image 牡蠣飯 800x350 - 〈 復興わがまち ご当地ごはん! 〉<br> 【第65回】<br> 広島県「牡蠣飯」

Photo by くにろく

文・料理:大塚 環(本紙特約ライター/防災士)

 広島県は中国地方の中央に位置し、瀬戸内海沿岸部は年平均気温が15度前後と温暖な気候で年平均降水量は約1000mmなのに対し、山間地帯は10度前後と寒く、降水量は約2000mm以上と雨が多いのが特徴です(国立研究開発法人 森林研究・整備機構 森林整備センターホームページ、以下HP 中国四国整備局 地勢・地質・気候(広島県)参照)。
 県の72%が林野面積となっており、山間部の地質は花崗岩・花崗班岩が主になっています。花崗岩は風化が進むと砂質土状の「まさ土」となり脆く崩れやすくなることで知られていますが、県内ではすでに「まさ土」となっている箇所も少なくありません。そのため大きな台風や豪雨に見舞われると山間部では「まさ土」が原因の大規模土砂災害も発生しているのです(広島県HP 過去の主な土砂災害参照)。

 昭和20年(1945年)9月17日に九州の枕崎付近に上陸した台風16号(後に枕崎台風と命名)は、上陸時が916.1hpa(ヘクトパスカル)と室戸台風(911.6hpa)に次ぐ気圧の低さで猛烈な台風となって北東に進みました。呉地方は17日の18時から22時まで113.3mmの雨量を記録し、すべての渓流の氾濫、山腹崩壊、二河川の堤防決壊が発生しました。さらに土石流の発生によって1162戸の家屋が押し流され、死者はこの地域だけで1154名にのぼり、広島県全体で2012名が犠牲となる大惨事となりました(広島県HP 昭和20年9月『枕崎台風』参照)。
 広島県では家屋全壊2127戸、半壊3375戸(ひろしまマイ・タイムライン 風水害を知ろう 参照)となり、終戦直後の混乱期で防災に対する備えもなかったために被害が拡大したとも言われています。

 昭和26年(1951年)10月に発生したルース台風では、台風の九州上陸前から前線によって広島で降雨が続き、佐伯・山県両郡で総降雨量250~400mmという膨大な雨量になりました。そのため太田川、八幡川、木野川の堤防は決壊し、高潮も発生して県西部は枕崎台風以上の被害となり死者65名(うち39名は佐伯市由来町)、行方不明者29名にのぼりました(広島県HP 昭和26年10月『ルース台風』参照)。

 豪雨による土砂災害も頻発しています。1967年の「昭和42年7月豪雨災害」では呉市などを中心に家屋全壊514戸、半壊605戸、死者159名となり、これをきっかけにして「急傾斜地の崩壊による災害の防止に関する法律(急傾斜地法)」が昭和44年(1969年)に制定されました。
 また1999年に発生した「平成11年6.29豪雨災害」は広島市、呉市などで家屋全壊154戸、半壊101戸、死者32名の被害となりましたが、この災害は土砂災害警戒区域等における土砂災害防止対策の推進に関する法律の制定のきっかけとなっています。

 全国で発生する土砂災害の数は年間1000件と言われていますが、広島県の土砂災害発生件数は平成11年には300件超でした。平成30年(2018年)には全国で3459件と過去最多の土砂災害発生数となりましたが、広島県だけでも1242件も発生しています。それゆえに県が最も重視する自然災害が土砂災害であるといっても過言ではありません。

●料理名:牡蠣飯(広島県)

 修学旅行先として人気が高い広島県は、平和について考え、歴史を学ぶ上で非常に重要な土地です。平成8年(1996年)にユネスコの世界遺産として登録された原爆ドームは、日本人、外国人を問わず一度は足を運んで欲しい場所です。一目見るだけで昭和20年8月6日に落とされた原爆の凄まじさと核兵器の悲惨さを痛切に感じ、平和維持の大切さについて考えざるを得ません。

 また修学旅行のコースとしてよく挙がる「安芸の宮島」も有名です。江戸時代の書物「日本国事跡考」(林春斎著)には、松島、天橋立と並び日本三景として安芸の宮島が登場します(日本三景 公式HP参照)。瀬戸内海に浮かぶ厳島は通称宮島(安芸の宮島)と呼ばれ、古くから聖域として崇められてきました。その背景には古来より航海の難所として恐れられていた場所だったという理由があります。

 潮が満ちると海に浮かぶように見える厳島神社は、社殿の建立が推古天皇御即位の593年、その後、安芸守となった平清盛が仁安3年(1168年)に繕い直して寝殿造の社殿にしました(厳島神社HP参照)。御祭神は市杵島姫命(いちきしまひめのみこと)、田心姫命(たごりひめのみこと)、湍津姫命(たぎつひめのみこと)で、皇室の安泰や国家鎮護、海上の守護神として祀られています。その建築的価値はとても高く、厳島神社の建造物は国宝が6棟、重要文化財には11棟3基が指定されています。

 大鳥居は平清盛の援助で建立された鳥居を初代とし、鎌倉期に社殿焼失で再建された鳥居を含めると今は9代目に当たり、明治8年(1875年)に造られたものです。現在は修理工事中(厳島神社HP①大鳥居の破損状況参照)で、最新の技術も駆使しながら、残された文献を基に丁寧な工事が行われています。

 ところで、そんな瀬戸内海に面している広島の「県のさかな」は、牡蠣! 今回の郷土料理は人気の広島県産の牡蠣を使った「牡蠣飯」です。レシピは広島県安芸区役所の広島の郷土食・伝統食レシピ ~安芸区食生活改善推進員~ かきめしを参考にしました。

広島県 牡蠣飯 - 〈 復興わがまち ご当地ごはん! 〉<br> 【第65回】<br> 広島県「牡蠣飯」
広島県 牡蠣飯

★牡蠣のうまみが染みこむ牡蠣飯

 牡蠣飯は最初から牡蠣をお米と一緒に炊き込むレシピと、別にして牡蠣だけ調理し炊き上がったお米と混ぜるレシピがあります。一緒に炊き込むレシピは牡蠣の旨みが十分に引き出せる調理法です。身が縮むのが気になる方は、牡蠣だけ別に調理して最後に混ぜたほうがいいでしょう。

 私は牡蠣が好きなのですが、うちの家族はそれほど好きではありません。しかし、このよく味が染みた牡蠣飯は「おいしい」と喜んで食べてくれました。生牡蠣が苦手な人には牡蠣飯にして出すと食べてくれるかもしれません。
 牡蠣の栄養価はビタミンB1・B2・B12、亜鉛、鉄、ミネラル、アミノ酸、タウリン、グリコーゲンと豊富ですので、食べないのはもったいないのです。特にタウリンは目の疲れを回復させて、肝臓の機能を高めると安芸区役所のHPにあります。ぜひ新鮮な広島県産牡蠣を入手して作ってみてください。

〈2022. 04. 07.〉

 

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