまとめは割愛、別視点から対策課題を取り上げ、今後の対策・対応のあり方に課題を提起したい。
【 1次避難、1.5次避難、2次避難―そして広域避難(あるいは“疎開”) 】
令和6年能登半島地震では被災者の避難態様として、これまであまり使われてこなかった「1次避難、1.5次避難、2次避難」という用語が目立った。
とくに、「1.5次避難」は、石川県が実践したもので、金沢市内の大型体育館「いしかわ総合スポーツセンター」に避難施設を開設し、要援護者とその介助者を優先的に受け入れ、被災地外のホテルや旅館を活用した「2次避難所」、さらには仮設住宅・公営住宅入居が整うまでの間を過ごす「1.5次避難所」とした。
一般的には、「1次避難」とは地震や津波の発生直後に、自宅や近隣の避難場所に避難する緊急避難で、自治体の指定避難所や学校体育館などの公共施設のほか、親族や知人の家などへの避難がある。また、「2次避難」は被災状況がいったん落ち着いたのち、被災地内外の仮設住宅や公営住宅などの長期的な避難先に移ることを言う。そこでは、被災者が自立した生活やコミュニティの再生をめざせることがポイントとなる。
これに対して「1.5次避難」とは、今回のような被災状況において、とくにインフラ被害(電気・水・交通、孤立、厳寒・雪害など)が著しく1次避難先での生活が困難なケースにおいて、被災地外の環境が整った学校・福祉施設などの空き施設や、ホテルや旅館などの宿泊施設への一時的な避難を言う。要支援者(要援護者)や高齢者など生命や健康が脅かされる状況にある被災者の受け入れを優先して、プライバシーの確保をはじめ、食事や水分の提供、医療や福祉サービスの提供などの生活支援も受けられる施設を言う。
【『 一人ひとりが大事にされる災害復興法をつくる会』の提言 】
「いまの災害対応法制では被災者一人ひとりが大事にされていない。例えば仮設住宅やみなし仮設、復興公営住宅や借上げ公営住宅、在宅避難者など『住まい』の施策はとても複雑で、隙間だらけで、被災者の視点に立っていない」とする『一人ひとりが大事にされる災害復興法をつくる会』(共同代表:新里宏二・丹波史紀・津久井進)が、「令和6年能登半島地震に関する緊急提言」第1弾を1月4日に公表、被災自治体の外にある安全な地域にある宿泊施設等を活用し、集団的な緊急避難を早急に実現することを国に求めた。
一人ひとりが大事にされる災害復興法をつくる会:令和6年能登半島地震に関する緊急提言「早急な広域避難措置を」
同会の提言第2弾は1月7日に公表され、震災から7日目、「これ以上、過酷な避難所生活を強いるべきではない」とし、「私たちは、一人ひとりの被災者の目線に立って、いま、直ちに対応できる事柄」として、「災害対応を最優先にして、部署間の横断的な連携を」、「防犯対策の徹底により被災者に安心感を」、「物資と応援人員の空輸の積極活用を」、「対口支援(たいこうしえん/カウンターパート方式)は官民連携で」、「可能な地域ではボランティア活動の早期推進を」などを10項目の提言をとりまとめている。
一人ひとりが大事にされる災害復興法をつくる会:緊急提言(2)
同会は、その設立趣旨に、「第1に、一人ひとりの被災者の『住まい』を保障する基本法が必要。第2に一人ひとりの被災者の『くらし』を支える具体的な仕組みが必要」とし、「一人ひとりが大事にされる災害復興法を打ち立て、被災地にその恵沢を行き届かせることをめざす」としている。そのなかで、「東日本大震災、原発事故、阪神・淡路大震災での被災者対応について、いまわが国は無策である」としている。
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●災害関連死防止ファーストもままならない現実
交通途絶の半島で原発事故「レベル7」避難計画は可能か
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大震災の様相を呈する能登半島地震だが、この半島に、北陸電力の志賀(しか)原発があり、「志賀町(しかまち)で最大震度7」との気象庁情報に、反射的に志賀原発の状況を心配した向きは、原発関係者だけだったろうか……
