歴史的に巨大地震を引き起こしてきた“沈み込み領域”
国立研究開発法人産業技術総合研究所(以下、「産総研」)の研究者グループが、千葉県九十九里浜沿岸で、歴史上知られていない津波の痕跡を発見、それが約1000年前に、房総半島沖で発生したマグニチュード(M)8級の巨大地震によるものとの結論を得たと発表した。同論文は科学誌ネイチャー・ジオサイエンスに掲載された。
産総研はこれまで過去に発生した津波の痕跡を調べるための地質調査を日本各地で行ってきた。とくに2011年東北地方太平洋沖地震以降、その破壊領域の南方の海域に面する千葉県九十九里浜地域において、掘削調査により過去の津波の痕跡である津波堆積物を2層発見。また、放射性炭素年代測定により、2層のうち古いほうの津波堆積物は約1000年前に堆積しており、歴史上知られていない津波の痕跡であることがわかったという。
房総半島沖には、太平洋プレート、大陸プレート、フィリピン海プレートが1カ所で接する「プレートの三重点」が存在する。約1000年前の津波堆積物の分布を再現するために津波浸水シミュレーションを行ったところ、これらのプレート境界のうち、フィリピン海プレートに対して太平洋プレートが沈み込む領域が破壊された場合、比較的小さなすべり量でも九十九里浜地域を大きく浸水させる津波が発生することがわかった。
この結果は、従来考えられてきた相模トラフや日本海溝に加えて、房総半島東方沖の海底下に位置するフィリピン海プレートに対して太平洋プレートが沈み込む領域が巨大地震・津波を起こす場所として注意すべきことを示しているという。
2011年東北地方太平洋沖地震の発生後は、中央防災会議が、想定すべき地震・津波について「これまでの考え方を改め、古文書等の分析、津波堆積物調査、海岸地形等の調査などの科学的知見に基づき想定地震・津波を設定し、地震学、地質学、考古学、歴史学等の統合的研究を充実させて検討していくべき」との提言がなされた。このことを受けて、日本の沿岸各地において津波堆積物に関する調査が活発に行われている。
ちなみに「房総沖地震」という言い方は千葉県の房総半島東方沖、太平洋の地下を震源とする地震の総称となる。このエリアでの大地震・津波発生の記録は少なくない。
千葉県資料によると、とくに大津波をともなった大地震としては、1498年明応地震(推定M8.4)、1590安房地震(地震規模不明/2mの隆起や潮が引いて3kmの干潟を形成)。1605年慶長地震(M7.9)では房総から九州の太平洋岸で津波被害、1677年延宝地震(推定M8.0)では磐城から房総・伊豆半島東岸・伊豆諸島にかけて津波被害、近くは1953年房総沖地震(M7.4)、2011年東北地方太平洋沖地震(M9.0)と続く。
産総研:約1000年前に発生した房総半島沖の巨大地震による津波の痕跡を発見
〈2021. 09. 24. by Bosai Plus〉