日本医療福祉建築協会が作成、公開――
わたしとみんなをまもる『介護施設の防災・減災ガイド』
介護施設で働く人のためのわかりやすく実践的な防災知識
●自然災害リスクの高い立地に建てられがちな福祉施設
一般社団法人日本医療福祉建築協会(JIHa)が先ごろ、『介護施設の防災・減災ガイド』を作成し、ホームページ上で公開した(ダウンロード可)。これは介護施設などで働く人たちが知っていてほしい知識を厳選して掲載したガイドで、近年の自然災害で被災した介護施設の調査や施設職員へのインタビューにもとづいて、具体的な防災・減災対策をわかりやすく示している。同協会が厚生労働省の補助のもと調査研究委員会を設置してまとめたものだ。
介護施設などの社会福祉施設は一般的に、地価の安いところに建ちがちだ。だが、地価が安いということは自然災害のリスクも少なくないところが多くなる。
東日本大震災での東北3県で見ると、福島県では内陸の地価が安いので内陸部に福祉施設が建てられ、岩手県ではリアス地形で平場の低いところは地価が高いので高台や山腹などに建てられ、結果的に津波からは安全だった。しかし宮城県は、繰り返し津波被害を受けて沿岸部の海に面した地区の地価が安く、結果的に福祉施設が沿岸部に集中して建てられ、大きな被害を受けた。経済合理性から、災害リスクのあるところに施設を建てる、建たせてしまう施策が優先されてきたという現実があり、これを“災害資本主義”と揶揄する向きもある。
ちなみにNHKは、全国の約3800もの高齢者施設の半数近くが、東日本大震災後も、津波で浸水リスクがある場所に開設されたとして、その調査結果を公表、高齢者施設の津波対策をデータと取材で掘り下げている(下記リンク)。
そして、水防法等、土砂災害防止法に基づいて、浸水想定区域内または土砂災害警戒区域内の福祉施設等のうち市町村地域防災計画に名称等が掲載された施設は、避難確保計画と避難訓練の実施・実施結果の市町村への報告が義務づけられるという、次善策的な福祉施設の努力義務で災害リスクを補完しているのが現実だ。
●介護施設の脆弱性の認識を起点に、「命を守る3つの心構え」で
日本医療福祉建築協会の『介護施設の防災・減災ガイド』は、災害時の事業継続計画(BCP)には日頃の訓練が欠かせないとし、訓練を行いながらBCPの鮮度を常に保ち、災害時には自然と体が動き出すレベルまで訓練の内容を高めようと促し、冒頭、「命をまもる3つの心構え」を掲げている。
それは、「自分の命をまもる」(災害時を想定した備えを)、「利用者の命をまもる」(自力では逃げることができない人びと全員を無事に避難させるためには災害に対する備えと訓練が必要)、「他人任せにせず、自ら行動を」(現場職員の指揮系統は常時明確化しておき、災害時には迅速に対応)の3つだ。
介護施設における災害脆弱性の認識も重要で、要介護者は自力での避難が困難、避難誘導に人手が必要、夜間は職員が少ない、参集が困難、災害が発生しやすい場所に施設が立地――これらへの対策が重要なポイントとなるが、実際の災害では想定外も起こり得る。
基礎知識を踏まえたうえで、災害時の現実を知れば防災・減災の意識が変わるということで、洪水、津波、地震災害での実際の現場の声を取り上げている。
同ガイドブックは、「動画」も収録(ウェブ上で閲覧可)していて、福祉防災の研究者や被災した福祉施設職員の動画が収録されている。研究者には、福祉施設の災害対策に詳しい鍵屋 一・跡見学園女子大学教授が「正常化の偏見と福祉職員のミッション」と題して、緊急時の避難について重要なポイントを秋田弁を交えて(鍵屋氏は秋田県男鹿市生れ)解説しているほか、金井純子・徳島大学講師が「災害の種類とハザードマップの見方」を解説している。
日本医療福祉建築協会:わたしとみんなをまもる 介護施設の防災・減災ガイド
〈2023. 04. 15. by Bosai Plus〉