大分県「とり天」(イメージカット)

Photo by くにろく

文・料理:大塚 環(本紙特約ライター/防災士)

 大分県は北部・西部・南部がそれぞれ福岡県・熊本県・宮崎県に接し、東側は海に面しています。全体的には温暖な瀬戸内海気候ですが、日田市や玖珠郡などは寒暖の差が激しく、夏は35度以上となって日本の最高気温を記録することもあるのに対し、冬は氷点下まで冷え込み雪も降ります。九重連山や由布岳の辺りは天ケ瀬温泉や湯布院温泉、東の海側には鉄輪温泉、別府温泉など、泉質がトップクラスの有名温泉がズラリと揃っています。源泉数と湧出量は日本一で、日本有数の温泉療養地、観光地として親しまれてきました。近年は温泉に憧れて移住する人もいるほどの人気ぶりです。

 そんな大分県でも過去にたびたび地震と津波に襲われています。慶長元年(1596年)に発生した「慶長豊後地震」(マグニチュード以下M 7.0)は別府港を震源とし、高崎山が崩壊、日出、湯布院、佐賀関では山崩れが発生し、府内、佐賀関で家屋が倒壊・流失しました(大分県ホームページ、以下HP「大分県地震被害想定調査」について参照)。古文書の記録によれば、八幡奈多宮(杵築市奈多八幡)で海抜6m、別府村、沖の浜(春日浦付近)、府中並近辺(県庁付近)で海抜4~5m、関神社(早吸日女神社 はやすいひめじんじゃ)で海抜4~6mの津波が襲ったとされています。大分県ではこの地震と津波によって708人が犠牲となりました(大分県HP「大分県の地震・津波」参照)。

 また、わが国最大の地震の一つ、宝永4年(1707年)の「宝永地震」(M8.4)では各地で大きな被害を出しました。大分県でも大分、木村、鶴崎、佐伯で震度5~6、津波は町屋と浜の境(杵築市213号辺り)で海抜約1.5~2m、上野ヶ丘の麓辺りで海抜4~5m、原浦(原川中学校)で海抜4mと慶長豊後地震の津波箇所とほぼ重なります。そして宝永地震の時には更に南津留(臼杵石仏)で海抜約10m、荒田川(荒田地区)で4~6m、佐伯市米水津で海抜11.5mの大津波が押し寄せました。内閣府防災情報のページ 災害教訓の継承に関する専門調査会報告書 1707 宝永地震「第2章 宝永地震による被害とその後」には被害集計の表が掲載されていますが、宝永地震の全体の死者は5045人、負傷者1384人、家屋全壊は5万6304軒、そのうち大分県は死者37名、家屋全壊400軒、半壊・破損273軒、流失409軒となっています。

報告書には大分県の佐伯藩では地震後一時間程度で津波が押し寄せて半日に7回の津波が記録されたこと、藩主が津波に襲われて城下から避難してきた領民を城内に収容して粥を振舞い、この行動によって城下の死者が4名だけだったことなどが書かれています。九州東部の被害はほとんど津波によるものでしたが、震源域が離れていたため到達まで時間的余裕があり、人々は高台に逃げて難を逃れ、犠牲者が少なかったのではないかと見られています。昔も今も地震が来たら海辺に住む人々は素早く高台に逃げることが重要なのです。

大分県「とり天」 - 〈 復興わがまち ご当地ごはん! 〉<br> 【第59回】<br> 大分県「とり天」
大分県 とり天

●料理名:とり天(大分県)

九州地方の「九州」の由来は7世紀後期から10世紀まで行われた律令制度上の行政区分であった五畿七道(ごきしちどう)にまで遡ります。五畿とは、山城・大和・河内・和泉・摂津の五国の特別行政区域のことです(国土交通省ホームページ、以下HP Ⅰ.古代の道 五畿七道と駅伝制参照)。また七道とは中央と地方を結んだ7本の幹線道路で、東海道・東山道(とうさんどう)・北陸道・山陰道・山陽道・南海道・西海道(さいかいどう)のことを指します(国土交通省HP 七道駅路参照)。

 五畿には入りませんが大陸との交流や貿易が盛んであった西海道(九州)は要所であったため「大宰府」が置かれ、筑前国・筑後国・肥前国・肥後国・豊前国・豊後国・日向国・大隅国・薩摩国の9つの国から成る九州(州は国を意味する)と呼ばれるようになりました。豊国と呼ばれていた土地が7世紀に豊前国、豊後国となり、併合により大分県となったのは明治4年(1871年)です。
 大分県では偉人も多く輩出し、中津藩出身(現在の中津市)の啓蒙思想家・教育家であり、慶応義塾を創設した福沢諭吉(1835年~1901年)を筆頭に、杉田玄白とともに『解体新書』を書いた藩医、蘭学者の前野良沢(1723年~1803年 中津市出身)や宇佐市出身で「昭和の角聖」と呼ばれる大横綱・双葉山定次(1912年~1968年)などが特に有名です。

 名産品も多く、かぼす、豊後牛、関アジ、関サバ、車海老、城下かれい、伊勢海老、カキ、すっぽんなど美味しいものがいっぱい!また加工品で有名なのは柚子胡椒です。大分や福岡に行くと「〇〇さんの柚子胡椒」と書いたいろんな方が作った柚子胡椒が売られていて、辛みや香りが様々で自分好みのものを探すのも楽しみです。

 そして大分のソウルフードの「とり天」も外せません。発祥は別府の中華料理屋さん「東洋軒」だそうです。昭和初期、創業者の宮本四朗さんが肉の硬い地鶏を平らにそぎ切りにして軟らかく食べやすくし、天ぷらの生地に絡ませて揚げた「鶏ノカマボコノ天麩羅」が始まりです(東洋軒HPとり天の発祥参照)。今回はそのとり天を作ってみることにしました。レシピは農林水産省HP うちの郷土料理 大分県 とり天を参考にしました。

★とり天とから揚げは違うのか?

子どものころから鶏のから揚げが大好きだった私。遠足や運動会の時には母が朝にから揚げを揚げてくれて、お弁当のおかずの定番でした。大分県では「とり天」と呼ばれる料理があると聞いて、まず思ったのは「とり天とから揚げの違いは何か?」でした。から揚げはから揚げ粉で揚げて、とり天は天麩羅なのだから溶き卵を入れた天麩羅粉で揚げるというのが大きな違いのようです。

またとり天の場合はあらかじめ下味をつけておくのも特徴です。海老や野菜の天麩羅は素材そのものを天麩羅粉で揚げて、天つゆなどに付けて食しますよね。

さて、調理開始。鶏むね肉を一口大に切って醤油と生姜につけてよく揉み込みました。職場へのお弁当にも持っていきたかったので、農林水産省のレシピではおろしにんにくとなっていますが、うちでは生姜にしました。これを半日たっぷりと漬け込みます。

そして揚げる時にはキッチンペーパーでしっかり水分を一つ一つ取ります。ここで水分を取らないとカリッとせずにベタっとしたとり天になるので注意です。衣につけて熱した油に入れて揚げ、きつね色にふんわりと膨らんできたら出来上がり。

 揚げたてが一番美味しいので撮影前に一つずつ家族と味見。揚げたてを堪能してから撮影し、夕飯とお弁当のおかずにしていただきました。冷めても美味しさは変わらず、下味がしっかりとついているからお弁当にもふさわしい郷土料理です。次の日がお休みならばにんにくの臭いも気になりませんので、今度はにんにくをたっぷり揉み込んだとり天を作ってみようと思います。

〈2021. 10. 07.〉

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