P5 1 「弾道ミサイル落下時の行動」より 640x350 - 「ミサイル防爆シェルター」の整備

再々攻撃(!)想定どうする、日本のミサイルシェルター

核ミサイルで四面楚歌(?)の日本
――危機管理の要諦 “最悪想定”にわが国の防衛体制は耐えられるか

●「(反撃能力行使で)戦闘状態に入れり!」――「国民の命」をどう守るか

 午前0時を人類滅亡のタイムリミットに見立て、それまでの残り時間を象徴的に示す「終末時計」(英語:Doomsday Clock)は、1月24日、世界の現状が「前例のない危険な時代」だとして、これまでで最も短い「残り90秒」に更新された。米国の科学雑誌が毎年発表する「終末時計」は去年は「残り100秒」だったが、これまでで最も人類の滅亡に近づいたと警告している。その主な要因は昨年2月に始まったロシアによるウクライナ侵攻で、ロシアが核兵器の使用をほのめかしたことにある――

 ロシアのウクライナ侵攻・核爆弾使用の脅しは言うに及ばず、北朝鮮による相次ぐ弾道ミサイル実験発射、さらには中国と台湾の緊張関係の緊迫化を受けて、わが国政府・与党は有事への備えとして、防衛予算拡大、敵基地攻撃能力の保持など、戦後日本の専守防衛・安全保障の大転換に向けて“突き進んで”いるようだ。

 翻って、相手の領域内を直接攻撃する「反撃能力」(「敵基地攻撃能力」)が行使される事態を想定すれば、当然のことながら、相手の再々反撃(戦闘状態=戦争事態)が想定される。災害対策・防災の考え方で言えば、東日本大震災後、わが国の対策は“最悪想定”が必須となっている。最悪、「反撃能力」が行使されるとき、「x月x日xx時。自衛隊は本x日未明、xx軍と戦闘状態に入れり」という先の大戦での大本営軍部発表ならぬ自衛隊発表を聞くことになるのだろうか。

P5 1 「弾道ミサイル落下時の行動」より - 「ミサイル防爆シェルター」の整備
「弾道ミサイル落下時の行動」より(内閣官房HPより)

 わが国の“防衛”というとき、なにを防衛するのかと言えば、第一義的には「国民の命と財産」ということになる。では、相手(敵)から弾道ミサイル、はたまた核ミサイルなどの攻撃がある場合、国はいかにして国民の命を守ろうとしているか、災害犠牲者ゼロをめざす防災メディアとしては気になるところだ。
 現況、北朝鮮からのミサイル発射時、これを探知できたときは、国民は「Jアラート」でそれを知ることができる。わが国は国民保護法に則り、政府や自治体はミサイル落下時を想定した行動指針を作り、パンフレットや避難訓練で国民啓発を図っているのだが。

内閣官房 国民保護ポータルサイト:弾道ミサイル落下時の行動について

 内閣官房の「国民保護ポータルサイト」によれば、弾道ミサイルに対して、国民個人レベルの対策としては「姿勢を低くして」「建物や物陰に隠れ」「頭部を守る」となり、地震時の対応行動と基本的には同じとなっている。ただ、北朝鮮のミサイルであれば、発射から日本に着弾するまでの時間は約5分とされ、Jアラートが出てからは1〜3分だから、地震よりは時間的な余裕はある。最初の一撃を回避できれば、後続する情報を得て避難、というのが基本的な手順になる。

 敵からの“攻撃”対象は必ずしもこちらの“反撃”基地とは限らないから、自衛隊・米軍基地周辺をはじめ全国民(主要都市?)が“具体的な敵攻撃対象地域”になり得るだろう。その場合、防空壕ならぬ「ミサイル防爆シェルター」が応急的な避難場所になる。
 自然災害想定ではなくてはならない「避難所」だが、ミサイル防爆シェルターは……? 地震や津波、延焼火災時の一時避難場所は法律で指定されているが、爆風から身を守る場所って、どうなっている? 国は防衛力の増強を言うが、有事にどのようにして国民を敵攻撃から守ろうとしているのだろうか……”スタンド・オフ防衛能力”よりもまず、「ミサイル防爆シェルター」の整備が先ではないのか。自然災害からのシェルターと兼用できるものにすれば一石二鳥ともなるが。

P5 2 避難行動の例 - 「ミサイル防爆シェルター」の整備
屋外での避難行動の例(内閣官房HPより)

●スイス、イスラエル「核シェルター」普及率100%、日本は0.02%(!)

 ウクライナでは冷戦期につくられたシェルターや地中深くにある地下鉄駅が住民の避難場所になっているという。わが国政府・与党も有事での必要性を認識し、2022年12月に決めた安全保障関連3文書でシェルター整備の方向性をふくませた。
 ちなみに、わが国はミサイルの爆風を防ぐ強固な建物を指定する「緊急一時避難施設」は22年4月時点で全国に5万2490カ所あるというが、このうち被害を防ぐ効果が高い地下施設は1591カ所だという。無差別爆撃を想定すれば、当然、防爆シェルター整備・拡充は巨大規模で行われることになるが、現状、公共施設、企業、個人に設置の義務付けはない。その具体的な計画については、これから方針が示されるのだろうか。

 「ミサイル防爆シェルター」にはいまのところ明確な定義はないようで、一般的には爆風を避ける“防空壕”であり、市販されているものは一時避難場所の位置づけから分厚い扉や備蓄機能を備えるものまである。ただし、「核シェルター」となると、放射性物質の除去装置が必須でかつ長期滞在も想定したものとなる。

 世界的には「核シェルター」の備えが主力とされ、多くは地下に設置され、収容人数が数千人規模のものから一般家庭用の小型のものまであるという。ある資料によれば、人口あたりの普及率は、スイス、イスラエルでは「核シェルター」の普及率は100%、ノルウェー98%、米国82%、ロシアは78%、英国67%、シンガポール54%、日本0.02%となっている。日本は唯一の被爆国で、中国、ロシア、北朝鮮などの核保有国に囲まれているにもかかわらず、核シェルターの普及はまったく進んでいない。

 NPO日本核シェルター協会によると既存の商業ビルの地下を核シェルターに改修する場合、数千万円程度はかかるという。普及には地方公共団体をはじめ、国の支援による企業・個人向けのコスト負担の軽減が課題となることは確かだろう。その予算も防衛予算拡大に含まれているのだろうか。注目していきたい。

P5 3 水害・防爆・耐震・耐放射性物質・耐生物兵器・耐化学兵器対応シェルター(WNI SHELTER(最後の砦)HPより) - 「ミサイル防爆シェルター」の整備
市販製品より、水害・防爆・耐震・耐放射性物質・耐生物兵器・耐化学兵器対応シェルター(WNI-SHELTER(最後の砦)HPより)

内閣官房:緊急一時避難施設推進概要

〈2023. 01. 30. by Bosai Plus

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