Photo by くにろく
文・料理:大塚 環(本紙特約ライター/防災士)
1944(昭和19)年12月7日、駿河トラフと南海トラフ沿いを震源とするマグニチュード(以下、M)7.9の大規模な地震が発生しました。昭和東南海地震です。三重県から静岡県まで震度6弱の地震で、伊豆半島から紀伊半島にまで津波が起こりました。
発生した時間帯が昼の1時であったため学校や勤務先(軍需工場など)で亡くなる方が多く、全体の犠牲者は1223名と言われています。しかし戦争中に発生した地震ということもあり、被害の全容は分かっていません(内閣府ホームページ、以下HP 災害教訓の継承に関する専門調査会報告書 平成19年3月1944 東南海地震・1945 三河地震 参照)。
一方、三重県HP戦時下の三重県に大きな被害、東南海地震によれば、三重県での死者・行方不明者は406人、負傷者607、家屋倒壊は1万1558戸とされています。また被災者の声を集めた防災みえ.jp過去の災害記録 昭和東南海地震の被災体験記録には地震後に大津波が発生し、最大が尾鷲市賀田の9mだったとも記されています。12名の被災体験談は年齢や地域が様々で、同じ地震でも視点が異なり被害の様子がよく分かります。揺れが徐々に大きくなり長かったこと、海側に住む人たちは地震後「津波が来るぞ」と周囲に叫び避難を促したこと、一方、山側に住んでいる人たちは地震後に津波が襲うという意識が希薄であったようです。
また地割れの発生や石垣の石が飛び出したこと、津波で家同士がぶつかり大きな音を立てて壊れた様子、物を取りに戻ったり支度に手間取ったりした人は助からなかったことや人々が助け合って避難した場面も語られています。戦争中で若い男性が兵隊に行って村にいなかったため地震後の片づけは非常に困難でしたが、後に青年団が来て助かったとも何人かが語っています。
体験談の中で一番印象に残ったのは地震後に津波が来ることを知っている人の多さです。昔の東南海地震の津波が教訓として伝わっていたからかもしれませんし、潮が引く様子から判断したのかもしれません。津波規模のわりには犠牲者が膨大な数とならなかったのは教訓や知識が役立ち、迅速に高台へ避難した人が多かったからかもしれません。
昭和東南海地震は、駿河湾から遠州灘、熊野灘、紀伊半島の南側の海域及び土佐湾、日向灘沖までの「南海トラフ」上で発生した南海トラフ地震です。南海トラフ地震の震源域は南海、東海、そして日向灘ですが、過去には定期的に地震が発生しています。
古くは684年の白鳳(天武)地震:震源域は南海、887年の仁和地震:震源域は東海・南海、1096年の永長東海地震と1099年の康和南海地震、1361年の正平(康安)東海地震と1361年の正平(康安)南海地震、1498年明応地震:震源域は東海、1605年の慶長地震:津波地震の可能性が高い地震、1707年の宝永地震:震源域は南海・東海、1854年の安政東海地震、1854年の安政南海地震、1944年の昭和東南海地震、1946年の昭和南海地震などです(気象庁 南海トラフ地震とは参照)。
南海トラフ地震は約100~150年間隔で発生しているため、現在M8~9クラスの地震が30年以内に発生する確率は70~80%と言われています(2020年1月24日現在)。規模、揺れ、津波被害ともに大きい巨大地震ですから、日本のほとんどの地域に影響があります。自治体のハザードマップや南海トラフ地震への対策、避難先や連絡方法を早急に把握する必要があります。
●料理名:伊勢うどん(三重県)
極太な軟らか麺にたまり醤油で出来たツユをかけ、混ぜて食べる伊勢うどん。汁ものではない一風変わったうどんスタイルが確立したのは伊勢神宮に参拝者が押し掛けた江戸時代でした。大勢訪れる客を待たせることは売上にも関わります。そこで麺はゆでっぱなしにし、お客さんが来ればざっとお湯を切ってタレをかけて提供するうどんが生まれたようです。
400年も前に誕生していたこのうどん、昔は単なる「うどん」「素うどん」と呼ばれていましたが、昭和40年代に永六輔さんがラジオで「伊勢の珍しいうどんなので伊勢うどんというのがよいのでは?」と発言したことから、1972(昭和47)年に伊勢市麺類飲食業組合が統一名を決めたそうです(農林水産省 うちの郷土料理 伊勢うどん 三重県参照)。意外に伊勢うどんという名称は新しいものだったのです。
ところで、伊勢で食べるうどんが「伊勢うどん」なのかというと、そうでもありません。伊勢うどん協議会HPでは伊勢うどん普及のために登録を促していますが、その登録基準は――
(1) 伊勢市内で伊勢うどんを提供する店舗であること
(2) 麺の太さは縦横計6mm以上、製造過程で25分以上ゆでた麺を使用し、タレはたまりをベースに作られていること
(3) 伊勢商工会議所会員・(公社)伊勢市観光協会会員又は伊勢市麺類飲食業組合組合員であること
―― だそうです。25分以上ゆでないと、ゆであがらないほど太い麺だということなのでしょうね。もちもちとしているのに腰がある麺が特徴です。
★三重県アンテナショップで購入
伊勢うどんを打とうかと考えていましたが、麺の太さや製造過程で伊勢うどんの登録基準があるため、今回は三重県のアンテナショップ「三重テラス」で買ってくることにしました。今回は麺をゆでることしかしないため少々申し訳ない気持ちもしますが、致し方ありません。ゆでタイプの伊勢うどんを家で3分ゆでれば出来上がりです。付属のタレを回しかけるとびっくりするくらい濃い色ですが、食べるとちょうど良い塩梅になります。
伊勢うどんはすぐに出せるだけでなく、お客さんもさっと食べて席を立つから回転が速いはずです。これなら利益も出るなぁと伊勢の人々の商売上手な姿が思い浮かびました。
今回、お湯を切って熱々な伊勢うどんを頬張るとやっぱり美味しかったです!「合理的で工夫上手な日本人ってやっぱりすごいな」と思った郷土料理でした。
〈2022. 01. 07.〉
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