自然の断層に近いサイズで地震を再現するという
世界最大規模の巨大岩石摩擦試験機を新たに開発
国立研究開発法人防災科学技術研究所(理事長: 寶(たから) 馨。以下、「防災科研」)が、世界最大規模となる巨大岩石摩擦試験機を新たに開発した。今後、同試験機を用いて自然に近いサイズの地震の再現実験を行い、地震の発生・連鎖メカニズムの解明と、それに基づく地震・津波被害の軽減に貢献しようというもの。
地震の正体は断層が食い違いすべる自然現象だ。その発生に伴い地震波(揺れ)が放出されるほか、海底で発生した場合には津波を引き起こすこともあり、それらが甚大な被害をもたらす。これらの被害の軽減には、将来どのような地震が起こり得るかを精度よく予測することが重要で、そのためには断層がどのようにすべるのかを知る必要がある。断層のすべり方を左右する重要な要素が岩石の摩擦の性質だ。
しかし、岩石摩擦に関する情報を観測から得ることは極めて困難で、地震の発生を精度よく予測するには、岩石サンプルのサイズが摩擦の性質に与える影響を明らかにし、実験室サイズのサンプルで調べた摩擦の性質を実大サイズの断層に適用するための法則を見つけ出す必要がある。
また、南海トラフのような広大な断層では、一部がすべって地震が発生した後、時間をおいて残りの断層がすべるという連鎖的な地震発生がこれまでにも起きており、従来の摩擦実験では岩石サンプルが小さいため、断層全体が一度にすべってしまう地震しか再現できず、どのように地震が連鎖するかを調べられなかった。
そこで防災科研ではこれらの問題解決に向け、現存する試験機に比べてはるかに大きな「巨大岩石摩擦試験機」を約4億円の予算で本年3月に開発・完成させた。
去る9月12日に同試験機を使った初の実験を実施、報道機関を対象に公開。実験では2本の直方形岩石サンプルを使用し、長さが7.5m、幅が0.5mの岩石サンプルの上に長さが6mで幅が同じサンプルを積み重ねた。接触面(模擬断層面)の長さ、面積共に世界最大規模となるもので、これを試験機フレーム内に収め、上側サンプルの上から6本の油圧ジャッキで接触面に圧力を加えた。
最大荷重は1本のジャッキあたり約200t(f トンフォース)、計1200tf。その後、試験機フレーム左下に設置したせん断載荷ジャッキにより下側サンプル側面を左側から載荷。下側サンプルは低摩擦ローラー上に設置されているため、せん断載荷ジャッキによって与えられた荷重は接触面のみが支える。せん断載荷ジャッキが与える荷重が増加し、接触面の摩擦強度を超えると上下サンプルの境界がずれてすべり、地震が発生する。
せん断載荷ジャッキの動きは0.01mm毎秒から1mm毎秒の間で自由に設定可能であり、最大荷重は垂直載荷ジャッキの総荷重と同じ約1200tf。また、最大で1mの総すべり量を実現できる。
本紙はこの実験の見学機会を逸したので、他紙(東京新聞)のリポートを紹介するのにとどめる――
防災科研:自然の断層に近いサイズで地震を再現(実験概要の紹介)
東京新聞:世界最大規模 巨大岩石装置で地震再現(防災科研公開動画サイトも)
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●防災科研「体育館の地震応答制御実験」も
災害時の避難場所、屋根にも要注意
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防災科研は去る8月3日、東京工業大学、明治大学、工学院大学との共同研究として、大空間建物の地震時の揺れと損傷、被害発生メカニズム解明およびエネルギー吸収部材、装置の地震被害低減効果の定量的評価をめざして、災害時に避難所となる学校などの体育館を模した縮小模型を対象とした加震実験を兵庫耐震工学研究センターのE-ディフェンスで公開実施した。
その結果、震度6弱から震度7以上に相当する揺れで、事前の解析通り、横揺れでも屋根が縦方向に大きく揺れ、「体育館で制振部材を使っているところはほとんどなく、耐震改修した体育館でも実験のような壊れ方をする危険性がある」としている。
防災科研:E-ディフェンス公開実験-体育館の地震応答制御実験-
〈2023. 10. 05. by Bosai Plus〉