「災害死」を受け入れ、死者の尊厳を守る
――「 広域火葬計画」
大規模災害では「避けられない死」の発生もまた“避けられない”。
広域火葬計画は滞りなく遂行されるべき“最悪想定”だ
大規模災害で多数の犠牲者が発生し、被災した市町村では火葬が追いつかない場合、周辺の自治体や県外の協力を得て円滑に実施するための計画を「広域火葬計画」という。国(厚生労働省)は、1995年阪神・淡路大震災を踏まえ、1997年3月に各都道府県に対して広域火葬計画の策定による広域的な火葬体制の整備を要請していた。
しかし、2011年東日本大震災発災時、甚大な被害を受けた3県(岩手、宮城、福島)を含む38道府県が計画を策定していなかった。一部被災地では、災害犠牲者の火葬が間に合わず、仮埋葬として一時的に土葬をして後に遺体を掘り起こして火葬する「改葬」も行われた。このため、死者の尊厳を守るためにも、遺族が区切りをつけるためにも、大規模災害時の火葬の態勢を整えておく重要性が改めて指摘された。
国はその教訓を踏まえ、2014年7月に「大規模災害時における御遺体の埋火葬等の実施のための基本的指針」を策定、都道府県での広域的な火葬体制整備の取組み促進を図ることとしたが、広域火葬計画の策定はなかなか進まなかった。そうしたなか、2022年2月、新型コロナウイルスのオミクロン株による世界的流行の第6波が直撃、厚生労働省は「災害発生時と同様に、広域火葬計画に則った形で要員の派遣要請、受入れを行うことが非常に重要」とした事務連絡を発出し、広域的な火葬体制を確保し、遺体埋火葬・保管資機材の確保や搬送等に関して、自治体と関係団体の協定締結を急がせた。
その結果、本年(2023年)3月、原発事故への対応が続く福島県が広域火葬計画を策定したことで全国自治体で計画が出そろうことになった。
厚生労働省:オミクロン株の感染流行に対応した広域火葬計画の整備
本紙は本年3月14日付けで関西大学社会安全学部などが提唱する国際的なキャンペーン「(災害時に)避けられる死」を取り上げた。
WEB防災情報新聞:「3月12日は『回避可能な死』の国際啓発デー」
最悪想定に立てば、大規模災害では「避けられない死」の発生もまた“避けられない”。災害時応援協定でもある広域火葬計画は、今後も大規模災害が想定されるわが国ではまさに、想定される死を悼み受け入れ、死者の尊厳を守るために、滞りなく遂行されるべき重要計画だ。
〈2023. 05. 15. by Bosai Plus〉