「地産地防」:先端技術で災害から地域を自衛する
防災と地域創生・活性化を同時推進する「地産地防」
―最先端技術で二兎をゲット
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
●「デジタル田園都市国家構想」の防災版
「地産地防」で地域防災力と地域経済が両方持続可能に!
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
最近、「地産地防」(ちさん ちぼう)という言葉を聞くようになった。「地産地防」は、「地産地消=地元で生産されたものを地元で消費する」をもじった造語で、「地域の産業・技術で地域の防災を強化する」という意味とされる。
この新たな概念は、地域経済を持続可能かつ強化するための取組みと、地域防災力の強化を連係させようという試みを指す。災害に強いまちづくりのために、地域の人びとが自らの力で先端技術を活用して、災害に対する自衛防災力の増強を図ろうというもので、地域の資源を活用し、地域社会全体の防災力を高めるという、わが国懸案の地方活性化に通じる可能性を秘めたプロジェクトだ。2021年に岸田内閣のもとで始動した「デジタル田園都市国家構想」とも連動し、デジタルによる地域活性化を進め、さらには地方から国全体へボトムアップの成長を実現するという趣旨も含んでいる。
「地産地防」とは具体的にはどういう取組みか、以下、見てみよう――例えばドローンやIoT(Internet of Things:あらゆるモノがインターネットにつながる仕組み)などの先端技術を活用することで、災害時の情報収集や物資輸送などに役立てるという事例などがある。
まずは、「デジタル田園都市国家構想」を支える基本プロジェクトともなる国立研究開発法人防災科学技術研究所(略称:防災科研)の「IoTを活用した地域防災システム開発プロジェクト」を紹介しよう。
●防災科研の「IoTを活用した地域防災システム開発プロジェクト」は、IoTデバイスやドローンなどの先端技術を組み合わせて、地域防災システムを開発する。このシステムは、災害時に現場からリアルタイムで情報を収集し、被害状況や避難状況などを可視化することができる。また、災害前には予防的な情報提供や訓練支援も行うことができる。気象災害軽減イノベーションセンターのサテライトとして新潟県長岡市、山梨県、熊本県の3地区をモデル地区に設定し、大量のデータ取得を可能とするIoTを活用して「地産地防」に結び付ける取組みが進められてきた。
例えば、山梨県は2014年2月に発達した南岸低気圧の影響により大雪に見舞われ、甲府市ではこれまでの観測記録の2倍に及ぶ114cmの積雪を記録。そのため、道路や鉄道がいたるところで寸断され、山梨県全体が孤立する事態となった。その経験を踏まえて、物流、道路管理情報、通信など様々な関係機関の専門家がそれぞれの立場で意見を出し合い、各分野が抱えている課題を共有する場を創出。防災科研が山梨県内に設置したIoT積雪センサーのデータから、降雪・降雨時における交通特性の分析と、気象条件の変化が道路交通に与える影響を予測する研究が始まった。さらに、異分野・異業種間で相互にデータを出し合う仕組みづくりが試行され、同プロジェクトはいまでは機関の壁を越えた横串の役割を果たしているという。
また、2016年熊本地震で、熊本県内では多数の土砂災害が発生して甚大な被害をもたらしたが、気象災害軽減イノベーションセンターでは、地震後直ちに熊本サテライトを設置し、土砂災害防止を目的とした斜面監視IoTセンサーの研究開発を進めた。また、被災地域の自治体に向けて防災情報の提供を行い、地元住民に向けて地震後の災害危険性に関する住民説明会を開催することで、被災地域の復旧・復興を支援した。
被災地域が復旧・復興を進めるためには、地域経済の活性化も課題となる。地元企業を主体とする防災関連ビジネスの創出をめざし、低コストで多用途(斜面変動の監視、河川水位変動の監視など)のIoTセンサー開発が共同で行われ、また、雨量概況、気象警報・注意報、ハザードマップなどの各種公開情報と、IoTセンサーにより現地で観測したリアルタイムの情報を一元化するためのWeb-GISシステム開発が進められている。
●北海道厚真町は2018年9月6日に発生した北海道胆振(いぶり)東部地震により、土砂崩れや家屋倒壊等の甚大な被害を受けた。この地震で道内初の震度7を厚真町で観測していたことが解析により判明している。地震による人的被害は、死者42名(厚真町36名ほか)、重軽傷者762名で、厚真町で死者を多く出した主な原因は後背地の山腹から大規模ながけ崩れが発生、土砂が崩れたことによるものだった。
地震発生直後、町内にある道内最大の火力発電所「苫東厚真発電所」が損傷して停止。道内全域に及ぶ日本初の大規模停電「ブラックアウト」が発生。電力供給は自衛隊などの支援に頼らざるをえなかった。
この教訓から、厚真町は「地産地防プロジェクト」と銘打ち、エネルギー6次産業化プロジェクトとして再エネ発電事業を始め、今年度、災害時の拠点となる体育館や給食センターなどの公共施設5カ所で、太陽光や木質バイオマスによる発電が本格的に始まった。さらに、「災害に強いまちづくり」をめざす厚真町は、次世代高度技術を活用した「災害時を想定した避難所への救援物資のドローン配送」実証実験を実施するなど、「地産地防」に力を入れている。
●広島県神石高原町(じんせきこうげんちょう)では、2019年にドローンコンソーシアムを設立し、ドローン活用プロジェクトを推進している。2018年7月の豪雨災害で多大な被害を受けたことをきっかけに、ドローンを使って災害対策や物資輸送などの課題を解決することをめざしている。パーソルプロセス&テクノロジー株式会社が事務局として参画し、プロセスデザインや参画企業・団体間の調整などを担い、地域住民や地域事業者がドローンを操縦し活用できるように育成サポートも行っている。2019年末には、ドローンによる上空からの撮影と救援物資輸送の実証実験に成功した。
神石高原町:デジタル・トランスフォーメーション(DX)推進計画
〈2023. 10. 01. by Bosai Plus〉