Photo by くにろく
文・料理:大塚 環(本紙特約ライター/防災士)
茨城県は、北部が福島県、南部は利根川を境にして千葉県に接し、東は太平洋、西は栃木県と埼玉県に面しています。また、県内最高峰の八溝山(やみぞさん 1022m)から南下して筑波山に至る八溝山地や、宮城県から170㎞にも広がる阿武隈山地の山々、高笹山・花園山・和尚山が北側に連なっています。中央部からは関東平野の一部である常総台地が広がり、琵琶湖の次に大きい湖、霞ケ浦があります(茨城県ホームページ、以下HP 茨城県の地理と気候参照)。
水郷地帯があり一級河川の那珂川や久慈川が流れる水が豊富な土地ですが、それだけに水害が発生しやすい場所です。昭和22年(1947年) の9月に発生したカスリーン台風では日本一の流域面積を持つ利根川が氾濫し、茨城だけでなく関東地方に戦後最大の被害をもたらしました。
カスリーン台風自体は本州に近づいた地点で勢力が弱まりましたが、台風の影響で停滞していた秋雨前線が活発化して大雨を降らせたのです(国土交通省関東地方整備局HP カスリーン台風特集参照)。秩父観測所では13日11時20分~15日20時40分の間に降った雨は611mmで年間降水量の1/4相当の雨量がたった1日半で降ったことになります。15日には利根川・渡良瀬川上流域で堤防の決壊や氾濫が起こり、赤城山で土石流が発生しました。
一方、埼玉県東村(現加須市)新川通地先では、利根川右岸堤防が340mに渡って破堤しました(国土交通省 国土地理院(1947年カスリーン台風災害と治水地形参照)。茨城県の死者不明者は74名、負傷者24名、住家被害の全壊流出488棟、半壊146棟、床上浸水1万1996棟(水戸地方気象台HP 茨城県の気象災害の記録参照)、全国では死者1100名、家屋浸水30万3160戸、家屋の倒半壊3万1381戸という未曽有の被害となったのです(内閣府HP 災害教訓の継承に関する専門調査会報告書1947 カスリーン台風参照)。
近年では、平成27年(2015年)の9月7日に発生した台風18号と前線による大雨の後、多数の線状降水帯が発生した「関東・東北豪雨による災害」が記憶に新しいところです。特に茨城県の被害は甚大でした。
内閣府の資料「2015 年(平成 27 年) 関東・東北豪雨による災害」によれば、9日から10日にかけて栃木県日光市五十里(いかり)観測所で観測開始以来最多の24時間雨量551mmを記録し、16地点で最大24時間降水量が観測史上1位となりました。全国の死者は14名、全壊家屋81棟、半壊家屋7045棟の被害となったのです。
この災害では鬼怒川流域の被害が大きく、常総市三坂町付近の鬼怒川左岸の堤防が約200mにわたって決壊し、溢水が7カ所、漏水が23カ所など鬼怒川全体で97カ所も被災しました。当時は水に埋もれる家や車、屋根の上で救助を待つ人の様子などがニュース映像で繰り返し放送されました。茨城県の被害総額は401億円にものぼる大災害となったのです。
茨城県警は令和4年(2022年)1月、災害救助や捜索のためのヘリコプター「ひばり」を22年ぶりに新しいものに変えました。飛行能力が向上し、今まで以上に迅速な救助活動が期待されています。
●料理名:しょぼろ納豆(茨城県)
茨城県といえば納豆を思い浮かべる人は多いはずです。茨城県HP いばらきの納豆特集!にも「県民対象のアンケートで『県民が知人に自慢したい県内の話題』で常に『納豆』が上位にランクインする」と書かれていますし、『全国納豆協同組合連合会』の会員数で最多を誇るのも茨城県だと紹介しています。
納豆は栄養価が高く、免疫力を上げると言われており、コロナが流行している今大きく注目されています。ところで、なぜ茨城県は昔から納豆の生産に力を入れていたのでしょうか。実は「水害」がキーワードなのです。昔から那珂川は秋の台風シーズンになると水害が頻発していました。そこで水戸藩は台風前に収穫可能な早生(わせ)大豆の栽培を農民たちに勧めたのです。早生大豆は収穫時期が早いため小粒なので豆腐や味噌づくりには向きませんが、納豆ならば小粒でも美味しく、お米と一緒に食べやすいと広がったそうです(茨城県営業戦略部販売流通課 「茨城をたべよう」参照)。
納豆と同じ発酵食品の「酢」で有名なmizkan(ミツカン)HPには、納豆まめ知識 納豆の歴史のページがあります。納豆発祥説の一つには、煮豆と藁(わら)があればできることから、稲の作り方が伝わった弥生時代頃には納豆のようなものがあったのではないかと書かれています。また他説では八幡太郎義家の話も面白いです。馬の飼料であった大豆を煮て、乾燥させたものを俵につめて運んでいた平安時代。戦が長引いて馬の飼料が不足したので農民たちに急遽差し出すように命令したところ、煮大豆を熱いまま俵に詰めて差出したそうです。すると、数日後糸を引く納豆ができたので食べてみると美味しく、兵士たちの食料としたとあります。
昔から現代まで日本人に深く愛される納豆。今回の郷土料理は割り干し大根と納豆を使った「しょぼろ納豆」をご紹介します。レシピは、農林水産省 うちの郷土料理 そぼろ納豆/しょぼろ納豆を参考にしました。
★余った納豆を長期間食べる工夫
しょぼろ納豆は、納豆に干した大根を入れて1カ月ほど発酵させる料理です。ちなみに「しょぼろ」は「そぼろ」の方言です。そぼろは白身魚などを炒って味付けしてほぐした食品のことを指しますが、しょぼろ納豆は、3日間天日と寒風にさらして最後に夜風で凍らせた「割り干し大根」を刻んで使うため、この名前がついたのかもしれません。
もともとは、余った納豆を保存食にして食べ切るための郷土料理です。割り干し大根を水洗いして水を切り乾燥させて塩でもみ、納豆にも塩を入れて割り干し大根と混ぜ、さらに醤油を入れて冷蔵庫で保存します。一か月後くらいが食べ頃です。
干した大根の甘さとサクサク感に納豆が見事にマッチして、意外な美味しさに驚きます。ネギやチーズ、オクラいった納豆と一緒にあえる定番食材に、ぜひ割り干し大根も加えて欲しいです。
茨城県だけではなく全国で食べてもらいたいおすすめの郷土料理です。
〈2022. 06. 07.〉
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