首都直下地震の新たな被害想定と被災シナリオ
首都直下地震への想像力の更新を
東京都は昨年6月、マグニチュード(M)7クラスの首都直下地震の都内の被害想定を10年ぶりに見直し、公表した。新たな被害想定では、「都心南部」でマグニチュード(M)7.3の直下型地震が発生した場合、都内の死者は最大で6148人、揺れや火災による建物被害は19万4431棟にのぼると推計(いずれも冬・夕方、風速8m/s)した。
2012年公表の想定では死者数は9641人、建物被害は約30万4300棟(いずれも東京湾北部地震)だったが、都は、この10年間で住宅耐震化や不燃化の対策が進展し、全体として被害を3〜4割軽減できると見込んだ。いっぽう高齢化、単身世帯の増加など人口構成の変化やタワーマンション急増など、新たな都市リスク、脆弱性の課題も指摘。
住宅耐震化や不燃化対策を具体的にみると、特定緊急輸送道路沿建築物の耐震化率が91.6%に、住宅耐震化率は92%にまで高まった。この結果、建物全壊棟数は12万棟から8万棟へ減少。揺れによる死者は5100人から3200人にまで減った。不燃化については、木造住宅密集地域が約1万6000ヘクタールから8万6000ヘクタールに減少、不燃領域率は58.4%から64%へ増えたことから、焼失棟数は20万棟から12万棟、火災による死者数は4100人から2500人に減っている。
東京都:首都直下地震等による東京の被害想定(2022年5月25日公表)
■「人的被害」の数字に“慣れるな”――5つのシナリオで自分ごとの想像力を
報告書は、「現在の科学的知見では、客観的に定量化することができる事項が限られるため、被害数値のみをもって、首都直下地震等の発生時の被害実態とすることは、実際に都内で起こり得る被害の過小評価になる」と注意を促す。
そこで、想定では今回初めて、発生後に起こりうる5つの「シナリオ」=「身の回りで起こり得る災害シナリオと被害の様相」を時系列で示している。5つとは、
①インフラ・ライフラインの復旧に向けた動き(停電、断水、メール・SNSの支障など)、
②応急対策活動(耐震性の弱いマンション、ビルの倒壊・閉じ込め、火災も)、
③避難所での避難生活(スマホバッテリー切れ、衛生環境悪化など)、
④自宅での避難生活(生活必需品の払底、携帯トイレも枯渇、在宅避難の困難も)、
⑤帰宅困難者(二次災害に巻き込まれる、一時滞在施設が満員)
などだ。このシナリオは、大規模災害で身の回りで起こり得る様相への想像力のふくらみを、自らの環境に照らしながら強化してくれる。ぜひ各項目に照らして“わがこと”として災害リスクへの想像力を駆使していただきたい。
〈2023. 01. 05. by Bosai Plus〉