人類、生物、環境、地球は、持続可能か?
次世代へ、私たちはなにをつなぐのか
“星のいのちの宿り=地球”を劣化させることなく次世代に引き渡すために。
「GX」「30by30」とは…
【「 炎暑・猛暑」はもはや時候の挨拶にはとどまらない 】
ヨーロッパ西部を中心に、7月上旬から顕著な高温が続いた。スペイン南部のコルドバで、7月12日、13日に最高気温43.6℃、フランス南部のトゥールーズでは、7月17日に最高気温39.4℃を観測したという。また、イギリス東部のコニングスビーでは、7月19日に暫定値で最高気温40.3℃を記録(イギリス気象局)、2019年7月25日にイギリス南東部ケンブリッジで観測されたイギリスにおける最高気温の記録(38.7℃)を更新した。そして、スペイン、ポルトガル、フランス、また中国も熱波に襲われ、米国でもヨセミテ公園で熱波・乾燥による大規模な山火事が発生したと報じられている。
こうした一連の顕著な高温の背景には、地球温暖化に伴う全球的な気温の上昇傾向が影響しているとみられていて、欧米では改めてその対策が政治問題化しているとも聞くが、いっぽう、わが国でも今夏、各地で炎暑・猛暑、そして豪雨などが報道されているが、そのなかで行われた参院選で気候変動・温暖化が争点化したという話はほとんど聞かなかった。また、ロシアによるウクライナ侵攻がもたらしたエネルギー危機問題もあって、当面の危機対応としては脱炭素社会に向けた取組みはいったん横に置いて、火力発電の有効活用などが再浮上している。このようにわが国では“炎暑・猛暑”がただちに政治問題とは結びつかない状況がある。
しかし、気候変動はもとより、食糧問題、水問題も含めて、欧米、ロシア、中国、そして日本をはじめ世界の国々とその国民は、“狭隘な地政学的リスク”を超えて、“われら同時代”、地球という小さな舟に同乗する共存共滅・呉越同舟の存在である。“星のいのちの宿り=地球”を劣化させることなく次世代に引き渡す責務を自覚したい。
●「GX」、「30by30」とは――脱炭素社会、生物多様性保全に向けて
そんな折、政府は去る7月27日、2050年の脱炭素社会の実現に向けた取組みを議論する「GX(グリーン・トランスフォーメーション)実行会議」(議長:岸田文雄首相)の初会合を開いた。同実行会議では年内に、今後10年間の工程表(ロードマップ)をとりまとめる予定で、岸田首相は、「まず足元の危機克服が最優先」だとし、再生可能エネルギーの導入や原発の再稼働などについて「政治決断」が求められるような項目を示すよう指示した。首相は、原発の新増設や建て替え(リプレース)について「現時点で想定していない」としているが、蓄電池の活用、二酸化炭素を排出しない水素やアンモニアを使った火力発電などのほか、「その先の展開策」として原発再稼働を進めるいっぽう、原発新増設などが議論の焦点となる可能性を見込むとみられている。
また、脱炭素分野で今後10年間で官民合わせて150兆円超の投資が必要とし、民間投資を呼び込むために、岸田首相は20兆円ほどを政府が支出する方針を示した。この資金は「GX経済移行債(仮称)」という新たな国債で調達する予定で、返済の裏付けとなる財源確保の方法も主要議題となる見通しだ。
いっぽう、環境省では本年4月、「30by30ロードマップ」を策定、また「30by30アライアンス」を発足させている。「30by30」(サーティ・バイ・サーティ)とは、2030年までに生物多様性の損失を食い止め回復させる(ネイチャーポジティブ)というゴールに向け、2030年までに陸と海の30%以上を健全な生態系として効果的に保全しようとする目標である。2021年6月に英国で開催されたG7サミットで、各国は世界目標の決定に先駆けて「30by30」を推進することを含む「G7 2030年自然協約」に合意している。
「30by30ロードマップ」は、この目標を実現するためのわが国の行程と具体策を示すもので、主要施策として、国立公園等の保護地域の拡張と管理の質の向上、保護地域以外で生物多様性保全に資する地域(OECM:Other Effective area-based Conservation Measures=民間等の取組みにより保全が図られている地域や、保全を主目的としない管理が結果として自然環境を守ることにも貢献している地域)の設定・管理、生物多様性の重要性や保全活動の効果の「見える化」等を掲げている。また、主要施策を支え推進する横断的取組みとして、生物多様性のための「30by30アライアンス」等を盛り込み、産民官17団体を発起人として、企業、自治体、NPO法人等、計116者が参加する。
環境省:30by30ロードマップの策定と30by30アライアンスの発足について
同アライアンスでは、参加者は自らの所有地や所管地内のOECM登録や保護地域の拡大などをめざすとともに、自ら土地を所有または管理していなくても、他のエリアの管理を支援、あるいは自治体が自ら策定する戦略に「30by30」目標への貢献を盛り込むことなどを通じて、「30by30」実現に向けて協力する。
直近の情報では、米国政府がこのほど、「太陽地球工学」(Solar Geoengineering)の研究に関する指針や基準の策定を始めたという。太陽地球工学は、より多くの熱を宇宙に放出して温暖化が進む地球を冷却することで、気候システムを意図的に微調整できる可能性を探るものだが、環境副作用や、地域非均一的な影響が及ぶ可能性への懸念から、研究者のあいだでは大きな議論があり、研究をタブー視する見方もあるという。
脱炭素も生物多様性も、人類、自然、そして地球の持続性の問題に帰結し、「地球防災」に深くかかわる大きな課題だと言える。詩的な表現だが、“星のいのちの宿り=地球”の持続性が、防災の延長線上にあることは間違いない。地球持続性への想像力を駆使し、よりよい地球を次世代へ引き継ぐことを意識することが、私たち一人ひとりの責務となる。
〈2022. 08. 01. by Bosai Plus〉