グリーンランドの氷の減少(アニメーション)

『災害をいなし、すぐに興す』
一気呵成「環境防災立国」へ?

気候危機宣言、カーボンニュートラル宣言、
気候非常事態宣言 が起こす”防災大変容”?

【 “継続”新政権の新機軸――官民あげて環境防災への「変容」 】

●『気候変動×防災』の三位一体――防災士にも新たなテーマ・課題を提起

 内閣府(防災担当)は去る6月30日(安倍晋三政権のもと)、「気候変動×防災」に関する武田良太内閣府特命担当大臣(防災)(当時、現 小此木八郎)・小泉進次郎環境大臣(留任)の共同メッセージをとりまとめ公表した。
 想定を超える気象災害が各地で頻発し、気候変動はもはや「気候危機」と言える状況のなか、気候変動リスクを踏まえた抜本的な防災・減災対策が必要とし、共同メッセージを、気候変動対策と防災・減災対策を連携して取り組む戦略「気候危機時代の『気候変動×防災』戦略」と命名した。これは、2020年2月から内閣府(防災担当)と環境省が連携し、有識者を交えて「気候変動×防災」という視点に立った政策に関する意見交換会を実施、社会的課題も俯瞰的に捉え、SDGs の達成も視野に入れたものだ。

P2 2 「気候変動×防災」国際シンポジウム(2020年6月30日、オンラインで実施)のちらし - 「気候変動x防災」<br>――気候・環境対応への「変容」
2020年6月30日にオンラインで開催された「気候変動×防災」国際シンポジウム。同シンポジウムには、水鳥国連事務総長特別代表(防災担当)兼国連防災機関(UNDRR)ヘッドによる基調講演のほか、小泉環境大臣、武田内閣府防災担当大臣(当時)、有識者によるパネルディスカッションが行われた

 「気候変動×防災」戦略のポイントは次の4点としている。
① 気候変動×防災の主流化
 各分野の政策において、気候変動と防災を組み込み、政策の主流に
② 脱炭素で防災力の高い社会に向けた包括的な対策の推進
  被害を最小限にする、被害を受けてもより強靱で魅力的な回復をする、弾力的かつ安全・安心で持続可能な社会、いわば『災害をいなし、すぐに興す』社会をめざす。
 災害からの復興は、気候変動への適応を進める「適応復興」を基本とする。
③ 個人、企業、地域の意識改革・行動変容と緊急時の備え、連携の促進
  自助・共助の意識を持って自宅、職場、地域の災害リスクを認識し、避難などの行動を確認するよう防災意識の向上を促す。
  地域や職場で、防災の知識や行動を共有する活動に取り組み、これまでの経験では想定外となる気象災害の激甚化も念頭に、コミュニティや企業を災害に強くする。
  防災の取組みや災害時の対応の効果を高めるためには、あらゆる主体が連携・協力して取り組む意識を醸成するべき

 ――まさに、防災士の活躍の場をさらに広げる方向性である。
 さらに国際的には、パリ協定(2020年以降の温室効果ガス排出削減等のための新たな国際枠組み)、仙台防災枠組(第3回国連防災世界会議仙台で採択された2030年までの国際的な防災指針)およびSDGs(エズ・ディー・ジーズ=国連が採択した持続可能な開発目標)を「『気候変動×防災』の三位一体」として同時達成をめざす。

●菅政権の”新機軸”「2050年カーボンニュートラル宣言」

 いっぽう、菅 義偉(すが・よしひで)新首相は10月26日に開会した臨時国会の所信表明演説で、国内の温暖化ガスの排出を2050年までに「実質ゼロ」とする方針を表明した。首相就任後初めての所信表明の目玉として内外にアピールすることを狙ったもので、国連事務総長・アントニオ・グテーレス氏から「菅首相の表明に勇気づけられた」などの喝采が送られるなど、安倍政権の継承をうたった菅政権でありながら、新機軸を演出した。ただ、この「2050年カーボンニュートラル宣言」は、実は安倍前首相時代から政府・経済産業省内で着々と準備を進めてられていた既定路線で、実は”継承”の実態は変わらないという評価もある。

