日本災害食学会を起点に防災のイノベーションが進行中。
「災害食」が国際標準に!
(文末に「防災ISO」解説も)
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●『災害食の事典』―「災害食」の意義・課題を正面から取り上げる
いつ災害が発生しても 安心と活力を味わえる災害食を
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一般社団法人日本災害食学会が監修する『災害食の事典』が、去る9月1日(防災の日)に朝倉書店から刊行された。災害に備えた食品の備蓄や利用、栄養等に関する知見を幅広い観点から解説したもので、供給・支援体制の整備、事例に基づく効果的な品目選定、高齢者など要配慮者への対応など、国・自治体・個人の各主体が平時に確認しておきたいテーマを網羅している。
定価 7150 円(本体 6500円+税)で、行政・研究機関向けではあるが、「災害食」の意義・課題を正面から取り上げたもので、執筆陣も多分野・多彩にわたり、これまで本紙に寄稿していただいた研究者、有識者も少なくない。
同書タイトルにある「災害食」の意味するところは、「安心と活力を味わわせてくれる食事」として防災関係者のあいだでは定着していると思われるが、一般的には災害時に備える備蓄食としては「非常食」というくくりの用語が根強く用いられている。しかし、ライフラインが途絶した被災生活が長引くなかでは、とくに行政などが備蓄する非常食は保存期間が優先される傾向があることから、「おいしくない、固い、冷たい、栄養バランスに偏り」など、むしろ被災生活者の健康を損ねるおそれがある。
そこで、“災害時にこそ活力を生み出す食”、“災害時にもふだんの食事を”という発想の転換から、非常食への対立概念として『災害食』という用語が生まれた。『災害食の事典』で、災害食の定義をはじめ、重要項目の執筆を担当した別府 茂氏(日本災害食学会理事・副会長、新潟大学大学院客員教授、NPO法人日本防災士会副理事長)から、『災害食の事典』刊行にあたり、本紙に次のようなコメントを寄せていただいた。
「物流が途絶えた被災地で健康を維持するためにも、救援や復旧を支えるためにも災害時の食事は大切です。万一のための非常食という備え方から、いつ災害発生しても対応できる災害食という備え方に変えることを日本災害食学会が提唱して10年になります。この10年間の活動から、このたび災害時の食を総合的にまとめた『災害食の事典』が発刊となりました。
また、災害多発国で生まれた日本災害食認証制度をもとに、日本から2023年7月ISO/TC34(食品)に「災害食の品質基準」を規格開発する新作業項目として提案し、10月、各国からの投票の結果、賛成多数により承認され、今後ISOのワーキンググループで 規格内容の検討開始が決まりました。これらの取組みが、今後の更なる食の防災対策に役立つものと期待しています」
「災害食ISO」については後段で触れるが、別府氏は14年前、本紙・防災情報新聞(旧サイト)2009年7月14日付けインタビュー記事ですでに「災害食」という言葉を用いて、熱くその意義を語っているので、参考に供したい。
防災情報新聞:非常食が変わる――あたたかく役に立つ『災害食』とは
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●日本で生まれた基準をもとに「災害食ISO」規格化へ
被災者や救助活動従事者、要配慮者も対象、社会的意義も大きい
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「災害食ISO」の国際投票の結果がこのほど、農林水産省のホームページに掲示された。災害時の食のあり方が日本から提案され、本年10月に国際投票により承認されたもので、今後、国際委員会で内容が議論され、3年以内に国際規格が作られる予定だ。自然災害が多発する日本で生まれた「災害食」の基準をもとに国際化が検討され、ISO規格化による輸出への貢献も期待できることになる。
「災害食」は、避難状況に応じた食料支援、要配慮者への対応、栄養格差等に課題があり、長期保存のみならず、多様なニーズに応じた災害時の食対応が必要となる。室温で保存し、災害時など、特別な状態で消費できる食品の品質特性を規定するが、対象消費者は、被災者や救助活動従事者だけではなく、普段の生活とは異なる環境で食事をとらなければならない人も対象とすることから、社会的にも意義深いものとなる。
ちなみにわが国ではすでに、世界に先駆けた食品安全、災害に適した食品基準を規定する民間認証制度、「日本災害食認証制度」があり、同基準に要配慮者ごとの基準を追加した「おもいやり災害食認証制度」も備える。世界各国の防災への取組みの後押しとしても、こうした民間認証制度に沿った備蓄システム、それに資する加工食品の海外普及促進のために、国際規格化(ISO規格化)が有効となる。
農林水産省:「災害食の品質基準」のISO規格化による輸出への貢献(中段「2」参照)
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【 関連記事 】
「防災ISO」―産学官が連携して防災の世界的産業化を
“地産地防”で世界の防災・減災力を高める
防災関連の国際規格制度では、東北大学と日本規格協会が、東日本大震災の教訓を基にハザードマップや地震計、リスクファイナンスの標準化などの新たな国際標準規格の制定をめざす「防災ISO」もある(主唱者:今村文彦・東北大学災害科学国際研究所所長)。2015年に仙台市で開催された第3回国連防災世界会議の成果文書「仙台防災枠組2015-2030」を踏まえ、2023年の発効を予定している。
日本の防災の経験や知見・知識を国際的に共有し、“地産地防”(現地資源活用)で世界のあらゆるコミュニティの防災・減災力を高めることに貢献することが目的だ。「防災ISO」の発効によって、災害の経験の多い日本の民間主導で防災技術革新の好循環を世界的に生み出す国際規格制度となることが期待されている。
日本規格協会(JSA):ニューノーマル×防災 防災ISOとは
〈2023. 11. 18. by Bosai Plus〉