阪神・淡路の教訓はどこに? 一般ビル耐震化は“闇の中”
住宅、公共ビルや学校などの耐震化は進んだ、しかし一般ビルの耐震化は?
市場原理にまかせていいのか
NHKテレビは本年1月14日、阪神・淡路大震災から27年を期して「“見過ごされた”耐震化」と題する特番を放映した。その数日後、福和伸夫・名古屋大学減災連携研究センター教授が「盲点は繁華街のビルの耐震化 3大都市の現状を見る」と題した小論を「Yahoo! ニュース」に投稿した。
NHKニュース:「どのビルが危険かわからない」“見過ごされた”耐震化
その内容は推して知るべし――防災関係者を改めて震撼させるものだった。
日本の耐震基準は1981年に改正され、それより古い基準で設計された建物は耐震性が不足したため、阪神・淡路大震災では既存不適格建築物が大きな被害を受けた。このため、震災後、1981年以前の建物を現行の耐震基準並みに改修することを促す「耐震改修促進法」が制定され、全国の自治体は、住宅の耐震診断や耐震改修に対する補助制度を整備、学校や防災拠点の耐震化が進んだ。
いっぽう、2013年に耐震改修促進法が改正され、不特定多数の人が利用する5000平米以上の面積の大規模建築物等(要緊急安全確認大規模建築物)と、災害時の避難路などを塞ぐ恐れのある建物や防災拠点建物(要安全確認計画記載建築物)の耐震化を進めることになった。大きな建物は同時被災者が多くなること、緊急輸送路などは防災上重要であることから、所有者に建物の耐震診断を義務づけ、自治体が診断結果を公表することになった。多くの自治体は、これら耐震診断義務づけ対象建築物に対して、診断や改修の補助制度を用意している。
しかし、耐震改修の補助対象は、既存不適格住宅、公共施設、多くの人が利用する大規模な建物、重要な道を塞ぐ恐れのある建物、災害対応の拠点となる建物などに限られている。住宅の耐震化は、改築や改修により90%弱まで耐震化が進み、また、小中学校を含め公共施設の多くの耐震改修は終了した。大規模な建物も補強が徐々に進みつつあるのだが、ひるがえって、私たちが普段利用するまちなかの中小ビルや工場施設のほとんどは補助対象外であり、その耐震化の実態はもとより、耐震診断のデータ、診断を受けたかどうかなども報告されていない。
要は、これらのビル・施設は耐震化のコストが大きく、まさに市場経済のなかで、経営者の意識・思惑にまかされ、耐震化は進んでいないと見るのが正しいのだ。だれが、なぜ、どのように、耐震化の遅れを見過ごしているのか……だれがその代償を払うのか。
●首都中枢も、銀座も、大阪・名古屋も、そして超高層ビルも?!
新耐震基準の制定から40年を経て、そのアップデート(地盤要因などを考慮した新耐震基準)も新たな課題となるなか、まずは目前のまちなかのビル群への“耐震化疑惑”=“疑いの目”は、まさにブロック塀の倒壊と同じレベルで懸念されるところとなるのではないか。このままでは、阪神・淡路での悪夢が繰り返されるのではないか。
福和氏は小論のなかで次のように述べている。「東京都中央区のホームページで、要安全確認計画記載建築物の耐震診断結果を調べてみた。対象となっている建物は、特定緊急輸送道路の沿道の建物で、高さが道路幅員の2分の1以上のもの。結果は、244棟の内、現行の耐震基準相当の耐震的な建物は114棟。その内、耐震改修をして基準を満たせるようになったものは25棟。いっぽう、耐震性の不足する建物は130棟あり、その内66棟は現行耐震基準の半分以下の耐震性しかなかった。東京都心の中央区ですら、既存不適格建物の6割が、耐震的に問題がある。多くは、店舗や住宅を併設する建物でもある。いっぽう、ビジネス街の事務所専用ビルは耐震化が進んでいる」と。
福和氏はさらに、東京・銀座通りについても言及する。「多くの人が溢れる日本一の目抜き通りですら、問題のある既存不適格建物が半数も残っていることにゾッとしました」。他の主要都市も同様、福和氏はさらに工場施設の耐震化の遅れも指摘している。
南海トラフ巨大地震では広域にわたって長周期地震動の懸念もある。“既存不適格超高層ビル”の実態はどうなのか……カウントダウンが迫るなか、どうする?
〈2022. 02. 10. by Bosai Plus〉