1グラムで地球を破壊するほどの
巨大なエネルギーを持つ宇宙線
●大阪公立大学 藤井 俊博准教授ら国際共同研究グループ
大阪公立大学大学院理学研究科および南部陽一郎物理学研究所の藤井俊博准教授らの国際共同研究グループが、米国ユタ州で稼働中の最高エネルギー宇宙線観測実験「テレスコープアレイ実験」で2021年5月27日に、極めて高いエネルギー(2.44×10の20乗電子ボルト=244エクサ電子ボルト)をもった宇宙線の検出に成功したと発表した。
今回捉えた宇宙線の「244エクサ電子ボルト」というエネルギーは、粒子1つで40ワットの電球をおよそ1秒間点灯できる大きさで、計算上、わずか1グラムで地球が破壊されるほどの巨大なエネルギーを持ち、観測史上2番目に高いエネルギーの「宇宙線」だという。
ちなみに、観測史上もっとも高いエネルギーの宇宙線とされるものは、1991年10月15日にフライズアイ実験によって観測された320エクサ電子ボルトという極めて高いエネルギーを持つ宇宙線で、“驚くべきエネルギー”であったことから「オーマイゴッド粒子」と呼ばれている。
藤井准教授らの研究グループは、これが宇宙線の起源解明に向けた道しるべとなることを期待し、日本の神話から太陽神的性格を持つ天照大神(あまてらすおおみかみ)にちなんで「アマテラス粒子」と命名した。国際研究グループは、日本、米国、ロシアなど8カ国が参加、宇宙線を観測するため、2008年から米国ユタ州の砂漠地帯に507台の検出装置を設置してデータを定期的に解析してきた。その結果、2021年5月に「244エクサ電子ボルト」という観測史上2番目に高いエネルギーの宇宙線を捉えた。
「アマテラス粒子」の発生源は不明で、研究グループでは光では見えない未知の天体や、宇宙を満たす暗黒物質(ダークマター)の崩壊など、これまで知られていなかった新たな物理現象に由来する可能性があるという。
●「次世代天文学」に期待 「KAGRA」、「スーパーカミオカンデ」と連携も
宇宙から降り注ぐ高エネルギーの粒子(宇宙線)のなかには、非常に高いエネルギーの宇宙線がごく稀に存在し、宇宙のもっとも激烈な物理現象と関連していると考えられている。宇宙線は荷電粒子であるため宇宙磁場で曲げられるが、非常に高いエネルギーの宇宙線は磁場で曲げられにくく、到来方向が発生源を指し示すことから、未知の天体の発見につながる可能性もあり、「次世代天文学」となることが期待されている。
藤井准教授は、「この極めて高いエネルギーの宇宙線を初めて見つけたとき、なにかの間違いだろうと思った。その後、到来方向に候補天体が見つけられず残念に思うと同時に、ではこの宇宙線はどこから来たのか、という新しい謎が見つかったワクワク感を覚えている。今後は、稼働中のテレスコープアレイ実験拡張計画や、次世代実験によって極高エネルギー宇宙線の発生源を明らかにしたい」としている。
宇宙から降り注ぐ粒子などの観測から宇宙の成り立ちを探る研究は、世界各国で進められていて、国内では岐阜県に「KAGRA(カグラ)」と「スーパーカミオカンデ」と名づけられた大型実験施設があり、「KAGRA」は、星同士の衝突や、ブラックホールの合体時に生じる「重力波」と呼ばれる時空のゆがみを、また、「スーパーカミオカンデ」は、巨大な星が寿命を終えるときに放出される粒子「ニュートリノ」をそれぞれ観測している。
大阪公立大学などの国際研究グループは、こうした施設の観測結果とも連携して解析を行うことで、今回捉えた宇宙線の発生源の解明を進めたいとしている。
〈2023. 12. 11. by Bosai Plus〉