青森市・むつ市、陸奥湾浸水域拡大は“寝耳に水”
早期避難で死者数は約7~8割減らせる
青森県は去る5月20日、日本海溝・千島海溝沿いの巨大地震などが発生した場合の地震・津波被害想定調査の結果を公表した。
調査は、発生が想定される複数の地震・津波のなかで地域ごとに被害が最大になる予測を組み合わせて積み上げた。発生時を「夏の正午」、「冬の午後6時」、「冬の深夜」の3ケースとして被害を算出。最大(最悪)想定で、冬の午後6時の発生で県内の死者は5万3千人にのぼり、昨年12月に国が示した試算を1万2千人上回った。
全壊建物は11万1千棟、発災翌日の避難者は31万1千人にのぼる。経済被害は6兆3千億円。
死者数が国の想定を超えたのは陸奥湾岸の浸水域が広がったためだ。市町村別でも最多死者数となったのは青森市の2万1千人で、太平洋岸の八戸市では1万9千人だった。次いで、むつ市4700人、おいらせ町2500人、六ケ所村990人など。また、これまでは冬の深夜の発生でもっとも人的被害が多くなると想定されていたが、浸水域の時間帯別の人口などを考慮、積雪によって仕事帰りの人などの避難速度が低下する冬の午後6時がもっとも厳しい条件となった。
全壊棟数の最多は八戸市の5万1千棟、青森市2万3千棟、むつ市9600棟など。1日後の避難者数は青森市が11万6千人と最多で、八戸市11万4千人、むつ市3万人、おいらせ町1万2千人などとなっている。
県は、津波浸水域の拡大などに伴い死者や建物全壊の被害も増加したとし、死者の9割以上は津波によるものとしている。地震発生から津波第1波が到達するまでの時間は、八戸市新湊で38分、青森市新町で1時間36分、むつ市松原町で2時間40分となる。
津波の高さは県が昨年5月に公表したデータを基にしており、八戸市は最大26.1m、おいらせ町は同24.0m、むつ市は同13.4m、青森市は同5.4mとなっている。
県は調査結果について、建物の耐震化や早期避難などの対策を講じた場合に、減災につながることも示していて、とくに早期避難などの徹底で死者数を約7~8割減らせるとしている。
青森県の地震・津波被害想定調査は、2020年4月に国が日本海溝(三陸・日高沖)と千島海溝(十勝・根室沖)沿いの巨大地震モデルを公表したことを踏まえ、21年度、太平洋側海溝型地震の被害想定を見直し、市町村別に具体的な被害予測を行った。国の2つのモデルと、12~13年度の調査結果による県独自モデルの計3種類を用い、マグニチュード(M)9級の最大クラスの地震、津波を想定した。被害軽減効果を併せて公表し、県民の防災意識の向上や、自助・共助の取り組み推進につなげることをめざしている。
青森県:2021年度 青森県地震・津波被害想定調査(太平洋側海溝型地震)の結果
今回の調査結果が青森県民にとってとくに“衝撃的”だったのは、陸奥湾の浸水域の広がりだろう。死者が前回調査(2012・13年度「青森県地震・津波被害想定調査」)より青森市で860人から24倍の2万1千人、むつ市は560人から11倍の6300人(冬深夜のケース)に拡大した。いずれの市でも陸奥湾の浸水域拡大によって中心部が大規模に浸水する――まさに“寝耳に水”の事態想定となっている。
北奥羽地方(青森県南・岩手県北)を主な取材エリアとする地方紙「デーリー東北」(上写真)は、この調査結果を受けて、「これほどとは…」の見出しで県南地方住民の驚きと戸惑いを表現したいっぽう、八戸市民の「東日本大震災の経験があるから、地震があればすぐ逃げるという意識は根づいている」との声を伝えている。
〈2022. 06. 01. by Bosai Plus〉