「ひかり拓本」で先人の災害教訓を記録、未来防災に活かす
石碑に触れないで、光で摩耗した文字などを読み取る
――自然災害伝承碑のデータベースを拡充する
国土地理院では、「災害への『備え』」を支援する取り組みとして2019年度から「自然災害伝承碑」(過去に起きた自然災害の規模や被害の情報を伝える石碑やモニュメント)の情報を自治体などと連携して収集を開始し、集めた情報は新たに定めた地図記号とともに国土地理院のウェブ地図「地理院地図」や2万5千分1地形図に掲載している。地理院地図に登録された自然災害伝承碑は約600基あるが、「登録された碑の数はまだ一部」とみられている。
いっぽう、風化した碑文を復元し、判読可能な画像でアーカイブすることを目的とする「ひかり拓本データベース」プロジェクトが、東北大学災害科学国際研究所などの研究者グループを中心に進行中だ。
「ひかり拓本」とは、石碑の表面に刻まれた文字・文様などを、光源を変えて撮影した写真を合成して浮かび上がらせて、判読できるような画像にする技術である。これまで写真では判読がむずかしかった碑文や、拓本でははっきりとしない摩耗した文字なども、「ひかり拓本」によってはっきりと読み取ることが可能になるというもの。
この技術は、上椙(うえすぎ)英之・国立文化財機構奈良文化財研究所埋蔵文化財センター・アソシエイトフェロー(情報考古学)が開発した。ハンディーライトの角度を変えながら伝承碑に光を当て、三脚で固定したカメラのシャッターを切ると、ノートパソコンに写真データが送られ、解析ソフトが碑文の影だけを抽出する。所要時間はわずか数分で済み、従来の拓本の手法である碑面に湿った紙を張り付け、墨を使って写し取る方法と比べて簡便で、石碑に触れないので汚損する心配もない。
東日本大震災の大津波からの教訓として、「これより下の土地に家を立てるな」と刻まれた碑が注目されるなど、先人が残した碑文=教訓のアーカイブ化は貴重なものとなる。上椙氏は東北大学災害科学国際研究所と共同で、津波災害の碑文のデータベース化に取り組み、現在は東北の被災地からさらに範囲を広げ、洪水や噴火、台風などに関連する伝承碑の記録にも範囲を広げている。
〈2021. 04. 16. by Bosai Plus〉