P5 2 専用アドバルーン掲揚時の鎌倉市沿岸部(イメージ/プロジェクトサイトより) - 東北大学工学部<br>「避難場所専用アドバルーン」 <br>CFで開発へ

安全な場所をいち早く、より広く、分かりやすく知らせる!

クラウドファンディングで「低頻度巨大災害」人的被害減災へ
――専用アドバルーン製作と自動掲揚装置の開発

●「震災前」を生きる学生のアクションで「 震災後」の未来を変える

P5 1 東北大学外観(同HPより) - 東北大学工学部<br>「避難場所専用アドバルーン」 <br>CFで開発へ
東北大学外観(同HPより)

 大学が社会と一体となって学生の挑戦を応援するクラウドファンディング(一般人から出資を募る活動。英語:Crowdfunding/略称:CF)として、東北大学工学研究科・工学部が東北大学基金を活用、同学部学生が携わる「津波災害の指定緊急避難場所を掲示する専用アドバルーンの自動掲揚装置開発」をクラウドファンディングで実施中だ(11月30日まで)。

 このプロジェクトは、「2011年の津波災害の経験・知見を東北から日本へ、日本から世界へと波及させ、将来来たる津波災害で一人でも多くの人が生き残れるように」という思いから、同学で津波避難を研究する学生・成田峻之輔さん(同プロジェクトオーナー)が始めた研究企画。
 成田さんの同プロジェクト発案のきっかけとなったのは、「大被害が想定されても、減災のために際限なくコストをかけられない」という低頻度巨大災害に対する学びからだという。「そのため、防災の取組みに副次的目的を取り入れて、持続可能性を高めることに着目して研究活動にあたってきた。このクラウドファンディングを通じて、研究内容の社会実装をめざしたい。現在を『震災前』ととらえ、震災後に取り組んでおいてよかったと思えるような防災を『震災前』に実現したい」としている。

●緊急時の避難先を迅速に、広範囲に、直観的に伝える専用アドバルーン

 津波避難ビルや津波避難タワーなどの指定緊急避難場所は、地震発生から非常に短い時間で到達するタイプの津波(近地津波・極近地津波)に対して、避難者にひとまず津波にのまれない場所を提供するという重要な役割を持つ。これらの避難施設は東日本大震災以降、全国の沿岸地域で整備が進んでいるが、その場所の認知度の低さから緊急時に有効活用されないという懸念がある。

 例えば多くの観光客が集まる神奈川県鎌倉市では、堤防のない平坦な地形に街が広がり、津波到達は最短8分と予想されているが、避難者が適切な避難場所を知らないリスクがある。そこで緊急時の避難先を迅速に、広範囲に、直観的に伝えることのできる情報媒体として、避難先から専用アドバルーンを自動で掲揚する。これにより、土地勘のない観光客でも迅速に避難先の判断ができる環境を整えられる。

P5 2 専用アドバルーン掲揚時の鎌倉市沿岸部(イメージ/プロジェクトサイトより) - 東北大学工学部<br>「避難場所専用アドバルーン」 <br>CFで開発へ
専用アドバルーン掲揚時の鎌倉市沿岸部(イメージ/プロジェクトサイトより)
P5 3 専用アドバルーンイメージ図 - 東北大学工学部<br>「避難場所専用アドバルーン」 <br>CFで開発へ
専用アドバルーンのシステム、イメージ図

 プロジェクト寄附金は避難先を示す専用アドバルーンの製作とその自動掲揚装置の開発に利用される。専用バルーンの製作では、遠くから認知する上で十分な高さ・大きさ・色でデザインし、垂れ幕には「ひなんビル↓」や「ひなんタワー↓」と表示する予定。
 さらに夜間は、暗所でも認識ができる電飾付きのアドバルーンを採用。アドバルーンの自動掲揚装置は、津波警報等を受信した直後に起動し、掲揚可能な気候条件を満たす場合に掲揚する。なお、避難者のヘリ救助を想定して手動で回収できる仕様とする。クラウドファンディング開始から1年以内に一連の製作・開発を完了させ、装置のプロトタイプを関係自治体に提示することが目標だ。

●開発装置の普段使いにより経済的持続性の高い防災を

P5 4a 自動掲揚装置の開発(案)より - 東北大学工学部<br>「避難場所専用アドバルーン」 <br>CFで開発へ
自動掲揚装置の開発(案)より
P5 4b 成田峻之輔さん - 東北大学工学部<br>「避難場所専用アドバルーン」 <br>CFで開発へ
成田峻之輔さん(プロジェクトオーナー)

 プロジェクト最大の特徴は「経済的持続性の高さ」だ。津波のような低頻度巨大災害に対する防災は、需要と供給の原理の中で成立しづらく、公的資金により維持管理・運営費が賄われるのが一般的だ。同プロジェクトで製作する専用アドバルーンは「防災」のほかに「広告」としての副次機能を持たせ、装置の点検を兼ねて、普段から広告媒体として活用する。緊急時だけではなく広告として普段使いすることで、維持管理・運営費に充てる資金を確保し経済的に持続可能な防災の実現をめざす。

 津波災害に脅かされる国は日本だけではないことから、将来的には津波災害対策が必要な国・地域で、比較的安価に導入でき、維持管理・運営の公費負担を抑えられる同プロジェクトを実現することをめざす。防災・減災の経済的持続性の高さを武器に、日本の防災を国外へ波及させ、世界の防災を日本が牽引していく一端を担うことも目標だ。

東北大学基金:津波災害の指定緊急避難場所を掲示する専用アドバルーンの自動掲揚装置開発

〈2022. 11. 05. by Bosai Plus

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