コロナ禍で巨大津波を想起し、複合災害に想像力で備える
北海道太平洋沿岸の津波想定公表を機に、
巨大地震津波勃発の”リマインダー”(警告)とする
【 コロナ禍のいま、“多重複合災害”に想像力で備える 】
● “ビッグ・リマインダー”(警告の想起)としての道「津波浸水想定」
北海道が「北海道太平洋沿岸の津波浸水想定」を去る7月19日公表した。
本紙は直近の8月1日付けで「アラスカ半島でM8.2の地震 “ビッグ・リマインダー!”…(チリ地震津波、元禄津波の想起)」と題して「遠地津波」(チリ地震津波、元禄津波)への警告を発した。また本紙、2018年1月8日付けでは「雪氷津波 千島海溝“超巨大地震 切迫”――厳冬期の津波が現実的課題に」を取り上げたように――北海道太平洋沿岸の津波想定を(警告の)”リマインダー”としたいからだ。
本紙は「事前防災」を掲げ、防災の”想定外をつぶす”ことを第一義としている。防災メディアとして直近の気象災害の激甚化や、切迫感が高まる南海トラフ巨大地震、首都直下地震の優先度も高いが、いつ起こっても不思議はない北海道太平洋沿岸を襲うことが想定される巨大地震津波を、道の津波浸水想定の公表を機に、改めて取り上げる。
●「 千島海溝」も切迫の可能性高い――住民避難を柱に対策
国の地震調査研究推進本部(地震本部)が2017年12月に「千島海溝沿いの地震活動の長期評価」を13年ぶりに改訂(第三版)、北海道東部沖(太平洋側)の「千島海溝」で今後、大津波を伴うマグニチュード(M)8.8程度以上の”超巨大地震”について「切迫している可能性が高い」と評価・公表した。これを踏まえて中央防災会議防災対策実行会議のもとに「日本海溝・千島海溝沿いの巨大地震対策検討ワーキンググループ(WG)」が設置され、2020年4月、想定すべき最大クラスの地震・津波断層モデルの設定方針、同モデルによる津波・地震動の推計等の検討を行うことを目的に「日本海溝・千島海溝沿いの巨大地震モデル」が公表された。
北海道はこれを受けて、道防災会議地震火山対策部会地震専門委員会に「津波浸水想定設定ワーキンググループ」を設置、「北海道太平洋沿岸の津波浸水想定」を去る7月19日に公表した。そこでは「最大クラスの津波」に対して、住民避難を柱とした総合的防災対策を構築際の基礎となる道としての津波浸水想定を設定している。
● 津波高想定――釧路町で最大26.5m、影響開始時間 2分〜22分
2011年3月の東日本大震災による甚大な津波被害を受け、内閣府中央防災会議専門調査会は、新たな津波対策の考え方を「東北地方太平洋沖地震を教訓とした地震・津波対策に関する専門調査会報告」(2011年9月28日)で示した。この中で、今後の津波対策を構築するにあたっては、基本的に2つのレベルの津波を想定する必要があるとした。道は今後の津波対策を構築するにあたって基本的にこの2つのレベルの津波を想定している。
一つは、住民避難を柱とした総合的防災対策を構築する上で想定する「最大クラスの津波」(L2 津波)。もう一つは、海岸堤防などの構造物によって津波の内陸への浸入を防ぐ海岸保全施設等の建設を行う上で想定する「比較的発生頻度の高い津波」(L1 津波)。なお、「津波浸水想定」は、津波防災地域づくりに関する法律に基づいて設定するもので、津波防災地域づくりを実施するための基礎となる。
想定では、釧路・根室地方では津波高は高い所で20mを超える。海岸沿いでは地震発生から数分後に浸水が始まる所もある。津波高の高い想定の詳細を見ると、釧路町では最大の津波高は4.8mから26.5m、海岸で20cmの浸水が始まる影響開始時間は2分から22分。厚岸町では最大の津波高は1.3mから20.2m、海岸で20cmの浸水が始まる影響開始時間は1分から33分。浜中町では最大の津波高は5.6mから20.3m、海岸で20cmの浸水が始まる影響開始時間は1分から15分となる。
道は、今回の津波浸水想定を基に、沿岸市町村では津波ハザードマップの策定や住民の避難方法の検討、市町村防災計画の改定などに取り組む。また「津波防災地域づくりに関する法律」に関しては、津波防災地域づくりを総合的に推進するための「推進計画」の作成や、津波災害警戒区域の指定などについても、今後、市町村と一体となって検討していく必要があるため、総合的な津波防災対策として、関係部局や市町村との連携・協議体制を強化していくとしている。
● コロナ禍のいま、「多重複合災害」化に想像力で備える
なお、本紙は2017年12月12日付け「雪害対策 今冬こそ『雪害犠牲者ゼロ』を」でサブタイトルを「最悪想定(極寒下の地震、津波)にも耐える防災体制を」とし、「地域防災の観点から、起こり得ないことではない“複合災害”を想定しておこう。それは降雪・積雪のもとでの地震や火災の発生など、さらには最悪想定として沿岸部での地震津波の発生だ。こうした複合災害が起これば、雪や氷は大きな被害拡大要因になる。降雪・積雪、寒冷のもとでの避難(津波避難も含めて)、避難所運営、救助救援・支援の困難さは想像するに余りある」とした。
そして、北海道で起きた1952年3月4日の十勝沖地震(M8.2)では津波に流された雪氷による被害も起こり、北海道開発局が2012年度に「雪氷期の津波沿岸防災対策の検討報告書」をまとめていることを紹介した。
コロナ禍のいま、「複合災害」は「多重複合災害」化するおそれがある。”想定外”には、まずは想像力で備えておくことが第一歩だろう。
〈2021. 08. 15. by Bosai Plus〉