Photo by くにろく
文・料理:大塚 環(本紙特約ライター/防災士)
山形県と秋田県の県境に位置する鳥海山は、山頂に雪が降り積もる姿が富士山に似ていることから別名「出羽富士」と呼ばれています。標高2236mの眼下に広がる素晴らしい眺望と山並みは、さすが「百名山」の美しさです。春には雪解け水が山を下り田畑を潤し、人々に多くの恵みを与えてきました。4月は水芭蕉やスミレサイシン、5月はムラサキヤシマオツツジやミネザクラ、シラネアオイなどの可憐な花が咲き、登山の人々の目を楽しませてくれます(鳥海山登山ガイド 鳥海国定公園観光開発協議会)。
一方、山頂には約1400年前の欽明天皇の御代に創建された大物忌神社が鎮座し、鳥海山が古来より「荒ぶる山の神」として天変地異を引き起こし、人々に畏怖され崇められてきたことが分かります。例えば、平安時代の貞観13年(871年)には新山付近で雷の轟のような音を立てる爆発(噴火)が起こり、火砕流や泥流によって河川が氾濫して堤防が崩壊しました(山形地方気象台ホームページ、以下HP 山形県の災害履歴 参照)。また享和元年(1801年)のマグマ水蒸気爆発の噴火は激しく、7月には新山溶岩ドームが形成されました。噴火を見に行った11名のうち8名が噴石に当たり死亡しています。7月15日には大雨による大規模な土石流が発生して河口まで流れた土砂が港を埋め、河川も濁って飲料水が不足しました(遊佐町HP 鳥海山火山防災マップ【噴火の歴史】参照)。
噴火だけではありません。鳥海山を含む出羽国(律令国の一つで現在の山形県と秋田県)では、江戸時代の文化元年(1804年)、マグニチュード(以下、M)7.0の「象潟(きさかた)地震」が発生しました。最大約5mの津波が家々を襲い、倒壊家屋は約5500棟、300~400人の犠牲者を出しています。明治27年(1894年)には庄内平野で「庄内大地震」(M7.0、最大震度6強)が発生し、崩れた住宅の下敷きや火災よって犠牲者が726名、負傷者1060名、住家被害は全壊3858棟、家屋焼失2148棟と悲惨な状況で、庄内地域では地面の亀裂や隆起、陥没や噴砂が見られたとの記録があります。
ところで、山形県では独自の気候と地域特性から起こる災害がありました。風が強く、砂地の町である酒田の「酒田火災」です。砂地であるがゆえに水利の便が悪く、江戸時代には500軒以上焼失する大火事が12回も発生しています。最後の大火事となったのは昭和51年(1976年)10月29日の「酒田大火」です。
最大風速は酒田で14.3m/s(メートル毎秒)、新庄では14.2m/sを観測したこの日、映画館「グリーンハウス」の本屋西側と映写室の一部を含む天井裏付近から火災が発生し(推定)、瞬く間に燃え広がって鎮火したのは11時間後でした。死者1名、負傷者1003名、焼失家屋1774棟、被災した市民は3300人にものぼり、激甚災害に指定されました。被災地一帯はまるで戦争の焼け跡のようでしたが、国や自治体が一丸となって「防災都市づくり」をモットーに区画整理事業を進め、2年半後に復興を宣言しました(「酒田大火40年 つなぐ、炎の記憶」酒田市立資料館 第199回企画展 ミニ図録 参照)。
●料理名:納豆汁(山形県)
山形県は人口110万1452人(平成29年10月1日現在)、13市19町3村を有し、置賜(おきたま)、村山(むらやま)、最上(もがみ)、庄内(しょうない)の4つの地域に分かれています。ブナ天然林は15ha(ヘクタール)と日本一の広さ誇り、縄文時代の遺跡を調べると当時も落葉広葉樹林に覆われた土地であったことが分かりました(山形県HP「山形県の紹介」参照)。
さて、山形県の成り立ちを語る時に忘れてはいけないのが「出羽国」です。出羽国は和銅5年(712年)に現在の新潟である越後国から分かれて建国され、4年後には陸奥国から最上(現在の村山、最上)、置賜の二郡が編入しました。
飛鳥時代から平安時代は奥州藤原氏、戦国時代は最上氏、江戸時代には上杉氏、直江氏、酒井氏、戸沢氏といった武将がこの土地を治めます。村山地域は北日本一の天領(江戸幕府の直轄領)だったそうですから、豊かなこの土地をめぐり多くの武将が戦いと政治的駆け引きを行ってきたのです。
ところで、豪雪地帯である山形県では冬の間の野菜不足、食料不足を補うため保存食作りが欠かせませんでした。その代表的な保存食の一つが納豆です。大豆を藁に入れて炬燵(こたつ)に1~2日間置くと納豆が完成します。すり鉢でよくつぶして野菜と一緒に汁にして食べる納豆汁は冬場に欠かせない山形の郷土料理です。様々なレシピがありますが、具がたくさん入っているレシピは農林水産省の「うちの郷土料理」 山形県納豆汁や山形市HP納豆汁です。私は山形県のアンテナショップ「おいしい山形プラザ」で購入した雪割納豆「ゆきんこ」を使って、パッケージの裏に書いてあるシンプルな納豆汁を作ってみることしました。
★栄養たっぷりで体もホカホカに
納豆は発酵食品ですので非常に消化に良い食べ物です。粒のままでも美味しいのですが、すりつぶして味噌汁に入れるとコクが出て食べやすく、健康な人はもちろん病気の回復期にもぴったりの料理です。今回使用した「ゆきんこ」は、置賜地方に伝わる保存食「五斗納豆」が原型になっている商品だそうです。五斗納豆はすりつぶした納豆に米麹と塩を入れて発酵熟成させたものです。長期間発酵させたために旨みが強く、甘みが出てくるのが特徴です。私は「ゆきんこ」をすりつぶし水で溶き、火にかけて自家製味噌と小松菜を入れて納豆汁を作りました。「ゆきんこ」や五斗納豆を使う場合は塩気が強いので味噌の量は少なめに仕上げるといいでしょう。一般的に多く売られている納豆は味がついていないため味噌を多めに入れて味を調整してください。
納豆はイソフラボン(ホルモンの正常化や免疫力アップ)、レシチン(疲労回復効果)に加えてたんぱく質やカルシウムも豊富です。栄養価が高く、体がホカホカと温まる納豆汁を食べて免疫力をアップしましょう。
〈2021. 05. 07.〉
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