民間の予測技術の高度化を背景に、気象予報の規制緩和、
官民切磋琢磨の時代へ

●気象業務法の改正案を閣議決定 民間事業者の参入推進へ

 政府は去る2月24日、土砂崩れや洪水などの気象予報業務に民間事業者が参加しやすくなる気象業務法の改正案を閣議決定した。気象庁などによる予測技術の審査が通れば、大学や研究機関を含め、民間による気象予報事業者にも、気象予報士がいなくても「予報」ができるようになるというものだ。

P5 1 気象業務法及び水防法の一部を改正する法律案(概要の一部) - シングルボイス(気象業務法)改正、<br>民間事業者も予報業務参入
気象業務法及び水防法の一部を改正する法律案(概要の一部)

 「予報」は警報や注意報とは異なり、災害発生に注意を促す段階のもので、民間事業者が土砂崩れ・高潮・波浪・洪水の「予報」をする場合、これまでは気象予報士の設置が必要だった。しかし近年、最新技術では地表を流れる水の量をシミュレーションするなどの高度な予測技術が生まれており、「予報」については必ずしも気象予報士を必要としない状況になっていることが背景にある。気象庁や国土交通省は、国が出す「予報を補完」するニーズがあるとして今後5年間で40ほどの参入を促したいとしている。

 また、水防法の改正案も閣議決定され、これまでの洪水予報は主に国が下流部分を、都道府県が主に上流部分を担当していたが、2021年から、国が両者を一体として予測する技術が導入されている。

国土交通省:「気象業務法及び水防法の一部を改正する法律案」を閣議決定 ~官民の予報を高度化し、防災に関する情報提供を充実~

●気象庁や国土交通省が出す「予報」を 民間技術・システムが補完

 本紙は2022年11月15日付け記事で「防災情報『シングルボイス』か and/or 最先端テクノロジーか」と題して、民間(地球観測データ統融合連携研究機構)によるリアルタイム浸水予測システム「S-uiPS」の一般公開について、気象庁が「待った」をかけたことを伝えた。
 気象庁は気象業務法に照らして、「一般公開には許可が必要になる可能性を伝えた」というもので、気象業務法は、「気象庁以外の者」、つまり大学や研究機関も含め、民間による予報業務には気象庁の許可が要るとしていたのだ。

WEB防災情報新聞:シングルボイス and/or 最先端テクノ

P5 2 「S uiPSによるリアルタイム浸水予測システム」の先行公開を開始 - シングルボイス(気象業務法)改正、<br>民間事業者も予報業務参入
「S-uiPSによるリアルタイム浸水予測システム」の先行公開
P5 3 2005年杉並豪雨でのS uiPSに見る東京都23区の浸水深マップ(早稲田大学広報資料より) - シングルボイス(気象業務法)改正、<br>民間事業者も予報業務参入
2005年杉並豪雨でのS-uiPSに見る東京都23区の浸水深マップ(早稲田大学広報資料より)

 「S-uiPS」は、コンピュータ空間上に東京の街を忠実に再現し、そこに雨が降ったときの浸水の状況を精緻に予測することを可能としたもの。国土交通省による観測雨量「XRAIN」と気象庁による「高解像降水ナウキャスト」の予測降雨のデータを用いた技術は、予測というよりはリアルな浸水状況の可視化に近い高度な“予報技術”だ。

 気象業務法第17条の規定では、気象庁以外の事業者が天気や波浪等の予報の業務を行おうとする場合は、気象庁長官の許可を受けなければならない。これは「予報業務が国民生活や企業活動等と深く関連しており、技術的な裏づけのない予報が社会に発表され、混乱をもたらすことを防ぐ必要があるため、予報業務を許可制としているもの」で、許可を受けるには、許可の基準を満たしていることが必要で、「予報業務を行うためのガイドブック」が作成されている。

 ただ、天気や波浪等の予報と違って、洪水や土砂災害についての許可基準はなく、洪水・土砂崩れの予報業務の許可を得た事業者はこれまでなかった。
 いっぽう、「洪水及び土砂災害の予報のあり方に関する検討会」は報告書で、民間技術やきめ細かな情報の意義は認めつつも、単一の発信元からの責任ある情報提供(シングルボイス)を重視。不特定多数の住民への提供は「慎重に検討すべき」だとし、利用者を限定して提供するよう求めるいっぽう、「国等による、市区町村の防災対応や住民等の避難のための予報の高度化や単一の発信元からの責任と一貫性を有する提供(いわゆるシングルボイス)と、研究機関や民間気象事業者等による、新たな技術の研究開発や防災上の考慮をしたうえでの多様なニーズに応える予報の提供が求められる」とした。

 こうした背景を受け、国土交通省と気象庁は、「民間による洪水及び土砂災害の予報の提供に向けた制度の構築」、「研究機関や民間気象事業者等における技術開発や予報業務を推進する環境」について連携・協働し、具体的な制度設計を進めていた。

P5 4 大雨を予測した高解像度降水ナウキャストの例(気象庁資料より) - シングルボイス(気象業務法)改正、<br>民間事業者も予報業務参入
大雨を予測した高解像度降水ナウキャストの例(気象庁資料より)

〈2023. 03. 01. by Bosai Plus

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