P1 グリーンランドの氷の減少(アニメーション) - 「気候変動x防災」<br>――気候・環境対応への「変容」
NASA「Earth Observatory」より、上の地図(サイト上ではアニメーションで経年変化を可視化)は、2002年から2016年までに測定されたグリーンランド氷床全体の質量損失を示す。この期間中、氷床は年間約280ギガトンの氷を流し、世界の海面を年間11.2mm、またはおよそ0.8mm上昇させた。グリーンランドは氷を失い続けていて、2019年夏、島は600ギガトンの氷を失った。これは2002年から2019年までの平均年間損失の2倍以上となる

>>NASA Earth Observatory:Taking a Measure of Sea Level Rise: Gravimetry

 わが国の温暖化ガスの排出対策については、国際世論の高まりもあり、いわば外圧で対策に本腰を入れざるを得なくなっていた。また、脱炭素戦略がないと、海外からのESG投資に逃げられるという産業界からの突き上げも経産省を動かした。20世紀末にわが国は技術力でも環境先進国だったが、21世紀に入って火力発電の温存など環境目標の設定などで出遅れ、企業も競争力を失った。菅首相は環境を「成長の柱」と位置づけて次世代産業の育成を支援する方針だが、対外的な意味合いでも、「『気候変動×防災』の三位一体」が戦略として大きな役割を果たすことになるだろう。

●「気候非常事態宣言」――自治体で続々、超党派国会決議も

 異常気象による災害の多発を受けて「気候非常事態宣言」を公にして緊急行動を呼びかける自治体がわが国で増えている(2020年11月1日現在、46自治体 *編集部調べ)。世界ではすでに1000を超える自治体が「気候非常事態宣言」を出しているというが、日本でも自治体としてできることを進めつつ、住民や他の自治体にも行動を呼びかける動きとして「気候非常事態宣言」が広がっているのだ。

 これに対応して、持続可能な社会をめざす交流会・イーズ未来共創フォーラムでは気候非常事態を宣言した日本の自治体や各種団体を紹介するサイトを開設している。

>>イーズ未来共創フォーラム:気候非常事態を宣言した日本の自治体

 また、「気候非常事態ネットワーク」(Climate Emergency Network=CEN)という組織が来たる11月18日に設立総会、同25日に設立記念シンポジウムのオンライン開催を予定している。CEN(発起人代表:山本良一・東京大学名誉教授、更家悠介・サラヤ株式会社社長)は、自治体の脱炭素の動きを支援しようという有識者や経営者のネットワークで、「脱炭素実現に向けた行動計画の策定と実行を後押し」しようという組織だ。

>>「気候非常事態ネットワーク」(CEN)設立のお知らせ

P2 1 日本で最初のCEDシンポジウム「ゼロエミッション都市と気候非常事態宣言」(2019年12月6日)のちらし - 「気候変動x防災」<br>――気候・環境対応への「変容」
日本で最初のCEDシンポジウム「ゼロエミッション都市と気候非常事態宣言」(2019年12月6日)のちらし(「CED」は「気候非常事態宣言」で、Climate Emergency Declaration の頭文字)

 さらに、国会決議を目指している超党派の議員連盟が、今臨時国会中に衆参両院で「気候非常事態宣言」の決議をめざすとしている。同議連は、自民、公明、立憲民主、国民民主、共産、日本維新の会の議員約40人で設立され、「政府だけでなく、国会もその意思を示し、国民に広く訴えたい」としている。
 温暖化を阻止することはもはや世界の趨勢であり、国益に直結するとなって、ここに来てわが国は、官民あげて一気呵成に環境防災に向けて邁進する。防災が一気呵成に前進するのであれば、この「ニューノーマル」を歓迎したい。

〈2020. 11. 15. by Bosai Plus

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