image 広島県 江波巻き 800x350 - 〈 復興わがまち ご当地ごはん! 〉<br> 【第66回】<br> 広島県「江波巻き(えばまき)」

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文・料理:大塚 環(本紙特約ライター/防災士)

 近年は日本各地で観測史上1位を更新する大雨となることが珍しくありません。平成26年(2014年)7月30日から発生した「平成26年8月豪雨」は、台風11号と12号が次々と日本各地に接近・上陸し、加えて前線が日本付近に停滞したため広い範囲で猛烈な雨が降りました。8月1~5日にかけて四国の太平洋側では総降水量が8月の月降水量平年値の2~4倍の1000mm以上となり、8月7~11日には四国から東海地方で総降水量が500~1000mmとなりました。また16日からの二日間で京都府福知山市や岐阜県高山市で48時間降水量が観測史上1位を記録しています。

 一方、広島県では19~20日にかけて大雨となり、広島市では7月30日~8月21日までの1時間降水量が101mm、3時間降水量は217.5mmと観測史上1位となりました(気象庁の参考資料 (1)平成26年8月豪雨について参照)。広島市のホームページ(以下、HP)によれば、8月19日16時03分に大雨・洪水注意報、同日21時26分に大雨・洪水警報が発表され、23時33分に洪水警報が解除されたものの、さらにバックビルディング現象(リンクはウェザーニュースより)が起きて線状降水帯による局地的な大雨が降り、安佐北区で1時間最大121mm、24時間累積最大287mm、安佐南区は1時間最大87mm、24時間累積最大247mmが観測されました(広島市HP 1平成26年8月20日豪雨災害の概要(2) 豪雨参照)。
 広島市内では土石流107カ所、がけ崩れ59カ所が相次いで発生し、広島県だけで6万8813世帯(約16万4000人)が避難勧告の対象となり、住宅全壊179棟、半壊217棟、死者は77名(うち関連死3名)、負傷者68名と人的被害の大きい災害となったのです(内閣府資料 2014 年(平成 26 年) 8 月 19 日からの豪雨災害参照)。

 そして平成30年(2018年)7月、今度は台風7号や前線の影響により西日本を中心にかつてないほどの記録的な大雨となりました。気象庁が命名した「平成30年7月豪雨」、通称「西日本豪雨」です。6月28日~7月8日までの総降水量が四国地方で1800mm、東海地方で1200mmを超え、九州北部、四国、中国、近畿、東海、北海道地方の多くの観測地点で24、48、72時間降水量の値が観測史上第1位を更新し、1府10県(岐阜県、京都府、兵庫県、岡山県、鳥取県、広島県、愛媛県、高知県、福岡県、佐賀県、長崎県)に特別警報が発表されたのです。

 全国の死者数224名、行方不明者8名、負傷者459名、住宅全壊6758棟、半壊1万878棟、一部破損3917棟、床上浸水8567棟、床下浸水2万1913棟(気象庁HP平成30年7月豪雨 前線及び台風第7号による大雨等参照)と、土砂災害と水害の発生により被害は甚大なものとなりました。中でも広島県では土砂災害が484ヵ所(20市町)、浸水被害が破堤12河川、越水82河川と被害が大きく、死者は108名、行方不明者も6名と過去50年で最大の人的被害を出しました。土砂の流入や川の越水により道路が損壊したため交通網が寸断され、生活物資が届かず、県内のスーパーの棚から物がなくなる事態となりました(広島県HP平成30年7月豪雨災害による被害状況参照)。
 近年はこのような豪雨、特に線状降水帯による大雨の被害が相次いでいます。気象庁は6月1日より世界最高レベルの技術を用いた線状降水帯予測を産学官連携で行うと発表しました。

●料理名:江波巻き(えばまき/広島県)

 前回は広島県の地質と気象、そして平成8(1996)年12月に世界文化遺産に登録された原爆ドームと厳島神社についてご紹介しました。今回は産業や歴史について見ていきたいと思います。広島県は面積8479平方kmと全国で11番目に広い面積を持ち、人口は280万1388人と12番目に多い地方都市です(令和2年国勢調査 人口速報集計結果~広島県・市町の人口・世帯数~参照)。また、ものづくりの街として昔から造船、鉄鋼、自動車などの重工業が栄えた地域でした。現在は電気機械や電気部品なども製造し、重工業含めた製造品出荷額は中国、四国、九州地方で11年連続1位です。

 「広島」という名は天正17年(1589年)に毛利輝元が太田川デルタの三角州に城を築いた際、三角州が大きな島に見えたことから「広島」と名付け、その城は広島城(別名鯉城)となりました(公益財団法人広島観光コンベンションビューローHP参照)。もともと、中世には太田川デルタには小さな島などが点在し、城下町が築かれていました。弘治元年(1555年)に厳島の合戦で陶(すえ)氏に勝った毛利元就(もとなり)は、太田川下流域(佐東の地と呼ばれた)の重要性に着目しながら中国地方の領有化を進め、孫の輝元が広島城を築城しながら中国地方一帯を治めたのです。
 ちなみに元就は誰もが知る戦国武将の一人ですが、輝元も、「五大老」の一人として豊臣秀吉に仕えた武将でした。広島城の本丸が天正19年(1591年)に完成して入城した輝元でしたが、石垣や堀が完成したのは慶長4年(1599年)でした。しかし落成した翌年の慶長5年(1600年)、関ヶ原の合戦で敗れ、西軍の総大将だった輝元は周防・長門(山口県)に国替えされてしまうのでした(広島城HP 広島城の歴史参照)。

 江戸時代から広島湾に浮かぶ島の一つだった江波島(えばじま)では、海苔と牡蠣の養殖が盛んでした。今回は江波の海苔を使用したことから「江波巻き(えばまき)」と名付けられた郷土料理をご紹介します。レシピは農林水産省 うちの郷土料理 広島県江波巻き(えばまき)を参考にしています。 

広島県 江波巻き - 〈 復興わがまち ご当地ごはん! 〉<br> 【第66回】<br> 広島県「江波巻き(えばまき)」
広島県 江波巻き(えばまき)

★船上で重宝された海苔巻き

 江波巻きは、広島菜漬と呼ばれる漬物と鰹節、白ごまを醤油であえたものを海苔巻きにした手軽な料理です。早速、広島県のアンテナショップ、ひろしまブランドショップTAUへ行き購入しました。さっと洗った広島菜漬をよく絞ってから刻み、鰹節と白ごまと醤油を混ぜます。海苔は軽くコンロの火で炙って香りを出します。海苔の上に炊き立ての白いご飯(酢飯ではありません)を敷いて、具を乗せて巻きました。

 具材を海苔巻きの中央に巻き込むのはなかなか難しかったです。海苔巻きは、一つ切るたびに包丁の刃を水で濡らした布巾で拭くと綺麗な断面になります。江波巻きは漁師たちが沖に出る時に持参した食料です。保存が利く漬物入りで手軽、しかも片手でも食べることができたので重宝がられ、郷土料理となりました。
 観音寺白菜と京菜を交配させたという広島菜はやわらかく、癖がなくて食べやすい野菜でした。広島菜漬は野沢菜漬け、高菜漬けと並び日本の三大菜漬の一つ。一度食べてみてくださいね(全国農業協同組合連合会広島県本部HP 広島菜漬)。

〈2022. 05. 07.〉

 

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