Photo by くにろく
文・料理:大塚 環(本紙特約ライター/防災士)
三重県は紀伊半島の東側に位置し、愛知、岐阜、滋賀、京都、奈良、和歌山といった県と、伊勢湾、太平洋に接する南北に長い県です。
大きく5つのエリアに分かれ、鈴鹿市、四日市市のある北勢エリアは名古屋へのアクセスが良く、自然も豊かで住みやすい人口が多い地域です。また名張市、伊賀市がある伊賀エリアは忍者の里として伊賀流忍者博物館や上野城跡といった見どころが多く、手裏剣打ちなどの珍しい忍者体験ができます。
三重県の中央に位置し、県庁所在地の津市や松坂市がある中南勢エリアでは、松坂城の城跡(石垣)や御城番屋敷、斎宮歴史博物館といった貴重な建造物や資料に出合え、南側の尾鷲市、熊野市がある東紀州エリアにはユネスコ世界遺産に登録された「熊野古道」を目指して世界中から観光客が訪れる場所です。
そして伊勢市、志摩市が含まれる伊勢志摩エリアには、かつて「死ぬまでに一度は訪れたい」と言わしめた通称「お伊勢さん」=伊勢神宮(正式には「神宮」)があります。江戸時代には年間約400万人もの参拝客が訪れたこともある超人気スポットですが、昔から神宮にはおみくじがありません。神宮ホームページ(以下、HP)によれば「『一生に一度』とあこがれたお伊勢参りは、大吉でないわけがありません。そのため、おみくじも引く必要がなかったと考えられます」とのこと。神宮は昔の人々にとって今よりもずっと特別で神聖な場所だったのです。
聖地あり忍者ありとユニークな文化が目白押しの三重県は、巡礼の人々が行き交うことで経済が活発になり、観光産業で栄えた一大都市圏でした。
風光明媚な場所が多い三重県ですが、海に面しているため台風や高潮被害にたびたび遭遇しています。特に東海・近畿地方一帯に甚大な被害をもたらした昭和34年(1959年)の「伊勢湾台風」は忘れてはならない災害として語り継がれています。
9月21日に発生した超巨大な台風15号は、26日に和歌山県に中心気圧929.6hPa(ヘクトパスカル)で上陸し、猛烈な勢力と広い暴風域のまま本州を縦断しました。気象庁の災害をもたらした気象事例「伊勢湾台風」によれば、愛知県の伊良湖で最大風速45.4m/s(最大瞬間風速55.3m/s)、名古屋で37.0m/s(同45.7m/s)を観測したとのことです。
愛知県、三重県の被害は凄まじく、名古屋港は3.55mの高潮(内閣府防災情報のページ 災害教訓の継承に関する専門調査会報告書 1959 伊勢湾台風 第1章 伊勢湾台風災害の概説 参照)が発生し、浸水被害や降雨で堤防が決壊して愛知県名古屋市や弥富町、知多半島では死者・行方不明者が3300名以上となりました。
三重県では死者・行方不明者1281名、負傷者5688名、住家全壊5386戸、半壊1万7786戸、床上・床下浸水6万2655戸に上りました(三重県HP 歴史の情報蔵 72伊勢湾台風の被害 参照)。
この台風による全国の死者・行方不明者は5098人、住家浸水36万3611棟、住家全壊4万838棟と膨大な被害数です。中心気圧(上陸時)が歴代台風の中で3番目に低いだけあり、圧倒的な破壊力に人々はなす術(すべ)を失います。暴風の中で吹き飛ばされる家々や迫りくる水に避難もできず逃げ場を失い、台風災害として明治以降最多の犠牲者を出しました。
台風一過後の、木々が瓦礫の山となって積み重なる写真は今見ても衝撃的な光景です。後に「伊勢湾台風」と名付けられたこの台風を教訓として「災害対策基本法」が制定されました。
●料理名:てこね寿司(三重県)
三重県の南北に走る海岸線の長さは1088㎞。様々な魚介類が水揚げされ、県内外に出荷されます。「県の魚」に指定されているのは伊勢海老です。その他、春には鰹(かつお)や真鯛、槍烏賊(やりいか)、鮎並(あいなめ)、赤貝、玉筋魚(いかなご)が獲れ、夏には黄肌鮪(きはだまぐろ)や栄螺(さざえ)、車海老、石鯛、縞鯵(しまあじ)、鰻、潤目鰯(うるめいわし)が水揚げされます。
秋になれば芝海老、真鯖(まさば)、鰆(さわら)、飯蛸(いいだこ)、煽烏賊(あおりいか)、胡麻鯖(ごまさば)、秋刀魚(さんま)、鬢長鮪(びんながまぐろ)など脂がのった魚たちがいっぱい。冬でも鮟鱇(あんこう)、黒鮪(くろまぐろ)、虎河豚(とらふぐ)、真梶木(まかじき)、鰤(ぶり)など大型の魚がやってきます(三重の旬魚100選 三重県水産物消費拡大促進協議会参照)。三重県漁業協同組合連合会 漁業の状況によれば、三重県の水産業は生産量が全国8位の18万641t、生産額は9位の512億円です(ともに2015年のデータ)。
漁師町が多い三重県の郷土料理として選んだのは「てこね寿司」です。志摩市の郷土料理として有名です。船上の漁師は漁が始まるととにかく忙しいものです。ご飯の時も獲った魚にいちいち醤油をつけて食べる時間なんてありません。そこで刺身を醤油漬けにして日持ちがよい酢飯と一緒に混ぜ、素早く食べることができる手こね寿司が生まれたのです(志摩商工会HP参照)。獲れた魚をその場でさばき、手で混ぜたことからこの名前がつきました。実はとっても合理的で理にかなった郷土料理なのです。
今回はJAグループ 三重県「てこね寿司」JA鳥羽志摩女性部のレシピを参考にしました。
★鰹や鮪が旬の季節におすすめ
てこね寿司には鰹か鮪の赤身の刺身を使います。おもてなし料理として大人数分を作るのならば柵(さく)で買い、自分で好みの厚さに切ると経済的です。もっと簡単に家のご飯として少人数分を作る時は、売っている切り身のお刺身が便利です。あるいは魚屋さんにその場でさばいてもらった刺身を使うのもいいでしょう。てこね寿司の美味しさは魚の鮮度で決まります。
「お米を炊く時に昆布を入れて炊く」と書いてあるレシピがいくつかありました。上記のJA鳥羽志摩女性部のレシピにも、ワンポイントとして「ご飯を炊く時、分量の水からお茶碗半分くらいの量を減らしお茶碗一杯くらいの酒を入れ、昆布を入れると風味が良い」とあります。
今回は酒を入れずに炊きましたが、次回は酒を入れて炊いてみようかなと思います。漬けにするタレにも酢飯にもお砂糖を入れるため甘みが強くなるので、砂糖が苦手な方は漬けの方は醤油だけでも大丈夫かもと思いました。
私は鮪の切り落としを使って作りました。大葉が大好きなので、食べる時には料理写真よりもさらに大葉を追加したら、薬味の香りと酢飯のさわやかさが鮪の臭みを消して疲れが吹き飛ぶような美味しさです。酢の酸味が疲労回復にもなります。鮪や鰹が旬の季節にでも、ぜひ作ってみてはいかがでしょう。その際は薬味をたっぷりと入れてくださいね!
〈2021. 12. 07.〉
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