あえて繰り返すが、能登地方では、2018年ごろから地震が断続的に続いている。とくに2020年12月ごろから地震活動が活発化(能登群発地震)し、22年6月には震度6弱、23年5月には震度6強の大地震に襲われた。
今回の地震は一連の群発地震のなかでも最大規模で、今回の地震以降、佐渡島の西方から能登半島西方にかけての約150kmの範囲にわたって、地震活動域が広がっているともされる。そして、冒頭で述べたように、輪島市では防潮堤や海沿いの岩礁がおよそ4m隆起したことが産業技術総合研究所地質調査総合センターの現地調査で確認されたという。
このような地震概況のなかで、今回の地震の最大震度「7」を観測したのは、ほかでもない、北陸電力の志賀原発が立地する志賀町だった。
今回の地震災害で報道メディアは、揺れの被害(余震も)、津波被害、延焼火災、土砂崩れ、液状化、孤立地区、低体温症、災害関連死、避難所環境、広域避難対策などなど、厳寒下での大震災の様相を伝えている。この被害様相は、日本海溝・千島海溝での厳冬期の巨大地震想定で検討されてきたものではある。
しかし、志賀原発で“深刻な原発事故が起きなかったことは不幸中の幸いだった”と思う人は楽観主義者に思える。この地震での原発の状況について政府が具体的に触れたのは、事故から2時間以上経過した官房長官記者会見での「いまのところ異常なし」のみだった。後にいくつかのマイナーな(?)異常は起こっていたことがわかったのだが、原発近辺での震度7の大地震発生という“異常事態”への国の反応は鈍すぎないか。
万が一、「7」が原子力事故・故障の評価の尺度である国際原子力事象評価尺度「レベル7」(福島原発事故のレベル)であれば、土木学会が2018年6月に公表した「『国難』をもたらす巨大災害対策の技術検討報告書」で言及した(南海トラフや首都直下のような巨大災害が起これば)“最貧国化”する可能性をはらむ事態となったかもしれない。
今回の震災で災害関連死を防げない被災者避難対策の現実を前に、交通途絶の能登半島で原発事故「レベル7」避難計画の実効性もはなはだ心もとないと言わざるを得ない。
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●「珠洲原発計画」があった―変動帯上の国土に原発は“もうムリ!”
オールハザード型避難がむずかしい限り「 No ! 原発]
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わが国の原発開発は58年前の1966年7月に東海発電所が初めて営業運転を開始したのを皮切りに、1970年11月に福井県美浜発電所、1971年3月に福島第一原発と相次いで営業運転開始して原子力発電が本格化した。その当時、1975年に、奥能登の石川県珠洲市に中部電力・北陸電力・関西電力による原発建設計画が明らかになった。
今日の一連の群発地震の中心地で能登半島地震で甚大な被害を受けている珠洲市に(!)。この計画は、1979年米国スリーマイル原発事故、1986年旧ソ連チェルノブイリ原発事故の発生などを背景に、地元の反対や計画推進側に不祥事があったりして、2003年末に頓挫した。
結果論にせよ、珠洲原発の頓挫は科学的な根拠(断層の存在など)によるものではなかったと見られる。わが国の活断層の有無が立地検証の際に議論となるが、珠洲原発の科学的安全性の評価はどうだったのか。
要は、もともと地殻変動帯の活動で形成されたわが国土の上では、まさに、いつ・どこでも起こる地震災害であり、原発の安全性・住民避難計画の万全は保証し得ない。さらには、地震、水害、火山噴火、雪害などを包含する「オールハザード型避難計画」のむずかしさが能登半島地震で明らかになった。
原発が立地する各地の原発事故避難計画も、その実効性が問われる最たるものとなる。
〈2024. 01. 15. by Bosai Plus〉